1-57 生成消滅の力


広間の中心で、白と黒のオーラが渦を巻いていく。



「なっ…なにが起きているの!?」



アルコを足下にしていたミカエリスは、秋人の方を見て、驚きを隠せない。


突然、秋人が叫んだかと思えば、白と黒のオーラが彼の周りに集まり始めたのだ。


グルグルと渦巻くそのオーラは、徐々に秋人に収束していっている。



「こんな力…知らないわよ…」



世界の理は5原則で成り立つ。

陰陽の力はあくまで事象のサポートをする力だ。


しかし、目の前では巨大な陰と陽の力が渦巻いているのだ。



「お前は知らんだろうな…くっ…この世界の成り立ちは確かに5原則だが…あれは宇宙の成り立ち…万物の生成消滅を司る力だ…」


「なんでそんな力が…あの子に…」


「理由など私にわかるはずなかろう…わかるのはただひとつ…あれは神と同等の力だ…」



そこまで言って、アルコは春樹の遺体を一瞥した。



(ハルキよ…お前はどこまでも…)





「なんだよ…!ありゃ…」



クロスはルシファリスの首を掴んだまま、秋人の方を注視していた。

グルグルと回る白黒のオーラに、戸惑いながら、ルシファリスへと向いて率直に疑問を投げかける。



「お前…知ってるか?」


「しっ…知るわけないじゃない…」


「あっそ…」


「ぐっ…ハァハァ…」



クロスが首から手を離すと、ルシファリスは倒れ込んでいたクラージュの横に膝をついた。


もはや、クロスの興味は秋人に移ったようで、彼は体ごと秋人に向き直る。



「…あれ、やべぇな…ククク…」



クロスは秋人の周りを渦巻くオーラを見て、ニヤリと笑った。





黒と白のオーラが嵐のように周りを吹き回っている。


それなのに中心にいる秋人には、特に影響もないようだ。


秋人はゆっくりと立ち上がる。


いつの間にか手足に刺さっていた黒い棒は消え、体の傷も癒えており、体の感覚を確認すると、秋人は春樹のそばまで近寄ってしゃがみ込んだ。



「…春樹」



秋人は春樹の頬に手を触れ、悲しそうな表情を浮かべながら、春樹へ話しかける。



「春樹…もっと早く出会ってたら…僕と…僕と友達になってくれたんだろうね…」



秋人は春樹の胸に手を当てる。

すると貫かれたはずの春樹の胸は、何事もなかったように元通りになった。



「魂まで元に戻す事はできないけど…」



そう言ってゆっくりと立ち上がり、目をつむる秋人に対して、渦巻いていたオーラが集まっていく。


彼の周りを荒れるように駆け回っていた白と黒のオーラは、収束して秋人の胸の部分に陰陽の太極図を作り出す。


秋人はゆっくり目を開けて、静かに告げた。



「だけど…君の想いはここに…」



そう言って自分の胸を撫でると、ミカエリスを睨みつけたのだ。



「アキト…?なんなの…その反抗的な目は…」


「ミカエリス…もうやめよう。君の計画もこれ以上進めるのはもう無駄だよ。」


「なんでお前に…そんなこと…お前に何がわかる…」


「何もわからないよ…」



ミカエリスの表情が、どんどん醜悪さで満たされていく。

アルコから足を外し、のっそりと秋人に向き直ると、突然、飛びかかったのだ。


アルコにも見えないスピードで、秋人の目の前に一瞬で現れ、ミカエリスは法陣を放とうとする。


しかし…



「言っただろ…?無駄だって…」



秋人が指を鳴らした瞬間、ミカエリスの法陣が霧散してしまったのだ。



「なっ…?!…がっ!」



驚くミカエリスに一閃の蹴りを放つと、彼女は真っ直ぐな軌跡を描いて壁に激突し、砂ほこりを巻き上げた。


秋人はクロスに向き直る。



「いいね…いいねいいねいいね!!お前のその力!!」


