006//テマーネ

「てまーね?」

昼食の後、その話は前振りなく始まった。

「何それは」

aの部屋へ向かう廊下で、二人してオージサマを振り返る。

「テマーネ。この世界を決まった順路で一周する事だな」

「世界一周旅行? いいね、ヒマだったんだ」

「世界一周って…何日掛かんのよ」

aが冷静につっこむ。何日でも。ヒマが潰せるんなら望むところだ。

「でもほら、時越え出来るから。え、使っちゃダメとかないでしょ?」

台詞の途中で驚いちゃったシールを振り返って問う。

「あぁ。そんな制限は聞いた事はないが…」

じゃあ何さ? aを振り返る。aも首を傾げている。少しだけ困惑した様子だったシールはやがて「なんでもない」とだけ言って話を戻した。

「そうだな。時越えが使えるなら簡単だ。ケテルを入れて十国廻ればいいんだ。十日もあればいいだろ」

ふーん…って…ということは。

「ホントにこの世界国十コしかないの?」

「そういうことになってるな」

あ、そう。


ここ数日は図書館に籠って世界の勉強もしてたんだけど、このセフィロートは大体チキュウと同じ程度の星だと思われる。陸地面積もたぶん大体同じ。でもチキュウみたいに割れてなくって、小さな島を覗けば全て一続きの大陸らしい。で、その広大な地を、たった十の国が治めてる。違うな。正しくは、その広大な地が、たった十の国にしか分かれてない、かな。


統治者のいない土地、最南の国マルクト。

法と宗教の支配する技術大国、イェソド。

女性上位の熱帯の国、ネツァク。

月を崇める神秘の眠る国、ホド。

世界の中心に位置し最も栄える商業国、ティフェレト。

岩と砂漠の続くケテルの従属国、ゲブラー。

神を忘れた医療先進国、ケセド。

巨大な塔が聳え立つ魔術師の国、コクマ。

穏やかな海に抱かれた国、ビナー。

そして、全国に対して強大な影響力を持つ武装大国、ケテル。


驚くべきは、この全ての土地で言語が共通であるという事。思考や言い回しは異なるにしても、大体のところ話が通じるという。つまり方言程度にしか違いがないのだ。その点で言えば世界旅行も比較的容易いだろう。


「いいじゃん。じゃあやろうよそれ。ねぇaさん」

「うん、いいんじゃない? あたしは時越えなんて出来ないからK一人で頑張ってね」

うわ。

「旅の内にaさんも覚えてよね! 疲れるには疲れるんだから!!」

そう! 時越えを、マスターしたのである。この短期間で! Kすごくない!? すごいんだよー!

「あ」

ふと思い至りシールに目を戻す。

「心配してくれたんだ」

シールはまだKが時越えマスターしたって知らなかったから、この前の惨状を思い出して心配してくれたのかもしれない。

「ああ、よかったな」

やっぱり可愛げのない無表情でさっぱりと認めて、すっと話題を戻した。もうちょっと照れてくれれば楽しいのに。

「そうだね、やるにしてもいついく?」

aが切り出す。

それもそうだけどその前に。

「てか何するの? …どうするの? っつーか」

「あぁ、」

忘れてたと言わんばかりに顔を上げてシールが答える。

「各国のターミナルに寄っていくだけだ。テマーネを遣り終えたものには何かしらの恩恵があるというぞ」

恩恵ねぇ。

「ターミナルって何?」

横からaが尋ねる。Kが図書館通いしてる間、aは訓練所で楽しんでたもんね。

「ターミナルってのは、ワープゾーンみたいな奴だよね」

シールに確認を取る。

「…あー、各国に一づつある古代の遺物だ。どういった物かは実際見た方が早いだろ」

「そうだね。じゃあいこ。すぐ行こ。今行こ」

思い立ったが吉日ってやつだ。

「ならさしあたってはマルクトだな」

「マルクト、ね。なら場所は解ってるし、よ、と」

そのまま、通りすがりの窓を乗り越えて空へ飛び立つ。

大丈夫、墜落死はしない。フェニックス君に飛び乗っただけだからね。

aが一人だけ何にも解んないって顔してたけど、とにかく遠くの空へ向かって飛び発った。

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