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「ん、と!aさん、もう大丈夫。行こう」

跳ねる様に身を起こしaに駆け寄る。少年は後からゆっくりとついて来た。

「此処からなら歩いていけるんでしょ?」

フェニックス君は王都迄飛ぶと言っていて、少年はそこが目的地だと言っていた。

「ん??」

だというのになんだか皆微妙な表情だ。

「マスター、それですけど…。――おい莫迦者。あんたから説明しなさい!」

青龍ちゃんこわい。

「だーかーらぁ…、悪かったってばよ…。あのな、時越えはすげぇ精神力と体力喰うんだよな。かなりの距離を一瞬で詰めるわけだからな。言うなれば上級者向けだ」

時越えとは何か訊こうとはした。うん。全然間に合わなかったけど。

「で、つまりぃ、このままトビ続けると術者が違うトコ着きそうだったから……」

えー、つまりぃ…

「K死にそうだった上、此処まだ目的地じゃないんだ!?」

フェニックス君は爽やかに答える。

「そゆこと。まあ早くLv上げろって話だよな!」

「「「お前が説明無しで突っ走んなって事だ!!!」」」

「―――――――っ、うるせえなぁ」

見事にハモった。

「― はぁ。通常飛行は大丈夫なんだよね?」

「あー」

「青龍ちゃん!!」

曖昧な音しか発さないフェニックス君では全然信用できないので青龍ちゃんに助けを求める。

「ええ。必要とする精神力はほんの微量ですから、待機状態と同等です。消費より回復の方が早いでしょう」

――――失敗したかなぁ。

守護獣の交換を今更悔やむが…

「…………」

いや、でも、やはり鳥さんは良い。

Kはどうやら面食いらしい。



―バサッ

赤い鳥と青い龍は並んで空を行く。

さっきまで居た大草原と比べると此処はかなり冷える。まあそこから飛竜で数日分北と言っていたし、上空なら尚更だ。

「そういえばさ、名前教えてよ。それはaさんだよ。乗ってるのは青龍ちゃん」

少年に向かって大声で紹介する。少年に声を伝えようとしているのだが、aには無線通信機で直通な為かなり煩かったようだ。盛大に顰めっ面で返された。

「アレはバカだよ。乗ってるのもバカ。バカ+バカで救いがない」

「わあ。K、ケイだよ。Kとフェニックス君ね!」

aは俯き気味に手をヒラヒラさせている。

少年が少し身を乗り出して前方のaに尋ねる。

「お前は何処までが名前だ?」

「アタシ? a。ア、ラ、ね」

ふーんと頷いて会話を終了させてしまった少年にもう一度叫ぶ。

「だから、名前は?」

「あぁ…、シルータだ。シルータ・エケルット・マディメ」

「長」

aが素直な感想を述べた。

「ああ。フルネームで呼んでくれていいから」

「悪いね、もう忘れた」

飄々という少年に、aも悪びれずに告げる。

「シルータ・エケルット・マディメ」

「無理」

努力もない。

「あ、シールさん。あれ家じゃない ?シールん家じゃない?」

見えてきた建物に期待を込めて指を指す。

「シール?」

「うん?」

自分が呼ばれてると認識できず流しかけた少年が妙な表情で聞き返してきた。

「シルータ」

「だってシルーは言い難いじゃん?」

「シルータ」

「解ったって。で、あれ、シールん家でしょ?」

もう一度、眼下を指して尋ねる。

「………」

「諦めた方が」

aは同情を込めた眼差しをシールへおくる。

不服そうに俯いたままのシールに、三度目の問いを投げる。

「だから、あれ…」

「――あぁ、そうだ。駐翼場がある。そこに降りろ」

気を取り直したのか観念したのか、彼はKの指す先を確認して肯いた。

「やった、びんご!」

Kが指す先、そこには、いかにも『城』といった感じの、豪奢で巨大な建築物…というか、小都市、があった。



その後をざっくり纏めると、案の定シールはオージサマでK達はスカウトされて軍籍に身を置く事になった。

『オージサマの命の恩人』という立場は強大で、行動の自由を雇用の条件に据える事も出来た。

賓客棟に一人一室を宛がわれ、これで衣食住に困る事はなくなったワケだ。

「それにしても、一人一室…。aさんと同じ部屋が良かったよー」

「アタシはいやだよ」

Kは慣れない処で一人なんて不安すぎるのだが、aは満喫する気らしい。流石強い。

「ああ、お前らは南の文化圏か。北方ではプライベートに厳しいんだ。諦めろ」

「何が? 北とか南とか、何の話?」

「うん。世界の常識については丁寧に宜しく」

怪訝な表情のシール。

「えーと、今朝方この世界に来たばかりです」

「…おまえら、マルクト・ターナか」

「あ、そう。タクちゃんもそんな事言ってた」

信じないかとも思ったが、シールは意外とスムーズに受け入れた。

非常に面倒臭そうな雰囲気を出しつつ、シールは説明をくれた。表情が読み辛いくせにこういう雰囲気だけはしっかり伝わるな。

「おまえらに遭ったのがマルクトの地、最南の地だ。ここがケテル。最北に位置する国だ」

ふんふんとaと一緒に大人しく頷く。

「北の民と南の民では物の根本的な考え方が大きく異なる。例えば今言ったみたいに“個”についてや“性別”について」

「どういう事?」

aが首を傾げる。

「…あー…つまり…なんだ。性別やなんかの区別は南から北に行く程薄れていく。ただ“個”の区別だけは強まっていくってことだな」

なら例えば、同性のカップルが普通に居たりするんだろうか。まだちょっとよく解らない。

それはともかく、結局一人部屋は譲れないということで。

「わーん、ひとりは心細いよー」

「我慢しろ」

aは一人部屋にご満悦みたいだ。


とにもかくにも。

幸運にも当日の内に生活の基盤を確保できたわけだ。これから、帰還の術を探し出さないといけないワケだけど…。うん。意外と。なんとかなるような気がしてきた。

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