役立たずを奈落に落としたら探偵がしゃしゃり出てきた。

@Jbomadao

役立たずを奈落に落としたら探偵がしゃしゃり出てきた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「山下くん!」

「ダメだ! 夏樹! もう助からない!」

「離して! 山下くんが!」


 奈落の底へと落ちていく山下を助けようと、必死に手を伸ばす夏希。

 しかし、最早手遅れ。山下はそのまま奈落の底へと消えていった。


「山下……くん……」


 絶望の表情を浮かべ、夏希はその場に座り込む。



 県立都或高校けんりつとあるこうこうの一年B組の生徒たちがこの世界に召喚されたのは三週間前に遡る。

 魔王を倒す勇者として召喚された当初は、異世界召喚などと言うイベントに盛り上がっていた生徒たち。

 だが、それも目の前の非情な現実により打ち砕かれてしまった。


 実践訓練として訪れたダンジョンにて、生徒の一人のミスにより転移のトラップが発動してしまったのだ。

 飛ばされた先は、巨大な石造りの橋の上。その下は巨大な闇が広がっていた。

 さらに、追い打ちをかけるように、モンスターコールが発動。

 様々な魔物が襲い掛かってきた。

 中でも脅威だったのは、後方に現れた巨大な猪のような魔物。

 歩くたびに橋を揺るがすほどの重量により、一同を恐怖に陥れた。


 このままでは全滅は免れない。

 騎士団長に即時撤退を促され、一同は出口目掛けて逃げ出した。

 その中で、殿を務めていた山下が魔物たちの足止めを買って出た。

 山下のスキル“障壁”に阻まれ、大猪は立ち往生。

 その隙に安全圏まで逃げ延びた生徒たちは、一斉に魔法や飛び道具で大猪を攻撃。

 これで撃退できるはずだった。


 ――しかし、事件はその時起こった。


 怒り狂う大猪が暴れた所為で、石橋が崩壊を始めたのだ。


「山下くん! 早く逃げて!」

「わ、分かった!」


 障壁を解き、離脱する山下。

 だが、大猪は崩れた橋から必死に這い上がろうと、さらに暴れまわる。

 それを見ていた生徒たちは恐怖のあまり、山下がいるのも忘れて、必死に攻撃を始めた。


「ひ! ひいいいいい!」


 頭を抱え、情けない悲鳴を上げながら逃げる山下。

 そんな山下を救出に向かう夏希。


 ――それを見て、一人の生徒の心がどす黒く染まった。


(な、夏希……あんな、山下如きの為に、危険を省みないなんて……! 許せねぇ!)


 少年――堀川は山下を助けようとする夏希を見て、ぎりりと歯ぎしりをした。


 元々、夏希と堀川は幼馴染で、常に一緒だった。

 しかし、高校に入り、山下と出会ってから、夏希は彼と共にいることが多くなったのだ。

 山下はオタクで、容姿も凡庸で、自分にはなにもかも劣るクラスカーストの最下位。

 そんな奴に幼馴染を奪われて、面白くないはずがない。


 故に、裏で手を回し、彼がいじめられるように仕向けた。

 異世界に来てからもそれは変わらず、“障壁”とか言う防御にしか使えないスキルを手に入れた山下を散々、苛め抜いた。

 しかし、それでも夏希は変わらず山下と共にいた。

 そして今、彼女は山下を必死で助けようとしている。


 最早、山下を消さなければ、夏希を取り戻すことは不可能だ。

 そう思った堀川は、気づけば山下に向かって炎の魔法を放っていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「山下くん!?」


 堀川の放った魔法は見事命中。

 様々な魔法や飛び道具が飛び交う中、よもや自分が放ったとは思うまい。

 山下はそのまま、吹き飛ばされ、奈落の底へと落ちていったのだ。


(やったぜ! これで夏希は俺のものだ!)


