#8 新たな手がかり
「私は、私たちの秘密を知りたくて、団長室に入ったの。」
落ち着きを取り戻したエリはコランに話してくれた。
「……秘密?」
どうやらルイには心当たりがないらしい。
「だっておかしいじゃない。私たちがサーカスにいるのって。団長はずっと自分は本当のお父さんじゃないって言い続けていて、そのくせ私たちがどこで生まれて、本当のお父さんとお母さんのことは教えてくれなくて……私は自分が何者なのかを知りたい。もし本当のお父さんとお母さんが生きているのであれば、会いたい。だから私は自分で調べることにしたの。」
「団長室に入ったのは昨日が初めてというわけじゃなかったの?」
「いけないことをしているっていうことはわかっていた。でも一度にそんなに長い間部屋を調べられなくて、隙を伺ってはこの部屋を調べていたわ。そんなことをしていたらまさか団長が殺されてしまうなんて……部屋に勝手に入ったこと、余計な心配をかけたことは謝ります。ごめんなさい。」
エリはルイよりもしっかりとした印象だ。それにしてもこの2人は双子にしては見れば見るほどに似ていない。
「まぁ、何かを盗んだわけじゃないからいいんじゃないか。」
部屋の主は殺されてしまったしな、と続けそうになったが、コランは黙った。
「コランさん違いますよ。モーリスさんの話だと、昨日、エリは何か持ち出したって言ってたじゃないですか。」
後先を考えず、ただただ正義感だけで言ったのか、それとも身内に厳しいだけなのか、ルイは指摘した。エリは昨日、一体何を見つけて、自室へ持ち帰ったのだろうか。
「だから言ったじゃない。私は私たちの秘密を知りたいんだって。あの書類は私たちの出生について書かれている資料だったわ……昨日は暗がりで見つけて、詳しくは読めなかったから、そのまま部屋に持ち帰ったわ。今朝バタバタしていたせいで内容までは確認できなかったけど。」
「そういえば、エリちゃんが団長室に忍び込んだのは何時頃だい?その時団長は見た?」
「正確な時間はわからないけど、0時30分くらいだったと思います。ルイが部屋に帰ってきてからだいぶ経っていたから……団長室の前に行ったらもう暗かったわ。てっきり団長がベットで寝ているのかと思ってたけど部屋には誰もいませんでした。」
ここまでの話だと死亡推定時刻は23時から0時30分までの間なのではないかと予想される。それにしても、ここの団員たちは夜によく動く。昼あれだけのパフォーマンスをしておいて疲れないのだろうか、とコランは感心してしまった。
「これはルイにも聞いたことなんだが、エリちゃん、この部屋、昨日と何か変わったことはあるかい?」
コランに聞かれるとエリは部屋中をじっくりと観察した。
「あ。」
彼女は何かに気がついたようだった。
「そういえばそこの棚にあったトロフィーがなくなっています。5年前に行われたサーカス大会で優勝した際にもらったもので。団長がとても大事にしていたものです。」
「そういえば、なくなっている……」
ルイはエリに言われてやっと気がついたようだった。ルイには申し訳ないがエリの方が探偵助手に向いてるんじゃないだろうか。
「一体いつなくなったんだろう。私がここにきた時は暗くてあったかどうかわからないのだけど……」
トロフィーがあったとされる真下に血の跡がある。
「昨日、団長と話をしていた時にトロフィーがあったかどうかは覚えているか?」
コランはルイに聞いた。
「すみません。わからないです……あ、でももしかしたら、マリーさんがわかるかもしれません。僕とお話ししていた途中、ちょっとの時間ですが団長室にきたので。」
「じゃあ、マリーに確認してみよう。彼女には色々聞きたいこともあるしな。もしかしたら団長は、彼はライオンの檻の前ではなく、この部屋で、トロフィーが頭上に落ちてきた、もしくは殴られたかして死んだ可能性が出てきた。そうすると凶器であるトロフィーの行方を知る必要がある。」
コランは右手を顎に当ててしばらくの間、頭の中を整理した。パズルは着実に集まっているようだ。
「そうと決まれば次はマリーさんのお部屋ですね。案内します。」
「だったら私も行きます。今の様子を見ている限り、兄だけでは頼りなさそうなので。」
エリは兄を目の前にして言い放った。コランとしても犯人がまだ野放しになっている以上、サーカスの最年少たちが自身の目の届く場所にいてくれるのは安心する……先ほどからコランたちを付けているものもいるようだし。コランは視線の感じる方へと目をやった。しかしそこには人影は見えなかった。こちらから見えないように隠れているのだろう。あとをつけてきているのは団長を殺した犯人か、もしくは別の誰かか……どちらにせよ、一層用心をする必要があるのは間違いなかった。
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