1-25 ルシファリスの記憶②
ルシファが竜人と戦い始めて、どれほど経っただろうか。
力はほぼ均衡しており、互いにこれといった確定打を与えられずにいた。
「フハハハハ!お主、良いぞ!先程の不意打ちといい、戦い慣れしておるな!!」
「バトルジャンキーがっ!あんたと一緒にしないでほしいわ!」
そう会話しながら、互いの力をぶつけ合っては、上手くいなし合う。
その様子を離れて見ている樹も、驚きを隠せない。
「ルシファってあんなに強かったのか…」
「天使族と魔族、それぞれ神の側近である一族なの。強くて当たり前でしょ。」
「まぁ…そうなんだろうけど。戦ってるのを初めて見たからさ…」
「私とルシファの力は、基本的には同等よ。でも、今回はあいつの方が相性がいいわ。私、竜人は苦手なの。竜人は馬鹿力で押すことしか能がない奴らだからね。」
「その竜人って何なんだ?あいつ…いきなり現れたと思ったら、暴れ始めたりしてさ。」
ミカイルは小さくため息を吐くと、説明を始めた。
「竜人は"龍"の落とし子と言われてるわ。突然、世界に現れ、破壊の限りを尽くすの。私たちの仕事には、それを察知して対処する事も含まれてるわ。」
「その"龍"って何なんだよ。そいつが元凶なら、それをやっつければ、解決するんじゃないのか?」
「龍はね、世界の神…ミウル様が生まれる際に、一緒に生まれた副産物らしいわ。あなた、因果律って知ってる?」
ミカイルの問いかけに、樹はすぐに答えた。
「知ってるよ。一切のものは何らかの原因から生じた結果であり、原因がなくては何ものも生じないという法則…って奴だろ?」
「そうよ…世界を創造する者が生まれたことが原因で、それを破壊する者が相対して生まれたの。"龍"とはミウル様と同等の力を持つ、言わば破壊神というわけ…」
「はっ…破壊神…じゃあ、あいつを倒さないと、この世界は破壊されちゃうってことか?!」
ミカイルは、ルシファたちの戦いへ視線を移すと、静かに呟いた。
「ルシファが負ければね…」
◆
空中で、衝撃音が何度も聞こえてくる。そして、少し遅れて衝撃波がまわりの建物を揺らしていく。
(…こいつ、ほんとに強いわね。めんどくさいなぁ…)
ルシファはそう考えながら、距離をとったところに着地する。竜人も数十メートル離れた位置に距離をとった。
「ムゥ…互いになかなか決め手がないなぁ。どうだ?ここは一つ、提案があるのだが…」
「ちょうどいいわ。私も提案があったのよ。」
(…なんかおかしいのよね…この違和感はなんなのかしら…)
竜人はニヤリと笑って、ルシファに告げる。
「お主から良いぞ。レディファーストってやつだな。」
「…ふん。変なとこだけ紳士的ね…別に気を使わなくていいわよ。おそらく…考えてることはあんたと一緒だから。」
「フハハハ!ならば、言う必要はないな。今度こそ、いざ…尋常に…」
竜人はそう言いながら構え始めた。右手を握りしめて、腰を低く構える。すると握りしめた右手には、薄黄色に光る炎のようなものが纏い始めた。
「…物騒なもん振りかざさないでほしいわね。か弱い女の子に…」
ルシファも、そうぼやきながら構えると、全身を紫色のオーラが包み込んでいく。
(…あの白銀のオーラ…かなり洗練されてるわね。抑え切れるかしら…ね。でも、この違和感の正体が私の予想通りなら…)
互いに睨み合いが続く中、破壊された建物から瓦礫が落ちて、地面で砕ける音がした。その瞬間、竜人が地面をえぐるほどの勢いで、ルシファへと飛びかかった。
ルシファは、それを受け止める形で応戦する。
竜虎相撃つ…まさにそんな激闘であった。
◆
「それからどうなったんだ?」
リジャンは、食いつくようにルシファリスへと問いかける。すると、ルシファリスは親指である人物を指し示した。
「そこにいるじゃない。本人に聞いて見たら?」
「本人…?!」
部屋にいる全員が、ルシファリスが指し示す方へと視線を向ける。
「…ルシファリス様も人が悪いですな。そんな昔話からお話になるとは…」
クラージュは多くの視線を浴びて、バツが悪そうにそう答えた。
「えぇぇぇぇぇ!」
「えぇぇぇぇぇ!」
「えぇぇぇぇぇ!」
「クラージュが竜人!!?」
「クラージュが竜人!!?」
「クラージュが竜人!!?」
その場の全員が、顎が外れたように驚きの表情を浮かべたのだ。
「そうよ…クラージュは竜人なの。元…だけどね。」
ルシファリスは全員の反応を無視して、話し始めた。しかし、それに対してリジャンが反応する。
「まっ、待て待て待て待て!!!竜人ってあの龍の落とし子の竜人か!!?伝説の…伝承でしか聞いたことがない存在だぞ!!」
「そうよ…クラージュはその落とし子の竜人よ。そんなに驚くこと?」
「驚くに決まってる!!!!」
「驚くに決まってる!!!!」
「驚くに決まってる!!!!」
「…うっ!!全員で言わなくてもいいじゃない…」
全員から詰められるように視線を注がれて、ルシファリスは少したじろいだ。
「何言ってんだ!!竜人だぞ!!あの破壊神の落とし子と言われた!!」
キクヒトが声を荒げて、ルシファリスへと
詰めかけた。それに対してルシファリスも反論するように口を開く。
「…だから、元って言ったじゃない!!もう過去の話なの!!!クラージュにはそんな意思は元々ない!!だから、ここにもいれるの…じゃなきゃ、今ごろビフレストは灰と化しているはずでしょ。」
「たっ…確かにそうだが…」
「ルシファリス様、ここからは私が…」
クラージュの言葉に、ルシファリスは無言で頷いた。
「お騒がせしてしまい、申し訳ございません。確かに私は"元"竜人でございます。」
クラージュは、部屋の全員に向かって語り始めた。
「しかしながら、皆様の認識と事実は少々異なりまして…本来、竜人とは竜人族という一族のことであり、魔族であるルシファ様や天使族であるミカイル様が仕えておられたのが創造の神であるミウル様ならば、竜人族は破壊の神とされる龍…アルコ様に仕えておりました。」
「竜人族…とその主神アルコ…」
リジャンは神妙な顔でクラージュの話を聞いている。
「はるか昔より、この世界では竜人族と魔族、天使族は互いにその存在を知らされることなく、竜人族が世界に降り立ち、ひとたび悪さを始めると相対する…それを繰り返してきたのです。」
「…」
「…」
「…」
「しかし、それは私とルシファリス様が出会ったことで、終わりを告げました。」
「どういうことだ…?」
リジャンがクラージュへ疑問を投げかけると、クラージュでなくルシファリスが答える。
「クラージュと拳を交えた時、違和感を感じたのよ。"こいつは私のこと殺す気がない"ってね。おかしいと思わない?破壊のために世界に降り立ったのに、それを邪魔する私を殺す気がないなんて…普通なら邪魔されないように、その場で消すはずでしょ?」
ルシファリスはゆっくりと立ち上がって、窓の外を見ながら話し始めた。
「"龍"とは世界を壊すもの…なぜこんなものが存在するのか…いえ、そもそもアルコは破壊神ではないことに、私は気づいたのよ。気づいてしまったの…クラージュとの戦いの中で感じた違和感から…」
ルシファリスは大きくため息をつくと、振り向いてその場にいる全員と告げた。
「そしてそれが、私たちが天使族と魔族の争いの発端となり、世界を分断する事になってしまったの…」
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