 内心ガッツポーズを取りつつ、それを表に出さず、今も尚、必死に山下を助けようとする夏希を抑える。



 その後、意気消沈する夏希をなんとか連れ出し、城へと帰還。

 目の前でクラスメイトが死んだことにショックを隠せない仲間を、堀川はいけしゃしゃあと鼓舞する。


「みんな! 山下のことは残念だった! けれど、俺たちに立ち止まってる暇はない! 山下のために前に進もう!」


 そして、未だに項垂れてる夏希の下へ向かい、彼女を慰める。


「夏希! あれは事故だったんだ! 気を確かにもってくれ!」


 そう言って、夏希を励ましていたその時、“ヤツ”は現れた。


「果たして、本当に事故だったのか?」


 その一言にギョッとし、声の持ち主の方へと生徒の視線が集中する。

 発言者はクラスでもあまり目立たたない男子生徒。たしか、名前は――


「なにを言ってるんだ! 江戸田一えどだいち‼ あれはどうしようもない事故だったじゃないか!」


 男子生徒の非難するような言葉にその男――江戸田一耕五郎えどだいちこうごろうは「違う」と首を振った。


「あれは事故なんかじゃない。列記とした殺人事件だ!」

『な、なんだってー!?』


 声高々に断言する江戸田一の一言に一同は仰天する。

 特に堀川は内心、気が気でなかった。

 なにせ山下を殺したのは自分なのだから……


「ふ、ふざけるな! お前はクラスメイトを殺人鬼扱いするのか!? 大体、証拠はあるのか!?」


 なんとか誤魔化そうと堀川は江戸田一に掴みかかる。

 しかし、江戸田一は堀川の手をあっさり振りほどくと、自らの推理を披露し始めた。


「まず、これを見てくれ! これは山下に魔法がぶつかる時の映像だ!」


 すると、江戸田一の目から光が放たれ、映写機のように壁に映像が映し出された。


「なんだこれ!?」

「俺のスキル“犯行時映像”だ! 俺はこの世界に来た時“名探偵”のクラスを手に入れたんだ!」


 江戸田一の話によれば、彼は異世界召喚の特典として“名探偵”の能力が宿ったらしい。

 そして、探偵の捜査に役立つスキルを色々覚えたそうだ。

 そのうちの一つであるこのスキルは、自らの見た光景を映像として映し出すことができるらしい。

 絵面はアレだが、これはすごい。


 こうして映し出されたのは山下に魔法がぶつかるシーンであった。


「見ての通り、ここでは多種多様な魔法や飛び道具が飛び交っていた。だが、その中で、山下に当たった魔法の軌道は不自然なんだ!」

『た、たしかに!』


 江戸田一の言う通り、魔法は最初、大猪に向かっていたのに、途中で山下の方に不自然に軌道を変えていたのだ。

 これには堀川も青ざめる。


(や、やべぇぇぇぇぇ! 見られてたぁぁぁぁぁ!)


 嫌な汗が一気に噴き出す堀川。

 なんとかこの場を誤魔化そうと「た、たまたまじゃないのか!?」と言ってみるが、江戸田一は首を振る。


「たまたまで、こんな軌道にはならないだろ! これはボールじゃなくて魔法なんだ! 途中で軌道を変えることもできる! つまりこれは、人為的に引き起こされた殺人事件なんだ!」


 そう断言され、堀川はそれ以上、なにも言えなくなった。

 これ以上、何か言えば自分が疑われかねない。

 するとクラスの一人が江戸田一に絡み始めた。


「おいおい、いくらクラスが“名探偵”だって、いきなり探偵気取りかよ?」

(ナイスだ、大谷! あとでジュース奢ってやる!)

「そ、そうだ! 俺たちは探偵ごっこに付き合ってる暇はないんだ! 一刻も早く魔王をたおさないといけないんだぞ! それなのに仲間を疑うのか!? 恥を知れ!」


 大谷に便乗し、話を有耶無耶にしようとする堀川。

 しかし、そこに委員長ことすい理子りこが割って入った。


「待って! 江戸田一くんは――耕ちゃんは今までいくつもの事件を解決してきたの! 警察に知り合いだっているのよ!? それに耕ちゃんのお爺さまはかの名探偵・名探なさがし偵太郎ていたろうなのよ‼」

(いや、知らねぇよ! 誰だよ!? 名探偵太郎!? しかも苗字変わってんじゃん‼)

「な、なんだって!? あの名探偵太郎!?」

「本当なの!?」

「ウソだろ!? 俺でも知ってる名探偵じゃん!」

(知らないの、俺だけ!?)


 名探偵の孫というブランドにクラスが注目する。

 さらにそこへ、担任教師が江戸田一を援護し始めた。


「そうだ。江戸田一は“百墓村事件”や“ミュージカル館事件”を解決してきたり、半日かけて黒づくめの犯罪コーディネイト組織を壊滅させたり、先生の痴漢の冤罪を晴らしてくれたりした実績があるんだ!」

(いや、最後、アンタの私情入ってるじゃねぇか!)

「正直、俺は山下を殺した犯人がクラスの中にいるとは思いたくもない。しかし、そいつが魔王軍と内通している可能性や他の生徒に危害を加える可能性も存在している以上、野放しにすることもできない! だから、江戸田一に協力してくれ!」


 そう言って頭を下げる担任教師を前に、クラスメイト達は仕方なく捜査に協力を誓う。


「山下を奈落に落とした、卑劣な犯罪者――【奈落の亡霊ファントム】はこの中にいる!」

(なんか変なあだ名付けられた!)

「俺はそいつを見つけ出してみせる。名探偵と名高きじっちゃんを越える名探偵になるため!」

(いや、名にかけるんじゃねぇのかよ!?)


 こうして、江戸田一による犯人捜しは幕を開けたのだった。

 当然、堀川は気が気でない。

 事実が解明された日には、身の破滅だ。

 故に、影から江戸田一を監視していたのだが……


「とりあえず、犯人候補を五人まで絞り込めたぞ!」

「本当なの!? 耕ちゃん!」

「あの時、魔法を放った生徒の中でコントロール性の高かったのは堀川・鈴木・大谷・田中・佐藤の五人。さらにこいつらは、山下と夏希が交際していることに不満を感じ、水面下で山下をいじめていた。動機は十分だ!」

(し、絞り込まれてる!)


 しかも、動機まで判明している。やばい。


「でも耕ちゃん、それだけだと証拠がないじゃない」

(そ、そうだ。決定的な証拠がないじゃないか!)


 思えば、今回の事件で証拠になりそうなものは、すべてダンジョンの中にある。

 あそこまで行って探すのは困難を極めるはずだ。

 そう思い、安堵するのだったが……


「大丈夫! 証拠ならここにある!」


 そう言って取り出したのは、ボロボロのローブであった。


「それは山下くんの着ていたローブ!? なんでここに!?」

「俺のスキル“証拠交換”で手に入れたんだ! このスキルはポイントと引き換えに重要な証拠を手に入れることができるんだ!」



 ――………………や、やられたぁぁぁぁぁぁぁぁ‼



 まさかの証拠に絶望する堀川。なんだ、そのスキル!? 犯人、追い詰める気満々じゃないか!?



「このローブの焦げ跡、これは山下を突き落とした炎の魔法が直撃した部分だ。ここに付着した魔力を鑑定すれば、犯人を割り出せるはずだ!」


 江戸田一曰く、魔力と言うのは指紋と同じで一人一人、違うらしい。

 故に、然るべき手法を用いれば、簡単に魔力の持ち主を割り出せるという。


(や、やべぇぇぇぇぇぇ! なんとか妨害しねぇと!)


 このままでは簡単に真相に辿り着かれてしまう。

 そう思った堀川は江戸田一の捜査を妨害することにした。


「と、とりあえず、証拠を燃やして、怪我でもさせて驚かせば、あいつも命惜しさに諦めるだろう! いや、いっそ殺すべきだ!」


 そう思い、フードを被って夜中に襲撃を掛けることにした。

 部屋に忍び込み、証拠を隠滅。トイレから戻ってきた江戸田一に襲い掛かった!


(死ねぇぇぇぇぇぇ!)

「!? お前は【奈落の亡霊】!?」


 江戸田一目掛けて、剣を振り下ろす堀川。しかし……


「ふん!」

「!?」


 あっさり、白刃取りされてしまった。

 さらに……


「オラオラオラオラオラオラァ!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 距離を詰め、プロボクサー顔負けの怒号のラッシュを叩き込んできた。


(つ、強ええええええ!? どうなってるんだ!? 勇者である俺が戦闘で負けるはずがないのに!?)


 予想外の反撃に混乱する堀川に江戸田一が得意げに言い放つ。


「残念だったな! 俺はスキル“探偵の宿命”を持っている! このスキルの効果は事件の捜査中、俺の戦闘力を極限まで高め、さらにありとあらゆる攻撃から身を守る効果がある! これがある限り、捜査中、俺が死ぬことはないッ!」

(マジか!?)


 そう言って、攻撃の手を緩めない江戸田一に堀川は戦慄。

 所詮、戦いはフィジカルが物を言うのか。江戸田一はそれほどにまで強かった。


(こ、このままじゃ不味い!)


