005//閑話0

転移実験で事故って異世界へ辿り着き、召喚のカミサマにご加護を貰って、オージサマを助けた。

そんなこんなでお城に厄介になることになった。




「うん。とってもファンタジー」

ここ数日は図書室に入り浸って映像資料を漁っている。喋る聞くは問題ないが、どうやら文字は読めないらしい。おかげで本は読めないので、映像資料なんてものがあって助かった。とは言え貴重なものらしく、数はない。なので大体見尽くしてしまった。因みにビデオや光学ディスクのようなモノではない。魔法的なもののようだ。

この世界は、ファンタジーと聞いて想像するような、剣士が居て竜も居て魔法があって自然豊かで…という世界観で凡そ間違っていなさそうだ。城内の灯りは炎だし、街並みも現代的ではない。けれど。とてもラッキーなことに、上下水道は整っているっぽい。城も街も清潔。変な匂いしない。素晴らしい!あと、ガラス技術も発展している。グラスもあるし、窓にはちゃんとガラスが填まっている。それからそれから、お風呂…というかシャワーだが、とにかく身体をお湯で洗う習慣もある。取り敢えず最低限現代っ子が求める下地は整っている。当面生活していけそうだ。

生活に安心出来たら、次に求めるものは娯楽だ。映像資料を見尽くした今、早急に次の娯楽を見つけたい。aはというと城の軍用施設でイキイキ訓練に精を出している。顔見せに行って巻き添えを食うのは勘弁したいので…さてどうしよう。Kと同じく暇そうな、雇い主を誘ってみよう。



「お、シール居た」

「暇そうだな」

「暇ですとも!!」

人の顔を見るなり状態を看破してきたオージサマは、Kの返事にひとつ頷いた。

「残念ながらこっちも暇を持て余してる。与えられる仕事は無いぞ」

「あ、じゃあ丁度いいじゃん。構って」

「何する?」

お。意外と乗り気。

「うう~む、じゃあ城内散歩でもしようよ。城案内だと思ってさ」

「じゃあ行こうか。覚悟できたな?」

「え? さ、散歩だよね…? 普通そこに覚悟ってのは要らないような気がしてますけれども」


そんなこんなでただいま宰務室にお邪魔しています。

「音立てんなよ」

「………」

正しくは、忍び込んじゃった、なんだけど。

「………多分この辺に…」

ぶつくさ言いながら机回りを漁り始める。

「ち。鍵掛けてやがる」

「なんだかよく解んないけど…」

とりあえず針金を差し出してみる。

「使えるなおまえ。ありがたい」

「何か知らないがさっさとやっちゃえ」

針金で鍵を開けるのはそれなりに技術が要ると思う。だというのにこのオージサマときたら

「開いた!!」

開けてしまった。ピッキングスキル持ちのオージサマっていうのはどうなんだろう。

「よし、行くぞ」

中から何か取り出すと、迅速にその場を立ち去った。


「で、それ何」

「………」

あからさまに目を逸らすシールの手には、小さな包みに入った数粒の珠。

「見た通り、ただの飴玉だ」

「ただの飴玉没収した上にわざわざ鍵まで掛けてしまって置くのか、ここの宰相さん」

「そのようだな」

「例えば宰相さんが甘い物好きで高級菓子を仕舞い込んでいた。で、いたずらっ子なシールちゃんが盗みに行った」

「………」

「とかなら『わお意外!』で済んだかもだけどね! シールが普通に飴持ち歩いてて没収されたってのは意味解んないよ~? 頷いちゃったもんねぇ、没収されたんだって。持ち歩いてるのも盗みに行くのもシールにとっては恥ずかしい事だと思うから、とっさに恥凌ぎの嘘吐いちゃった、なんて風には思えないしね」

