1-58 クロス覚醒
「今の…マジで見えなかった…しかも、ミカエリスのやつを一撃とは…」
クロスは秋人の力に感動を覚えていた。そして、ついつい本音をこぼしてしまう。
「やっぱり…あれは俺がいただく。」
クロスはニヤリと笑った。
◆
横たわるミカエリス。
その横で佇む秋人の手には、黒い球体が掴まれていた。
ミウルはそれを見て、驚きの声を上げる。
「あれは…アブソルがミカエリスに渡した魔力玉か…それを取り出したのか!」
秋人は持っているそれを少し眺めると、興味なさげに手から離し、足元に落とす。
そして、一瞬でミウルのところに来ると、声をかけた。
「ミウルさま…すみません。春樹を救えませんでした。」
「いや…君のせいじゃないさ…ハルキをここまで導いたのは僕だからね。責任は僕にある。それより…」
ミウルはミカエリスに視線を移した。未だに横たわった彼女を見るミウルに、秋人は口を開く。
「じきに目を覚まします。あの魔力玉との繋がりはきれいに断ちましたから。」
「すまないね…彼女の過ちについても、責任は僕にあるからね…償うチャンスをくれた事に、本当に感謝するよ。」
「その話はまた後でですね。まだ彼がいますから…」
秋人はそう言ってクロスを見た。
クロスも秋人を見つめている。
「ミウルさま…彼には手加減できそうにないのですが…」
「…結果は、君に任せるよ。」
「わかりました…」
秋人はそう言って立ち上がると、クロスがいる方へと歩き出した。そのまま、近くまで歩み寄ると、クロスに話しかける。
「そろそろ終わりにしよう…」
「カカカ…簡単には終わらねぇぜ!俺はよ!」
「君の本当の目的を教えてくれないか?」
「……」
その問いに、クロスは一瞬だけ口をつぐんだが、すぐにいつもの口調で話し出した。
「俺を倒したら教えてやるよ…」
「そうか…」
そこまで話して、クロスは足を広げて構える。対する秋人は特に何もしないで立ったままだ。
「余裕かよ…」
「…いや、格闘技とかした事ないだけだよ。」
「ちっ…!!」
笑顔の秋人にイラついて、クロスが飛びかかる。単純な右ストレートを秋人の顔めがけて撃ち抜くが、秋人は最小限の動きでそれをかわした。
クロスはその反動を利用して、左足で回し蹴りを放つ。
しかし、秋人は体を左に回転させながら、クロスの左足を受け止めて、受け流すように地面へ叩きつけた。
「グハッ…!?」
クロスがめり込んだ衝撃で辺りの地面にひび割れが走っていく。
うつ伏せのクロスは、両手を地面に置いて力を入れると、秋人の拘束から左足を引っ張り抜く。
それと同時に前転すると、再び地面を蹴って秋人に向かって飛びかかった。
クロスが秋人の顔めがけて右足で蹴りを放つが、秋人はそれを左手で軽々と受け止める。
今度は受け流さず、力を込めて蹴りを受け止めると、その足を引き寄せると同時に、クロスのみぞおちに右ストレートをぶち込んだ。
「ゴッハッ!!」
血反吐を吐きながら、吹っ飛んでいくクロス。まるで水切り石のように地面を転がると、そのまま壁に激突した。
その様子を見ていたルシファリスとクラージュは、驚きを隠せない。
「なんなのよ…あいつ…」
「私が敗れた相手を赤子扱いとは…少々ショックですな…」
「当たり前だ…あれは我ら神と同等の力だぞ…」
驚く二人の元に、アルコがやってきてそう話す。
「神の力ですって…?」
「あぁ…陰陽の力は生成消失を司っているのだ…ハルキとあの小僧は、陽の力と陰の力をそれぞれが持っていた。ハルキは死んでしまったが…奴は死してなお、その強い想いをあの小僧に繋いだのだ…力を譲渡するほどにな…」
「……」
ルシファリスが無言で春樹の遺体を見つめる中、アルコは話を続けた。