「…君は何がしたいんだ?ミカエリスについてもこれ以上は無駄だろ?」


「いいや、無駄じゃないね!カカカカカ!!」



クロスはそう言って構えると、一気に秋人に詰め寄った。


右手に法陣をまとって、秋人の顔めがけてそれを振り抜くが、簡単にかわされてしまう。



「これで終わりじゃねぇぜ!!」



今度は、かわされた右の手のひらを秋人に向けて黒いオーラを放った。


しかし…



「無駄だって…」


「なんだよ、そりゃ!…グハっ!」



その攻撃は、秋人に当たる直前に霧散していく。驚くクロスを上に蹴り上げる。


吐血しながら上空を舞うクロスを秋人は先回りすると、今度は上から組んだ両手を振り下ろして、クロスを地面へと叩きつけた。


地面に大きな砂ほこりが舞い上がる。



「ゲホッゲホッ…カ…カカカ!やるじゃねぇか!アキト!!」



埃まみれになりながら、クロスが立ち上がる。



「まだやるの…?今ので無理だってわかっただろ?」


「やるに決まってる!!俺はお前を屈服させなきゃなんねぇんだ!!」


「バカは死ななきゃ治らない…って言葉、知ってる?」



クロスはその言葉を聞いて怒るわけでもなく、口元に笑みを浮かべた。



「ククク…カカカカカカ…!!そうだ、俺はバカだからな!!」


「…クロス、あなたは引っ込んでて…あの子にはお仕置きが必要…私がやるから。」



笑っていたクロスの横にミカエリスが戻ってきた。口調は冷静だが、表情は明らかに違う。



「ダメだ…俺がやる。」


「はぁ…?あなた…立場がわかっていて?」


「もうお前に従う理由はない…だろ?計画だって、ハルキが死んでほとんど振り出しだ。それより…俺はアキトを負かす。」



ギラつかせた眼でアキトを捉えて離さないクロスに、ミカエリスは言葉を返す。



「……。確かに計画は崩れ去ったけど、このままだとあなたの願いは果たされないわよ。それでもいいなら、どうぞお好きに…」


「……。」



クロスはそれに答えない。それを見たミカエリスはクスリと笑うと一歩前に出る。



「アキト…素晴らしい力じゃない!!それを私たちにために使わないかしら?」


「……。」



秋人は何も答えない。

ミカエリスはそれを見て、ため息をついた。



「はぁ…どうしてここには、はっきりしない男しかいないのかしら?ダメよ…男の子はハキハキしないと…」



そこまで言うと、ミカエリスは秋人めがけて駆け出した。

対して秋人は構えることなく、ミカエリスを静かに見据えている。



「舐めないでちょうだい!!」



そう言いながら自分の目の前に来たミカエリスの顔を、秋人は躊躇うことなく撃ち抜いた。


が…、ミカエリスの姿がユラユラとし始め、その体は消えてしまった。



「簡単に引っかかりすぎよ!」



気づけば秋人の後方に、ミカエリスがいて

法陣を放とうと両手を構えたのだが…


やはり、放った法陣は秋人の前で霧散していく。



「ちぃ…っ!」



放つ法陣を押しのけて進んでくる秋人の攻撃を間一髪のところでかわして、ミカエリスは距離をとる。



「ミカエリスさん…いや、ミカエリス…そろそろ終わりにするね。君は人のことをおもちゃにし過ぎだ…あっ…僕も含めてね。」


「何がいいたい?!この世界はミウル様のもの…その側近である私は、この世界を自由にできるの!」


「そんなふうに変わってしまった原因を、俺が取り除いてあげるよ…」



そう言うと、いつの間にか秋人はミカエリスの後ろをとり、その胸を貫いたのだ。



「…がぁ…カハッ…」



そして、秋人が腕を引き抜くと同時に、ミカエリスはその場に倒れ込んだ。

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