#15 団長とマリー
「私はメイビス・ギルモート、団長のお兄さんの娘として生まれました。娘…と言っても私は彼の隠し子として、存在を抹消されていましたが。彼は正式な妻がいながら、別のところで女を作り、彼女を孕ませました。そのお腹の中にいたのが私です。私の父は母が子供ができたと知ると、すぐに彼女の元を去りました。母は私が生まれてから働きに出かけました。私を祖母に預けて。祖父も亡くなり、家は元々裕福ではありません。母が働きにいくしかありませんでした。
12歳の時に祖母が亡くなりました。母は相変わらず働きに出ていたので、私はずっと一人ぼっちでした。そして去年、そんな母が亡くなりました。過労によるものでした。
身内がいなくなり、途方に暮れていた私を助けてくれたのが叔父のアランでした。彼は出会うなり、私に謝って来ました。『知らなかったとはいえ、17年もの間、君たちのことを助けてあげられなくて、本当に申し訳ないと思っている。兄に代わって謝らせてくれ。』と。彼は必要以上に責任感の強い人です。どうしてこの人が謝っているんだろうと思いましたし、どうしてもっと早く助けに来てくれなかったのだろう、とも思いました。後少し早ければ、母は過労で死ぬこともなかったでしょう……実の父のこともあり、少しばかりギルモート家には不信感がありました。それでも誠実に私に向き合って謝ってくれたアランさんにはあまり嫌な気はしませんでした。アランさんが気に入らなかったところで、私に選択肢はありませんでしたけど。それでも私はあの人について行ったのは間違っていなかったと、今でも思っています。
団長の親族であることは、別に隠していたつもりではないんです。ただ、彼は私のことを親族だと言う風には紹介しませんでした。このサーカス団の中にはいずれ団長の後を継ぎ、トップに立ちたいと思っている人もいます。団長にはお子さんがいらっしゃらないから。でもそこに親族が来たとなると、私に向けられる目は厳しいものになるかもしれないと、彼なりに考えたのでしょう。結果的に、団の中で、私と団長との変な噂が立ってしまったんですけどね。」
マリーは自身の生い立ち、そしてこのサーカス団に来た経緯をコランたちに教えてくれた。
「それじゃ、あの同じ香りの香水は団長からのプレゼント?」
「はい。私が団長の跡を継いで、猛獣使いになる際にもらったものです。」
「猛獣使いになる時に?どうして?」
ルイは頭に浮かんだ疑問を口に出した。確かに引っかかる言葉だった。どうして猛獣使いになるのに香水が必要なのだろうか。
「そうね…これはずっと秘密にしていたことなんだけど。今更もう秘密にする必要もなさそうだから。教えてあげるわ。ついて来て頂戴。」
マリーは腰掛けていたエリのベッドから立ち上がると、扉の方へ歩き出した。コラン、ルイ、エリはそれに続いた。
マリーが向かった先はレオンのところだった。彼は退屈そうにして檻の中をうろうろしている。3人は檻の手前で引き止められた。
「ちょっと失礼するわよ。」
そういうとマリーは履いていたブーツに忍ばせておいた、小さな香水瓶を取り出し、コランたちに振りかけた。
「これでレオンの前まで行ってみて。」
3人は言われた通りに檻の前に行く。いつもなら吠えられている距離まで近づいているのに、レオンは相変わらず大人しく、檻の中をうろうろしているだけだった。
「これってこの香水のおかげ?」
エリがマリーの顔を見て聞く。
「そう。この子、アランさんがずっと面倒見ていた子で、世話をされているうちに彼の香水の香りを覚えみたいで。だから、この香水をつけている人間には警戒して吠えたりしないの。」
「レオンは香りだけで人を見分けているんですか?」
今度はルイが質問する。
「前までは香りだけではダメだったわ。ライオンは目がいいから、視覚でもちゃんと私たちとそれ以外の人を見分けていたわ。でもこの機会だから彼の目をよく見てみて。瞳が白くなっているでしょ。」
3人は言われてレオンの瞳を覗き込む。彼の目は確かに白く濁っていた。
「私が来てすぐに、この子、白内障になったの。だから今はほとんど目が見えていないはずよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます