『ネバー・エンディング・ストーリー』 幼稚園の記憶を吹き飛ばした傑作

 いじめられっこが絵本の世界へ逃げ込んで世界を救う話。


 主人公はいじめられっこで、屋根裏部屋で見つけた本に夢中になる。

 

 絵の中の主人公は、顔が犬のイタチみたいな動物「ファルコン」に乗って、世界を救うために冒険をしている。

 だが、その絵本の世界は「虚無」というナゾの魔物によって崩壊の危機を迎えていた。



 最近だと、地上波で久しぶりに上映された作品である。


 個人的に、これはオレが映画好きになる第一歩の作品だった。


 幼稚園の頃に見た記憶があって、天王寺動物園に行ったときにバスの中で流れていた。

 オレはもう行きと帰りのバスの中で、この映画のことばっかりが頭を支配していた。

 そのおかげで、動物園でなにを見たのか全く覚えていない。

 


 この頃から、オレはフィクションにしか興味のない「現実はクソ」と思っていたガキだったのだ。


 ほとんどの人にとって、幼稚園の頃って、多少なりとも楽しい思い出があっただろう。

 オレにはなかった。


 先生には殴られていたし、未だに許していない。

 年長組からの入園だったので、もう幼なじみも別のコミューンにいた。

 オレは、生徒の誰とも打ち解けられなかった。

 そういう努力の仕方も知らずに育った。


 今でもそうだ。

 人当たりはそれなりだが、ときどき同しようもない孤独に襲われる時がある。

 家族の中にいたって、姉は家族がいるのにオレは……と思うときがたまにある。


 数年後に再度天王寺動物園で女性と遊んだのだが、ガキの頃に見た動物なんか何一つ覚えていなかった。

 この映画のことしか頭になくて。

 その女性とのデートも、「カレシが大学で講義を受けてるから、終わるまで遊んでくれ」って感じだったし。



 オレの中での「虚無」は、現実なのだ。


 フィクションに救いを求めているガキって、オレだけじゃないんだなって思えた。


 作中の主人公であるガキだってそうである。


 現実では居場所がなくて、屋根裏部屋でリンゴをかじりながら本に読み耽るのが楽しみでしかない。

 そのリンゴも、あんまりうまそうじゃないのが泣ける。

 退屈しのぎ、「生きるために食っている感じ」がするのがたまらない。


 現実が楽しくないってのが、身にしみてわかる。


 オレの人生も、そんな感じだった。


 だから、ぶっ刺さったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る