【物語は】
意味深な心情により始まる。ドラマチックな一場面により、何が起きているのだろうかと興味を惹く物語。
空行の使い方が上手く、まるで何もない空間の中に小さな点を感じるように、一つの目標であり、意志であり、目的が浮かび上がっているような錯覚を起こす。プロローグでは、ある人物のそうしたイメージを持つ場面から始まっていく。プロローグの空行の使い方が、とても巧いと感じた。
【物語の魅力】
主人公の一人である榎本春樹は、目が覚めたら知らない場所に居た。その上、彼はこの場所に来るまでの記憶を所持していなかったのである。
知らない世界であるにも関わらず、主人公がパニックに陥らないで済んだのは、彼に”ゲームの感覚”というものが備わっていたからだと感じた。
ゲームそのものに対しての考え方や、見方は賛否両論あるが、”こんな時、ゲームだったらどうするのか、またはどうなる?”という考え方は、時に人を冷静にさせるのではないかと思う。
例をあげるのであれば、消防訓練、避難訓練などが該当するのではないだろうか。ゲームも同じように、事件やイベントに対してのシミュレーションを行うことが出来ると考える。すなわち、いざとなった時に行動を決める一つの選択になるのではないかと感じた。
つまりこの作品の中では、彼の”ゲームをした経験”そのものが活かされており、彼の思考に対してリアリティが持たされていると感じたのである。
構成がとても巧い。現在の状況や情景が先に描かれ、彼がそれ以前どうであったかが、心情の一部により明らかになる。この順というのは、何があったのかが後に来るため、読み手の好奇心を持続させる書き方だと思う。
【登場人物の魅力】
第一一章、榎本春樹編について。
彼は冷静であり、余計なことを口にしないタイプの人物だと感じた。その為、変な(嫌な)ドキドキ感はない。
この世界がどんなところで、どんな世界観なのか。一体何が起きて、彼がここにいるのか。じっくりと読み進めることが出来る。
彼がこの世界で初めに手に入れたキーワード、”自分が初めに辿り着いた場所”(ネタバレになるので明確な単語は避けます)。そこへは目が覚めた場所からは、簡単には行くことは出来ないようだ。つまり、凄く重要な場所なのではないかと想像する。
主人公は、目が覚めた場所に連れて来てくれた人物の世話になる。その人物にある場所へと案内される中で、この世界について学んでいく。この流れもとても自然であり、この場面で初体験した時の反応に、人間らしさを感じた。
冷静であり、聡明な彼は質問の仕方もスマート。しかし、普通の人間でもあるということが分かる。
補足:普通というのは、喜怒哀楽を持ち機械的ではないという意味合いである。
【物語の見どころ】
この物語には、二人の人物の物語がしっかりとあり、その上で交差する物語が存在する。二人は恐らく、真逆のルートになるのではないかと想像。
それは光と闇のような関係。
一章を読んだ印象では、心情や世界観、状況、情景描写がとても丁寧で分かりやすく、読みやすい。このことからも全体的に丁寧に作られた物語であると想像がつく。
一章での主人公が、もう一人の主人公に出逢う時、一体何が起きるのか。まだ想像することは出来ない。対峙するのか、協力し合うのか。展開の予想を立てることは難しい。だからこそ、先が気になる物語である。
果たして、彼らの行く先に何が待ち受けているのか?
あなたも是非、お手に取られてみませんか?
どうして彼らがこの世界に来ることになったのか。
そこに、意味があるはず。おススメです。