「貴様らは知らないだろうが、そもそも陰陽の力は宇宙の理だ。その太極図は円であり、円は波形を表している。そして、その波は増進と減退を繰り返すものだ。」
「…よくわからないわね…それがなんなのよ。」
ルシファリスはその話に耳を傾けると、アルコに皮肉めいた疑問を投げる。
「これは万物の生成消失の本質となり得るのだ… 生は死を生み、死は生につながる。
創造と消失は常に共にある。これらの力を極めたものが神となるのだ。」
「なるほどね…で、あいつは神様なったわけ?」
目の前でクロスを圧倒している秋人を指してルシファリスは問う。
「異世界人が神になったなど聞いたことはないがな…今の小僧は、それと同等の力を持っていると言っていい…」
アルコもまた、秋人を見つめているのである。
ガラガラと崩れる壁際に、立ち上がるクロスの姿がある。
彼は口の中に溜まった血をぺッと吐き出すと、再びニンマリと笑った。
「全然通用しねぇ…ゾクゾクだせ…」
「もう諦めたら?」
「そりゃ無理だぜ!!」
そう言うと同時に、再びクロスは秋人に飛びかかる。
今度もまた、右ストレートを秋人の顔めがけて放つ。秋人はそれをかわそうとしてやめた。
そのまま後ろを向いて左手を顔の横に添えた瞬間、クロスの右足が飛んでくる。
「なんだその反応速度はっ!!」
フェイントを簡単に見破られて、クロスは苦笑いしながら、すぐに距離を取る。
そして、今度は法陣を両手にまとって駆け出した。
秋人はあいかわらず、構えずに立っている。
「そのすまし顔に驚きを添えてやるぜ!」
クロスはそう言うと、自身の分身を作り出した。
八方から秋人に向かって駆けていくクロス。しかし、秋人は微動だにせず、静かに正面のクロスを見ている。
何人ものクロスが秋人を中心に囲ったまま、全方位から攻撃を仕掛けたのだが…
パチンッ
秋人が指を鳴らした瞬間、七人のクロスは突如として消え、本体だけが残された。
「なんだと…!!?」
「驚きを添えてあげられたかな?」
気づけば、クロスの真横に秋人がいて、耳元でそうつぶやいたのだ。
「くそったれがっ!!」
それに気づいて、クロスはとっさに法陣を秋人に向けて放つが、それも簡単にかわされてしまう。
秋人はすでに後ろに回り込んでいて、素早く蹴りを放った。
「……っ!?」
後ろからの突然の衝撃に驚きながら、クロスは再び吹き飛ばされたが、先ほどとは違って途中で受け身をとることに成功した。
「……」
肩で息をするクロスを、秋人は無言で見つめている。
(完全に舐められてんな…ハァハァ…なんか手はねぇもんかな…あっ…!)
クロスの視線の先に、秋人がミカエリスから取り出した魔力玉が映る。
(癪だけど…あれを使ってみるか…)
クロスはそう考えるとすぐに行動に移す。両手に法陣を構え、秋人に向けて放ったのだ。
「…悪あがきなのか?…っ!?」
秋人はそれを簡単に打ち消すのだが、その後のクロスの行動に気づいてとっさに駆け出した。
しかし、すでにクロスはミカエリスのそばに到着していて、そばに落ちた魔力玉を持ち上げていた。
「遅ぇよ!!」
「しまった…!」
驚く秋人を尻目に、そうつぶやいたクロスは、魔力玉を飲み込んでしまった。
「…う…ぐ…がぁぁぁ…」
苦しみ出すクロスの体から、漆黒なオーラが溢れ出していく。
「がぁぁぁぁぁ…!!…いいぜ、溢れてくる…力が…カカカカカ!!」
どす黒い…重々しいオーラをまとい、苦しみに耐えながらクロスは笑う。
そして…
「…うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
苦しそうな叫びの後、クロスは覚醒したのである。
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