009//閑話1
雇い主の思い付きで世界一周旅行へ出掛けて、最初の国で死にかけた。
そんなこんなで此処はグールの家。
一応夕飯だけは近くの人里でゲットしてきたが、独り暮らしの小さな家に4人分の寝具などある筈もなく。
「考えんでも解るやろそんなん。そもそも場所がないわ」
木製の平屋、部屋数1。
人喰いの村とかがあるわけではなかったらしい。フツーに人里から少し離れたところにポツンと建っていた。
あそこは人喰いのお家だよ、なんて里では語られているが、結局誰も真偽は知らない──そんなお伽噺みたいな感じかもしれない。
因みに里には宿は無かったので、グールの家に泊まる以外選択肢は本当になかった。
「で、どないするん」
寝るスペースの話に戻る。
「仕方ないのでテントを張ります」
グールの首輪を召喚した時にあちらのものを取り出せるのは判明済だ。思い出してみれば最初に試験管とか取り出せてるからいつの間にか思い込んでただけらしい。
簡易テントを召喚して、グールに適当に自己紹介をして、各々適当に時間を潰し始めた。
「やっほaさん、星キレイだね」
「そうだねぇ」
テントを張る予定の場所で、aが呆っと空を見上げていた。
「なんだい、惚けっとしちゃって。お疲れ?」
「考えたら今日、死にかけたんだよなぁって」
「そうだね…」
あいつの所為でね!
でも生きてる。
「初めて死にそうになっちゃった」
「ありゃ。それで落ち込んでんのかい」
「落ち込んで…違うな…あいつちょっと凄いかも! って、思ったらなんかさ!」
「あー、あらそう…」
考え込んだかと思えばキラキラした眼で顔を上げて、拳を握っている。
「物理的には無敵のaさんでも、精神属性には弱いって事かね」
「む。まだ修行が足りないわ」
「うむ、人類日々進歩。精進を怠る事無かれ」
「おし。じゃあ訓練するか! 付き合え!」
「ぐぁ、そうなるか」
お断りしたい処だが、死にかけたのも事実で。
「うん、じゃぁえっとぉ、ほどほどにね?」
ひとりで身体を動かしているaを横目に星を見る。Kは訓練から離脱しました。そもそもKは兵士じゃないんだよ。
それにしてもこの大自然。大気の澄んでることといったら!こんな景色、探せばニホンにもまだあったりするんだろうけど…。
新鮮、だなぁ。
ちょっとゴロンと寝転がってみる。
遥かな空に思いを馳せる。この星のどれかはチキュウかも知れないし、帝国かも知れない。
「郷愁か」
「―っ、」
声に驚いて目を開けると、タクちゃんに覗き込まれていた。
「~…タクちゃ~ん…吃驚するから」
「それは悪かった。それなりに驚かせようとは思ってるからな」
「思ってたんだ!!」
しれっと真顔で言ってのけるからますます吃驚する。
「で、何かあったのか?」
「ただ星見してただけだよ、大丈夫」
「なら良かった」
aはこちらに気付いていない。心配が要るのはaの方だ。
「?」
「ううん、ありがと」
タクちゃんはひとつ頷いて表情を緩めた。
「調子はどうだ」
「うん、明日はね、えー…なんつったかな…イェソド、うん、イェソドとかいう国行くんだよ」
「成程。テマーネは始まったばかりだな」
「そう。だからさ。えーと」
一旦区切って言葉を探す。
「えーと、ちゃんと見ててね!」
「勿論。お前達が抗い続ける限り、最後まで楽しませて貰おう」
返ってきた微笑が想像以上に殺傷力が高くて。
「おう! じゃあ安心だね!」
その一言を出すのにも苦労した。
「ところで、玄獣の扱いには慣れたか?」
「うん? 今の処そう困った事はないけど―」
フェニックス君の奔放さには多少手を焼いているけれども。多分そういう話じゃない。
「少しレクチャーしてやろう。最も大切なのは同調だ」
「しんくろ」
「同調率が上がる程術の消費エネルギーが減少する。命令伝達ロスも減るから全体的に効率が上昇するわけだ」
「にゃるほど。で、肝心の同調の仕方は」
「それは自分達で探してみろ」
簡単に極意を教えてくれるほどタクちゃんは甘くなかった。
タクちゃんも去って暫くして、グールがKたちを呼びに来た。
「おい。アイツが呼んどんで」
「あ? うん。なんて?」
「さー知らん。呼んでこい言われただけやし」
…態度悪。
「あん?」
思わず声が漏れたか、それとも表情に出過ぎたか。
「べーつにー」
「声はかけた。早行けよ」
「へぃへぃ」
aにも声を掛けて、シールの元へ戻った。
「明日の予定も立ったし、暇になったね」
「ならもう休め」
呼び戻された理由は予定の確認で、買っておいた夕飯を食べながらミーティングを済ませた。テントも張り終えてるし夜の風景も堪能したし、この後をどう過ごそうかと声を掛けたんだけど。
「む、無碍だね…」
「慣れない環境は知らず体力を削ってるもんだからな。休息は十分にとっておけ。後に響くぞ」
「あぁ、そういう…」
にしたって何かもっと言い様ってモノがある。ちょっと吃驚してしまったじゃないか。
「?」
「ああいや何でもないよ。じゃそろそろ休もうかね」
因みにテントはひとつ。aとKが一緒に寝る。
シールは当たり前のように家主のベッドに腰掛けてるし、布団が固いだのなんだのケチをつけていた。間違いなくグールは床か椅子で寝る羽目になるだろう。
可哀想だけどグールが使えそうなサイズの寝袋とか持ってないし、毛布とか渡してもシールの敷布団になるだけな気がする。
幸いケテルと違って陽が落ちたら死ぬほど寒くなるわけでもない。がんばれ。
こうして旅の一日目は終わった。
明日は朝から出発予定だ。
もう死にかけるようなことは起きない…と、思いたい。
風に揺れる草の音を子守唄に、意識はゆっくりと沈んでいった。
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