一気に捲し立てる。だめ押しにもうひとつ。

「針金役に立ったよね!」

「………チ」

うわ。このオージサマ舌打ちした。

「『エイルニルスの実』」

「はえ?」

「そう呼ばれるものだ。水や酒に溶かして希釈して使用する」

「効能は」

「体内の魔力を変調させて恍惚状態を得る」

「え~と…合法?」

「西の方ではまだ」

「まあ効果とか知らないから何とも言い難いけど。常習性がある様なのは止めといた方が良いよ?」

「別に俺はやっちゃいないが」

「え、そうなの」

「俺そういうの効かねぇし」

「へぇ」

って事は一応何度か試した事あるんだね。

「ならそれは?」

「これは正規の実じゃなくてな」

「と言うと」

「俺が作った」

「へ?」

「俺の領地に生えてた木の実から、外見上そっくりなこの『実』が作れた。効能は多少異なるが、本物に比べ些か不安定だ」

「へ、へぇえ。凄いねシール」

麻薬の自家製清とか素人が手を出してはいけない。

「で、効能は?」

「試したところ一時的な魔力上昇と極度の昂揚感が得られるようだな」

「あれ、試したって、効かないって言ったじゃん」

「宰相の茶に混ぜた」

「で、バレて没収かい…」

「何故かバレたな」

や、フツー。普通にバレるってそれ。

「お前さん意外にやんちゃ坊だね…。で、取り返したって事は?」

「ちょっと調べたい事もあるからな。まあ付き合せて悪かった」

「んにゃ。暇潰し願い出たのはこっちだからね」

オージサマの意外な一面と危険な趣味も知れましたしね。

それはともかく…

「Kそういうの超好きなんだよね! 絶対役に立つって! 手伝わせて!」

「そうだな、共犯者が一人くらい居た方が良い」

「やったー!! 楽しみー♪」

Kの持つ科学知識がどれほど通用するかまだ解らないけど、今のところ凡そ通用するだろうと見ている。

さてまだまだ時間がある。

「そうだ、折角だから街案内もしてよ。どっか綺麗な場所か美味しい場所か…」

そう振ると、シールは難しい顔で黙りこんだ。

「………………」

瞳が一定感覚でキョロキョロとさまよう。脳内検索に何も引っ掛からない、そんな様子だ。

「解った、じゃあそれを探しに行こうね」


「あ、おい。そっちは駄目だ」

城下を探索中、シールに行く手を阻まれる。

「ほえ? あの丘気持ち良さそうなのに」

城下からは出てしまうが、先には広々とした丘が見えている。折れた白い石柱が乱立している。遺跡か何かかもしれない。

「あの丘は玄獣達の棲家だ。立ち入りは制限されている」

「へえ。そうなんだ、了解。…でさ、結局玄獣って何?」

ちらちら聞く単語だけど、明確に意味を知らないままきてしまった。

「玄獣は玄獣。お前達が使役するような奴らの総称だ。召喚獣とでもいうのか」

「成程。フェニックス君とか青龍ちゃんの事ね。そういえばさ、シール青龍ちゃんの事何て呼んでた? あれ種族名でしょ?」

「あいつの使う青い龍ならコルードだ。お前の朱い鳥はファイアードレイク。各属性の上位を占める召喚獣だと聞く」

「へぇえ、そうなんだ。凄いんじゃん?」

「そうだ。だから雇った」

しれっと言われて反応に迷う。

「ご期待に添えますかどうか」

添えるといいんですが。



探索から戻ってシールと別れた。部屋に戻る途中、中庭で走ってるaを見つけたので声を掛ける。

「…何してるの?」

「気晴らしに体動かしてた。あんまりじっとしてると鈍りそうだし」

「動かないとって…aさん、第二師団入ったよね? …訓練あるんじゃない?」

aはガックリと肩を落とす。

「それがねー。遊びに来てた子供と試合させられてさ。無茶苦茶強かったんだけど、勝っちゃったら誰も訓練相手してくれなくなっちゃって。スピアさんにまで訓練参加免除されちゃったんだよね」

「こども?」

「アタシたちよりちょっと下くらいの。こっちに来てから初めて見る様な真黒髪でさ。結構可愛いんだけど、かなり強かった」

「ふ~ん」

aが満足したんならそりゃ強かったんだろう。けど、こども…?

「で、スピアさんて誰」

「ほら、王様と会った時隣に居た人」

「あー、あの黄色いの」

シールに連れられて王に会った時、傍らに控えてた近衛兵か。うん? あの時、シールは王のことを代理だとか言っていたような。まぁ今はそれはいい。

「それよりどうせなら訓練付き合わない? 訓練所の使用権は名実共にモノになってるから」

「うわあ、aさん楽しんでるね。おことわりします!」

それが嫌で声をかけなかったんだった!



「K。居場所を見つけたのか」

「うん、一応ね。ちゃんと働いてるよ」

お部屋に戻るとカミサマが居た。吃驚したけど、フツーに話しかけてきたのでフツーに返す。

「帰る術も探さなくちゃいけないから、拠点は持っといた方が良いと思ってさ」

「そうか」

なんだか遠くを見るような顔でこちらを見ている。

「タクリタン? どうかした?」

「なんでもないよ」

ふ、と。風に揺れた灯のように

「………消えちゃった」



そうして徒に日は過ぎて。

遂に、シールがその話を持ってきた。

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