#7 団長室

練習場所、食堂、ステージであるテント…どこを探してもエリの姿を見つけることはできなかった。彼女はどこかに潜んでいるのだろうか、それとも、もうすでに…コランは首を横に振って悪い予想を振り払った。


最後にたどり着いたのは団長室だった。主人を失った部屋の扉は、開けっぱなしになっていた。徹底的にエリを探すと決めていたルイとコランは迷うことなく団長室に入った。パッと見たところ、部屋の中は争った形跡はなく、整理されていた。


「昨夜、団長室に入った時と何か変わったことはあるか?」


コランはルイに聞いた。


「…見た感じ特に変化はなさそうです。」


ただでさえ、あまり声を張らないルイだが、答えた声はなんだか消え入るような声だった。昨夜、団長と楽しく話していた情景でも思い出したのだろう。エリがどこにいるのかという心配も相まって、ルイは自身の感情を表に出さまいと必死なように見てとれた。


とりあえずエリがどこかに隠れていないか探してみる。ベットの下、机の下と隠れていそうな場所を探してみる。コランはついでに引き出しの中を開けるなどしてあたりに不審なものがないかを調べる。机の2段目の引き出しを開けると、中身は空っぽだった。きっとエリはこの引き出しに入っていたものを盗っていったのだろう。一体何が入っていたのだろうか。


棚のあたりも調べてみる。棚の上には立派な装飾が施された香水の瓶が置いてあった。蓋はされておらず、どうやらどこかに落ちてしまっているようだった。瓶を持ち上げ、香水の香りを嗅ぐ。綺麗な花束に顔を埋めているよな、フローラルな香り。団長の趣味としては少し意外だった。タンスの下に目をやる。この部屋には絨毯が引かれているのだが、その絨毯には赤黒いシミがついていた。


「…これは、血だな。」


コランの呟きにルイが振り返る。コランは心の中で思っただけのつもりだったが、声に出てしまっていたようだ。


「どうしてこんなところに血の跡が…」


「エリが忍び込んでいた、そして扉が開いていたこからこの部屋には誰でも侵入できることになっている。そうなると誰の血であるのかを断定するのは今の時点では難しい。ただ、団長の頭部には殴られたような跡があった。そして部屋にあった血の跡…団長がこの部屋で殴られて殺された可能性が出てきた。」


「犯人はわざわざレオンの檻の前に、団長の死体を運んだということですか。」


「おそらく。そんなことを労力をかけてしたとなると、犯人はどうしてもマリーに罪をなすりつけたがっているようだ。」


2人はそんな会話をしながら、引き続き、エリと、何か証拠がないかと辺りを探した。


「え…エリ!!どうしてこんなところにいるんだ!?」


ルイが驚いて声をあげた。彼はクローゼットを開けていた。コランがクローゼットの前へ行くと、その中にはルイの双子の妹、エリが蹲っていた。手足を縛られたりしている様子はなく、どうやらエリは自分の意思で団長室のクローゼットに隠れているらしかった。


「どうして隠れていたりしたんだ!殺されてしまったんじゃないかと思って心配してたんだぞ!!」


ルイの怒鳴る声が、部屋に響いた。彼はこんな大声を出せるのかと、コランは少し驚いた。


「ごめんなさい…今朝団長が殺されたって聞いて、びっくりしちゃって…昨日私団長室に忍び込んで怪しまれることしたから、犯人にされちゃうんじゃないかって思って…それで…」


ルイは冷静を装ってコランについてきているが、言っても2人はまだ12歳の子供だ。エリのようにパニックになるのが普通であろう。


コランはエリをクローゼットから出し、それから彼女の頭に優しく手をおいた。


「身近な人が殺されたら、それはショックだよな。まずは落ち着こう。大丈夫。誰も君が犯人だなんて疑ってはいない。1人で怖かっただろう。もう大丈夫だ。」


コランはこんな姿、トムに見られたら、らしくないと笑われてしまうなと思いながら、エリを慰めた。エリはその近くにいる大人は危険ではないと判断したらしく、彼に抱きつき、大声で涙を流した。コランは近くにいたルイの頭にも手を伸ばす。彼だって溢れる悲しみを押さえつけて、捜査の邪魔にならないようにと、冷静を装っていたはずだ。団長への想いが強いからと言って12歳の少年を殺人事件の捜査の助手にするのは間違っていたかなと、今更ながらにコランは思った。ルイは静かに涙を流していた。

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