1-15 出会い
城内の長い廊下。
ミカエリスの後ろを、春樹は無言で歩いていく。横にはクロスも歩いている。
「どこに行くんだ?」
「言ったでしょ。合わせたい人がいるのよ。」
春樹の問いに、ミカエリスは振り返らずに応える。すると、今度はクロスが春樹の肩へと腕をかけて、話しかけてきた。
「俺もよぉ、初めて会うんだ。楽しみだよなぁ…ハハハ」
春樹はクロスの言葉には何も返さない。そんな春樹の態度に、クロスは気に食わないといったように舌打ちして、ミカエリスの横につくと、ボソリと呟いた。
「態度悪りぃぜ。全くよ。」
「まぁ、あなたに攫われたんだしね。しかも、痛めつけられたんだから、嫌われても仕方ないわ。」
「指示したのはあんだだろ…ったくよ。やってらんねぇぜ。」
頭を掻いて愚痴をこぼすクロスと、それに笑みを浮かべるミカエリス。春樹はそんな二人を後ろから眺めている。
(一体誰に合わせるつもりなんだ…)
そう考えていると、ミカエリスがある扉の前で立ち止まる。
「ここよ。」
そう言って扉を開くと、中へ入っていく。春樹も、クロスに続いて部屋に入ると、中は薄暗く、窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らしていて、誰がいるのかよくわからなかった。
窓が一つ、開いていて、冷たい夜風が時折レースのカーテンを揺らしている。
「…誰?」
三人に気づいて、何処からか声がかけられる。春樹は目を凝らして部屋の中を伺うと、ベッドの上に座る一人の青年を見つけた。
「起きていたのね。あなたにお友達を連れてきたのよ。」
ミカエリスはそう言って、ベッドに近づいていく。春樹とクロスもそれに続き、ベッドの側に寄っていくと、一人の青年が座っていた。
黒く、肩まで伸びた髪は、まるで何年も整えていないかのようにボサボサだ。目も前髪で隠れていて、表情が良く見えない。服装は町民のような質素な長袖の白シャツと、カーキ色に似た長ズボンを履いて、ベッドに片膝をつき、窓の外に体を向けている。
「…とっ、友達?」
「そうよ。友達よ。」
「…二人とも?」
青年は、春樹とクロスへ交互に顔を向ける。
「まぁ、どちらかと言えば、白衣の彼ね。」
「…君か。」
青年の顔が、春樹に向いて止まる。
春樹はどう対応して良いかわからず、青年を注視したまま、動けずにいる。
青年は首を傾げた。
「君は…右目に怪我を…?」
「…?…あぁ、そうだけど…」
急に自身の事を問いかけられて、春樹は動揺しつつも青年の問いかけに答えた。しかし、青年はそれ以降、口を開かず、春樹が困ってミカエリスの方をチラリと見ると、笑みを浮かべながら彼女は青年へと話しかけ始めた。
「アキト、彼はあなたと同じ異世界から来た人間よ。」
春樹はその一言目を聞いて、驚愕した。
「なっ!!なんだって!彼も異世界人なのか!?」
秋人もその言葉に驚き、春樹の顔を見たまま、小さく呟く。
「君もか…フフフ。」
「…秋人?だったっけ…君はいつからこちらの世界にいるんだ…?どうして来たのか…覚えているか?」
春樹は、少し言葉早に秋人に質問する。
しかし、秋人は無言のまま、その問いかけにはミカエリスが答えた。
「3、4年ほど前かしらね。」
「俺は彼に聞いているんだ!あんたは黙っててくれ!」
「無理よ。彼は記憶の大半を失っているもの…」
「なっ…そうなのか…」
秋人は、ニコリとするだけで、何も答えない。悔しそうにする春樹に、今度はクロスが声をかける。
「そう嘆くなよ。そいつが記憶を失っていて悔しいのは、お前だけじゃねぇからよ。」
「…どういう意味だ?」
