1-64 シャル・ウィ・ダンス
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
クロスはクラージュの奥義を受け、勢いのままに吹き飛ばされていく。
その間にも、奥義の効果なのか、ボコッ、ボコッと身体中に衝撃が何度も走る。
なんの前触れもなく訪れるその衝撃を、クロスは防ぐことができなかった。ひとつひとつがかなりの衝撃で、クロスは耐えきれずに血反吐を吐きながら、吹き飛んでいく。
そのまま、壁に激突して大きく砂ぼこりを巻き上げた。
「手応えは…?」
「直撃のはずです…」
クラージュへ駆け寄ったルシファリスは、クロスが吹き飛んだ方を見つめている。
「レイよ…なかなかの技だな。」
「ありがとうございます。アルコさまを追い抜きたい一心で極めたものです。」
「そうか…」
「でも、主人に向けるものじゃないわね。」
満足気に笑みを浮かべるアルコに向かって、ルシファリスが放った言葉に疑問が湧いたのか、アルコは口を開く。
「どういう意味だ…?」
「言葉のとおりよ。あれは神を殺すためにできたような技なの。」
「神を…殺す?レイ…」
「はっ…はい、今のは自分のオーラを相手の内包へと叩き込むものです。法陣で練度を上げ、それを撃ち込む…突き通すのではなく、中に留まるようにしております。」
アルコは顎に手を置いた。
何かを考えるように目をつむったが、程なく目を開く。
「確かに…神とて大きなオーラを体の中に留めておくことは難しい。ましてや暴れ狂うオーラなら尚更だ…体の中から壊す技とは…貴様も考えるようになったな。」
「ありがたきお言葉です。」
「…して、それは俺に向けるつもりだったのだな?」
「えっ…あ…それは…」
アルコの鋭い目つきに、クラージュは動揺を隠せない。
あたふたとしながら、言い訳を探していると、ルシファリスが口を挟んだ。
「楽しそうなところ申し訳ないんだけど、あれを見て…」
その視線の先に、壁際で立ち上がるクロスの姿があった。
体中は血まみれ。
服もところどころが破けている。
肩で息をしながら、こちらを見据えているが、突然何かに撃たれたように体が大きくよろめいた。
「かなりのダメージを与えたようだな。」
「練り込むオーラの量は私の全部に近い…当分は体の中でオーラが暴れ回っているはずです。しかし…」
クラージュは少し怪訝な表情を浮かべている。
「あれを受けてなお、立ち上がるとは…」
「……」
ルシファリスはクロスに目を向ける。
確かに立った…クラージュの"死閃"は神を打ち砕く技として完成させたものだ。
確かにクロスは神の子孫だ。
神に匹敵する力を持っていておかしくはない。
しかし、子孫であって神ではない。そこには雲泥の差があるはずなのだ。
アブソルに力を供給されているとはいえ、その本質はただの人のはず…
"死閃"を受けて立っていられることなどないはずなのに。
「本当にめんどくさいわ…」
一方、クロスはというと…
「ガハッ…あのおっさん…こんな隠し玉をもってやがったのか…グッ…体が…張り裂けそう…だ!なんだ…中でオーラが…」
その瞬間、クロスはあり得ないほどの量の吐血をする。
(これはヤバい…内臓がズタボロだせ…"死閃"とか言ってたな…名前の割りにエグいじゃねぇか…)
クラージュの中で洗練されたオーラは、優しくも力強く、柔らかくも鋭い。
それらに法陣を何重にも掛け合わせ、相手に撃ち込む奥義。
"死閃"
死のきらめき、瞬時に訪れる死、一瞬の死…
これを受ければ死とすぐに出会う事ができることから、そう名付けられた。
再び、吐血するクロス。
すでにクロスの体の中は、クラージュの暴れ狂うオーラによってボロボロだ。
