1-45 好きなんでしょ
「そこまでわかってるんなら…」
ミウルが口を開くと、春樹はそれを遮るように疑問点を伝える。
「経緯はわかった…だけどあんたたちが何をしたいのか、肝心の目的がよく分からん。アブソルに一泡吹かせたいのか?ミカイルを助けたいのか?いったいどれなんだよ。」
ミウルはそれを聞くと、なるほどと言ったように自分の目の前で手を叩いた。
「やはり君は頭がいいね!さすがはイツキの息子だ!」
「やめてくれ…そう言われるのは嫌いなんだ。」
「ごめんごめん、でも今ので全部理解してくれているとは、さすがとしか言いようがない!」
「本気なのか、冗談なのか、はっきりしてくれ。」
褒め称えるミウルに対して、春樹はあきれたように応える。
「褒めてるよ!本気だよ!」
「わかったわかった…で、本当の目的はどれなんだ?」
「全部さ!」
「…はぁ?ぜっ…全部?」
嬉しそうに笑顔を向けてくるミウルに、春樹は驚きを隠さず聞き返す。
「そうさ!ミカイルを助けて、世界を元に戻して、アブソルに一泡食わせる!これが僕の目的さ!」
「マジで言ってんのか?」
「マジも大マジ、マジマジマジさ!」
えっへんといった態度でものを言うミウルに、春樹はあきれてばかりである。
「問題は山積みじゃないか…しかもそれをやるのが俺やルシファなんだろ?」
「そこは申し訳ない…僕はまだこんな状態だからね。でも、アルコのことは何とかできるかな。」
「そのアルコって言うあんたの兄貴だけど、どんな人なんだ?」
「アルコかい?…う〜ん」
春樹の問いかけに、ミウルはめちゃくちゃ悩むような態度をとる。
「…そんなに悩まなくても。自分の兄貴だろ?」
「わかってないなぁ…アルコは一言でいえば、めんどくさい奴だよ!脳筋だけど、頭が回るし…口も達者だからね!」
「ミカイルは、大樹の入口を守ってる人って言ってたけど…そこの状況がいまいち掴めないんだよ。ミカイルは自分が嫌われてるから、通るのに苦労するとか言ってたぞ?」
「アルコはこの一件で、この世界の管理をする羽目になったからね。自分のやりたい事はできず…やりたくもない、しかも嫌いな弟の世界の管理をさせられている。相当なフラストレーションが溜まってるはずだよ!そして、それはミカイルのせいだと思ってるからね!」
「なるほどなぁ…そんな最強武闘派の神さまの横をどうやって通るつもりなんだか…」
「…」
春樹の言葉にミウルは無言になる。その様子は真面目に見えた。
その様子に気づいて、春樹は声をかける。
「どうしたんだ?急に黙って…」
「え…?いや…どっ…どうやって通るんだろって思ってね!」
テヘペロと態度を一変するミウルに、春樹は大きくため息をついた。
「真面目に答えろよなぁ…ったく。」
「ハハハ…ごめんごめん。」
(はぁ〜ミカイルのやつ、ルシファをアルコにぶつけさせるつもりなんだろうなぁ…その隙を狙うつもりなんだろ…でも、それを言っちゃうと春樹は絶対止めようとするだろうし…止めてくれていいんだけど、そうすると僕が復活できる確率が下がっちゃうなぁ…さて、どうしたもんかね。)
舌を出しながらゴマかすミウルは、そんなことを考えつつ、春樹に提案する。
「おそらくだけど、そういうことでミカイルがどうするのか、僕にはわからないけど、一つ提案させてくれよ。」
「…提案?なんだよ。」
その言葉に春樹は再びミウルに顔を向ける。
「そう!これから言うことを必ず守ってくれ!」
◆
目を開けると、見慣れた竜車の天井が見えた。
「あら…お目覚めかしら…どうだった?」
目を覚ました春樹に気づいて、ミカエリスは声をかける。春樹はゆっくりと体を起こしながら、それに答えた。
「たぶん大丈夫かな…」
「そう…じゃあこれを試して。」
ミカエリスはコップを一つ春樹に渡すと、水を注ぎ始めた。
「あ〜これやんのね…」
春樹はそう言ってコップを受け取ると、少し目を閉じた後に、ミカエリスにそれを返す。
湯気のたつコップを受け取り、ミカエリスは静かに笑みを浮かべた。
「満点ね…お疲れさま。もう少しで大樹に着くからそれまではゆっくりしていて。」
「ああ…そうさせてもらうよ。」
春樹は竜車の窓から外を見る。
今回はミウルのことを忘れていない。
話した内容を覚えていることにも少し驚いていた。
『これは必ず守ってくれ!』
ミウルにそう言われたことを思い出す。
『ミカイルを止めるのにはあることが不可欠だ。それは僕の復活なんだ…でも、アルコのところで足止め食らってしまうとそれは叶わなかなってしまう。』
『あんたの兄貴ならどうにかできないのか?』
『できるかもしれないし、できないかもしれない。要はわからない、不確定なんだ!』
『じゃあ…どうするんだ?』
『重要なのは僕が復活したと同時にルシファたちと対峙すること…もちろん、君と秋人くんが法陣を使う前にね。これにはタイミングが重要なんだ。君たちが早くてもダメ、ルシファたちが遅くてもダメ。』
『それだって不確定要素が満載じゃねぇか!』
『そう。だから、君には法陣の使用を遅らせて欲しい。』
『遅らせるったってどうやって…』
『頭のいい君ならなんか思いつくだろ?任せる!』
『お前なぁ…て言ってもどうせ何も考えてないんだろ…ハァ…で、守って欲しいことって結局なんだよ?』
『ルシファたちと会っても、そっちには行かないこと。必ずミカイルと行動してくれ。』
『…。』
『頼むよ…。僕はミカイルを止めたいんだ。』
思い返して、春樹はため息を小さく吐いた。
ミウルに言われなければ、ルシファリスたちと会った瞬間に、自分は全力でそちら側についていたことだろう。
でも、それだと状況は良くならない可能性の方が高かった。
春樹は悩む…
ミカエリスの策にのったように見せかけるのは簡単だ。
しかし、おそらくだが春樹の態度を見たルシファリスは怒るだろう。
その事がなぜだか心に引っかかっているのだ。
(ルシファリスを騙すのは気が引ける…どうしたもんか。)
春樹は再び目を閉じた。
窓から吹き込む風が心地よい。
(皮肉だな…争いをしている時でも、世界にはこんな心地よい風が吹くんだから。)
そう考えていると、ふとウェルの顔が浮かんできた。
(ウェルさん…いやスミスさんか。親父の意思を受け継ぎ、この世界に残った異世界人…)
すると、ウェルと話していた時、言われたある言葉が頭をよぎった。
『好きなんでしょ?それなら、好きな人のためには全力を尽くすべきですよ。』
その言葉はその時の春樹にはよくわからなかった。
当たり前だし…
普通の言葉に感じられたから。
しかし、今考えるとそれは春樹の中で違う意味に捉えられた。
父が愛した女性。
彼女を自分も愛してしまっていることについて、不思議な感覚を覚えている。
しかし、そんなことすら関係がなくなるほど、春樹はルシファリスの事が好きでいたのだ。
(親子そろって同じ女性を好きになるなんてなぁ。ルシファリスのために…全力を尽くすか…あいつが本当の意味で笑顔になれるように…)
過ぎゆく空には雲が流れ、遠くに一羽の鳥が飛んでいた。
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