 捕らえられ、犯人として突き出されてしまう。

 やむを得ず、堀川は隙を見て命からがら逃走した。しかし……



「あれ? 堀川、お前なにしてんの?」

「――――ッ‼」



 逃げた先で大谷と遭遇。

 言い訳しようにも苦しいものしかでず、気がつけば、腹部を剣で刺され、血だまりに沈む大谷が……


「や、やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 考えなしに口封じを行ってしまった。

 しかし、ここであることを閃いた。


「そ、そうだ! こいつを犯人にすれば!」


 大谷をスケープゴートにして、捜査の目から自分を外す! それしかない。


 筋書きはこうだ。

 山下を殺した大谷が、捜査を撹乱するため江戸田一を襲撃。その後、正体を見られたので自分に襲い掛かられたので、やむを得ず反撃した。そういうことにしておこう。


「よし! これで疑いの目も晴れる……!」


 そう思ったが……


「た、大変! お、大谷君が!」

「みんな聞いてくれ! 実は、大谷が犯人だったん……」

「待て! この程度の傷なら、コイツを使えば助けられる!」

「へ?」


 そう言って取り出したのは、一足のスニーカー。それをおもむろに大谷に履かせる。そして……


「蘇生力増強シューズ‼」

「えええええええええ!?」

「あ、あれ? 俺、いったい……?」


 シューズの側面についてるダイヤルを回すとあら不思議。なんと大谷の出血は止み、息を吹き返したではないか。


「この蘇生力増強シューズは銭持警部の発明品だ! こいつを使えばよっぽど損壊してない限り、助けることができるんだ!」

(なにその発明!? チートじゃん! スキル無くてもチートじゃん!)


 って言うか、なんでそんな発明できる奴が警察なんだよ!? 活かせよ才能を!

 内心ツッコみまくる堀川だが、大声を出す訳にもいかず、成り行きを見守るしかなかった。

 幸か不幸か、このシューズを使うと倒れた前後の記憶を失ってしまうらしく、おかげで大谷は自分に刺されたことを覚えていないようだった。


 しかし、疑いの目が晴れてはいない以上、自分が追い詰められるのも時間の問題。

 なんとかしなければ。そう思った堀川の脳裏に起死回生の一手が浮かぶ!


「そうだ! 俺は今勇者なんだ! その立場を利用してやる!」


 そう思った堀川は国王に「江戸田一が魔王の手先になり、自分たちを疑心暗鬼に陥らせようとしている」と言いくるめた。

 国王も今の状況を解決するためには、真実などどうでもいいと思っているのだろう。

 ニヤリとほくそ笑み、堀川に協力するといった。

 これで、邪魔者を排除できる!


「皆の者よく聞け! この江戸田一なるものは魔王と共謀し、我らを同士討ちさせようとしているッ! この事件はこやつの狂言だったのだ! 故に拘束する!」


 そう言って、江戸田一に槍を突き立てる兵士たち。

 これにより、堀川は晴れて探偵役に勝った。



「そこまでにしてもらおうかっ!」



 ……そう思っていた時期もありました。


「な、なにものじゃ!?」

「おっと失礼。私、警視庁の杉畑すぎはたと申します」

「同じく警視庁刑事部捜査一課の銭持ぜにもちだ! 全員、ここを動くな!」


 ……日本の警察が現れた。マジか!


「なななな、なんで日本の警察が異世界にくるんだよ!?」

「日本警察を舐めないでいただきたい。あなた方が異世界転移してから何日、経過してるとおもうんですか? 集団失踪事件として調査中でしたよ」

「そして、現場検証の末、時空の歪みを感知してな。――こんなこともあろうかと、この間、次元移動装置を作っておいてよかったぜ!」

(それ、日本警察がすごいんじゃなくて、そっちのおっさんがすごいんだよ!)


 最早、ツッコミどころ多すぎな銭持の技術力に堀川は唖然とするしかなかった。


「ふん! 日本警察だかなんだか知らんが、ここは余の国じゃ! 勝手な真似は控えてもらおう!」

(そ、そうだ! よく考えりゃ、警察が出てきても、ここは日本じゃないから別に焦んなくてもよかったんだ!)


