#14 マリーの正体

 確認したいのは、ライオンをどう黙らせたのかということだ。犯人はどうやってあのライオンをほえさせることなく、団長の遺体を檻の前に置いたのだろうか。

捜査にあたる前に、コランはルイとエリの様子を見に行くことにした。もう彼らを助手として連れ回して、危険な目に合わせるつもりはない。彼はただ2人のことが心配だった。彼らはてっきりマリーの部屋にいるのかと思ったが、彼女の部屋からは反応がなかった。コランは次に、ルイとエリが使う部屋へと向かった。ノックをするとマリーが返事をした。3人はそこにいた。ルイとエリはそれぞれのベッドに腰掛け、エリの隣にマリーが座っていた。彼らは傷心しているようだった。


「コランさん……」


ルイが顔を上げた。


「ジャックはトム…俺の友人が連れて行ってくれた。襲われる心配はもうない。」


そういう問題ではないことはコランは重々承知だった。しかし、他に掛ける言葉を見つけることができなかった。


「ジャックさんは、家族のいない僕たちからしたらお兄さんみたいな人で。とても頼りにしていたのに……どうし人殺しなんて……」


父親代わりでもあった団長を殺され、兄同然に慕っていたジャックの凶悪な事実を突きつけられて、平気でいられるわけがない。


女性連続殺人事件が発生したのは3年ほど前だと聞いている。ジャックはいつからこのサーカス団にいたのか、何が彼を変えてしまったのか、彼はその凶悪性をいつから持っていたのだろうか……コランはこんな状態で双子に詳細な話を聞こうとは思わない。そこまで人の心を捨てているつもりはなかった。気になることは後で警官の友人にでも聞けばいい。


「マリーさんはどうしてあの場に駆けつけてくれたんですか?」


これはトムに聞いたってわからない質問だ。団長の時とは違い、彼女は随分と落ち着き払っているように見えた。というか殺人鬼に立ち向かっていく様子からも、彼女は何かしら、覚悟を固めたようにも見て取れた。


「エリからあなたたちのことを聞いて。少し嫌な予感がしたんです。悪い予感は的中してしまったようですが。」


「あなたがいなければ俺は奴に殺されていたかも知れません。本当にありがとうございました。」


「いえ、私はすべきことをしたというか……もちろんあなたに死なれてしまって、このサーカスに死体がもう一体増えてしまうのは困りますが、それよりも私はルイくんとエリちゃんを守らなければいけないので。」


言い方からしてマリーからしたらコランのことはどうでも良かったようだ。それはいいとして、彼女が双子を守らなきゃいけない……と言ったことがコランは気になった。


「叔父との約束なんです。もし自身に何かあったら双子を守ってやってほしいと。」


「叔父って……」


コランは思い当たる。同じ香りの香水。そしてルイとエリのこと。彼らを親同然に大切に育てていたのは。


「あなた、団長のご家族なんですか?」


コランはマリーに問いかける。


「えぇ。家族というか、親戚です。私はマリー・ギルモート。このサーカス団団長、アラン・ギルモートの姪です。」


この言葉にはコランだけでなく、ルイもエリも驚いた。

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