春樹が問いかけるが、クロスはそれ以上は言わないといったように、そっぽを向いた。ミカエリスが言葉を繋ぐように、口を開く。
「彼は、ここへ来た時には記憶を失っていて、自分が異世界から来た事以外、覚えていないの。」
「どうして記憶がないんだ?」
「それはわからない…ただ、異世界から来たのは嘘ではないわ。」
「…その理由は?」
春樹の問いかけに、ミカエリスは、まるで彼に聞けというように、秋人の方へと視線を促した。
春樹は秋人に問いかける。
「君は、本当に異世界から来たのか?」
すると、秋人は再び春樹の方を向いて、口を開いた。
「ああ…それは間違いないと思うよ。ゲームしてて、気づいたら森の中にいたんだ。それは鮮明に覚えている。森から出る途中で、魔物に襲われたとこまでしか覚えてないんだけど…」
「…その時に大怪我を負って、そのショックで記憶をなくしたとか…?」
「…ん〜大怪我…と言うわけじゃないだろうけど…」
そう言って、秋人は自分の右手を、春樹の顔の前にかざした。その手には本来あるべき小指がない。
「小指…取られちゃったみたいだね。」
秋人はぼそっと呟いた。
春樹は大きくため息をついて、頭を掻く。
(彼が本当に異世界人だとしたら…俺が来た時とタイミングはほぼ同じ…だけど、記憶を失っているとは…どうにか…)
「記憶を取り戻さないと…」
春樹はその瞬間、その言葉を発した女に顔を向ける。ミカエリスは春樹にニコリと笑いかけている。
「なぜ俺が…いや、いい。彼と合わせた理由について、教えてくれて…そのつもりなんだろ?」
春樹のその言葉に、ミカエリスは「もちろんよ。」と言って、秋人のそばから離れて、開いた窓の縁へと座り込む。
風が彼女の髪を優しく撫でると、柔らかな女性の香りが、春樹の鼻に届いた。
「春樹にはさっき伝えたわね。神の復活と魔族の殲滅。神のご意志であり、世界に本当の平和をもたらすために、この二つは必ず必要なことよ。」
春樹も秋人も、無言のままミカエリスを注視している。クロスはというと、飽きたのか離れたソファーに寝そべっていた。
「まずは世界の成り立ちについて、もう少し詳しく話しましょう。今から話すのは私の記憶…」
そうして、ミカエリスは話し始めた。
◆
バンッと扉が開かれて、一人の女性が歩いてくる。表情はどうも怒っているようにも、見えるが第一声を聞くと、それは間違っていなかった。
「ミウル様!!ルシファったら、また仕事をサボっていますわ!」
ボブに整えられた金の髪を揺らして、声を大きくしながら、言葉を投げるその先には、笑顔で台座に座る者がいた。
金色の長い髪には少しウェーブがかかり、長いまつげに深海を思わせるようなブルーの瞳、表情は凛としていて顔立ちは中世的である。
「ハハハ…ルシファも相変わらずだね。」
ミウルと呼ばれた者は、笑いながらミカイルという女性へと返事をする。しかし、ミカイルは、納得いかないといったように、言葉を重ね続ける。
「笑い事ではありません!彼女は最近、怠慢がひどいですわ!仕事は部下に任せっきりでサボってばかり!私にもそのしわ寄せがきているのですから!!ミウル様からも一つ、お灸を据えてください!」
「そう言わないで、ミカイル。彼女もあれでいて、やる時はやる子だよ。」
「ミウル様がそんなんだから、彼女は調子に乗るのです!もうっ!私が言ってきます!」
ミカイルは、怒って部屋から出て行ってしまう。その様子を見て、ミウルは苦笑いを浮かべながら呟いた。
「相変わらずだなぁ…しかし、甘やかしすぎるのも良くないねぇ。後でちょっと話しておくかな。」
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