 異世界じゃ警察の権力の影響もない。

 ビビッて損したと堀川は息を吐く。

 しかし、その考えは甘かった。


「あぁ、一つ言い忘れましたが、国王陛下。あなたにはもう、国を治める権限はありませんよ?」

「は?」

「先ほど、貴方のご子息から色々拝聴させていただきましたが……裏で中々、悪いことをしてるようですねぇ。なんでも領土や奴隷欲しさに魔族の国を相手に戦争を起こそうとしたり、その為に重税を科したり……とても一国の主とは思えないことをしてるようですねぇ」

「そ、そそそそれは……」

「もう既にこの国有力貴族のほとんどが、貴様を王籍から除名するように嘆願書を各所に提出しているようで……おまけに各国に黙って異世界召喚の儀式を無断で行ったこともすでに把握されてますよ?」


 杉畑警視の話によれば、この国王、色々裏であくどい事をしていたようで、自分たちも世界のためではなくあくまで兵力として召喚されたという。

 息子である王太子は、現状を愁い、革命を起こすことにしたらしく、日本警察の協力の下、証拠の数々を押収。

 本日を持って、国王を排斥したという。


「もう貴様に権力は残されてない! 牢へ連れていけ!」

「は、離せ! 余は国王じゃぞぉ~!」


 権力の座から転げ落ちた国王は、そのまま兵士たちに連行されていった。

 同時に江戸田一の推理を邪魔する者はいなくなった。


「恩に着るぜ! 杉畑警視! 銭持のおっさん!」

「構いません。私たちは警察の仕事をしただけです」

「それよりも、お前、犯人は分かってるのか?」

「あぁ……こいつで確信が得られた! 国王に虚偽の報告が出来るほどの権利があり、山下に恨みを持っていた人物! そして……」


 そう言ってポケットからある布切れを取り出す。それは、先日堀川の燃やしたローブの切れ端であった。


「そ、それは!」

「実はあの後、証拠品から焦げ跡のついた部分を切り取り、保管してあったんだ。ついでに魔力の鑑定は終わっている! そして、そこから導き出された犯人【奈落の亡霊】の正体は――堀川! お前だッ!」


 その言葉を聞いた途端、堀川は敗北を悟り、崩れ落ちた。


 ――終わった。終わってしまった。


 すべてを解き明かされ、茫然とする堀川。逃げようにも、警察に囲まれ身動きが取れない。

 夏希が「この人殺し!」「返してよ! 山下くんを返してよ!」と叫んでいるが、これもいいだろう。

 愛情ではないが憎しみによって夏希の心を独り占めすることができたのだから。


 ……だが、それすらもできなかった。


「夏希さん! 落ち着いて! 僕は無事だよ!」

「!? 山下くん!?」

「ほわっ!?」


 なんと、奈落に落ちたはずの山下が、扉を勢いよく開けてこの場に現れたのだ。


「えぇ!? 山下!?」「ウソ!? 死んだんじゃないの!?」「ゆ、幽霊じゃないよなぁ!?」


 困惑するクラスメイトたち。

 これには堀川も大混乱に陥る。


「う、うそだろ!? なんで山下が生きてるんだよっ!?」

「実は江戸田一君に助けてもらってたんだ!」

「はぁっ!?」


 全員の視線が江戸田一に集中。すると江戸田一は自慢げにほほ笑んだ。


「実はあの日、すでに堀川が江戸田一に危害を加えようとするであろうことは見越していてな……」


 元々、江戸田一は山下がいじめられている件をなんとかしてほしいと、担任教師から依頼を受けていた。そして、賢明な捜査の末、堀川が主犯であることを察知。

 しかし、その依頼を解決する前に異世界召喚されてしまったのだ。

 そしてダンジョンに潜る前日、江戸田一は聞いてしまった。

 山下から聞こえる“死神の声”を。


「そこで山下には念のため、銭持警部が開発した携帯型防弾チョッキと携帯型パラシュートを万が一に備え、持たせてたんだ! そして奈落に落ちた後、俺のスキル“証拠交換”で生きた証拠として取り寄せたんだ!」

「え? じゃあ、俺がやったことは……?」

「最初から丸っとお見通しだったんだよ!」


 その言葉を聞き、堀川は完全敗北を悟り「あは、あははははは……」と力なく笑うしかなかった。


「言っただろう? 俺はじっちゃんを越えると。事件が起こる前に解決する。それが名探偵を超える名探偵というやつなんだよ」


 再会を喜ぶ山下と夏希を眺めながら、名探偵・江戸田一耕五郎は不敵に笑うのであった。






 こうして事件は解決した。

 元の世界に戻り、山下と夏希はクラス公認のカップルとして付き合い始めた。

 元々、いじめさえなければ山下のスペックはクラスでもトップクラスだったのでつり合いは取れている。


 一方、堀川は異世界転移して以来、評判がガタ落ち。クラスになじめなくなり転校したものの、転校先でクラスカーストの最底辺にまで落ちぶれ、結果、ひきこもりになった。


 そして、江戸田一は今日も難事件を未然に防ぐ名探偵として、走り回るのであった。


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