それらはいたる臓器を引き裂き、かき回しており、普通の人間ならすでに息絶えているだろう。
しかし、クロスが耐えているその理由。
彼はとっさに心臓だけ守っていたのだ。
彼の戦いのセンス…というよりは本能に近い反応で、クラージュの拳を受ける寸前に、そのオーラに耐え切れるほどの法陣を重ね掛けし、心臓を守ったのである。
(心臓だけでも…守っといてよかったぜ…じゃなきゃ今頃、お陀仏だった…)
口の中は血の塊が張り付いていて、うまく声が出せない。
無理にしゃべろうとしても、体の中から命が真っ赤な流体となって流れ出てくるのだ。
(しかしやべぇな…思った以上にダメージを受けすぎてやがる…血もたくさん失っちまったしな…)
ヨロヨロとしながら、ルシファリスたちの方へ視線を向けるが、その視界もぼやけ、薄れていくのがわかる。
動悸というより、守っている心臓も少しずつその鼓動を小さくしていくのがわかるのだ。
クロスは目をつむる。
そして、そのまま背中から倒れ込んだ。
広間の天井が見える。
その先に、円状の小さな星空のような模様が見える。
まるでプラネタリウムの暗闇の中、天井に小さく映し出された夜空のような…
きれいだ…
なんで今まで気づかなかったんだ…
(一族復興を夢見てこれまでやってきたが…ミカエリスについたのは間違いだったのかもな…ミウルを復活させたはいいが、結局、やり合いになっちまった…姉ちゃん、どっかで見てるならなんか言ってくれよ…)
クロスはそう思い、つむった目から一筋の涙が流れ落ちる。
『私の力を借りてもその程度か…滅んで当たり前だな。』
先ほどの声がまた響いてくる。
『しかも、アルコの弟子にやられるとはな。まぁこれも因果か…』
(いきなり出てきて…何言いやがる…)
『本当に威勢だけはいいな…まぁいい。死ぬか私に代わるか、選べ。』
(どういう意味だ…)
『おつむも足りぬか?言葉のとおりだ。このまま死ぬか、私に体を預けて奴らを殺すか…どちらか選べ。』
(お前に体を…?やなこった…!俺はいつでも俺であるんだ。)
『ふん…めんどくさい奴だ。まぁ、最初からお前に選択肢はないがな。私の配慮を無碍にしおって…本来なら消し炭にしてもいいくらいだ…とはいえ、奴らを殺さねば後々面倒だからな。お前の体、私がもらうぞ。』
(誰がお前なんかにや…グッ…なんだ?)
『自分の体にさよならしておけよ…ククク!』
(ガァッ…意識が…グググ…ぐわぁぁ!)
体中に黒いモヤがまとわりついていく。それらはクロスの体を繭のように覆っていく。
そして、大きな繭が出来上がると、今度はひび割れが全体に走り出す。
バリバリッと音を立てて割れた繭の中から、クロスが立ち上がった。
いや…それはクロスとは似て似つかない男だ。
黒かった髪の一部は白くなり、額には左右非対称の大きさの角が生えている。
黒い瞳の中には真紅ではなく、白銀の瞳。
両目の下にあった雫の刺青はそのままだが、驚くべきは額にある目であった。
パチパチと瞬きをする様子は異質なもので、他の目とは別の動きをしている。
キョロキョロと視線を泳がせ、最後にルシファリスたちの方へ落ち着いた。
「ふむ…やはり神の子孫の体は馴染みが早いな。」
男は、右の手のひらを握ったり開いたりして、その感覚を確かめる。
そのまま、手のひらをルシファリスたちに向けると、突然、法陣を展開して黒いオーラのようなものを撃ち込んだ。
ルシファリスたちが、突然の攻撃をなんとかかわしたことを確認すると、男はニヤリと笑みを浮かべた。
「ククク…さぁて、ラストダンスと行こうではないか!!」
男はそう言うと、ゆっくりと一歩を踏み出すのであった。
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