第3話:第三の差
入団試験に落ちてから、おおよそ半年。
実家で家業を手伝う傍ら、ハルモは試験の勉強、訓練を積んでいた。
いつか騎士となるために。――その夢のために、彼は努力を続ける道を選んだ。一年あれば、差はもっと大きく開くだろう。
今日も農業・家業に従事するハルモとは違い、デュスノは騎士として厳しい訓練に勤しんでいることだろう。
彼は、枯れ木のくせに深く土に根を張った木を、汗だくになりながらシャベルで掘り返す。それが終われば麦を借り入れ、収穫した果物を砂糖に漬ける。
対してデュスノは朝から晩まで訓練と勉学に励むだろう。
一日ごとに、差は開いていく。
「僕に、せめて上背だけでもあれば……」
目の前の木の根も、手早く抜けただろうか。試験相手を打ち負かし、自らの技量を示せただろうか。
かぶりを振った少年は自分の言葉を否定するように、力いっぱい根にシャベルを叩きつける。跳ね返ってくる振動に、顔をゆがめた。
そんな焦燥募る、秋麦の穂が大きくなってきたころ。
悪意は徒党を組んでやってきた。
ハルモたちの街は豊作な農作物と、各地から入る品物の交易で繁盛してきた街だ。収穫の秋か、冬を乗り越え新しい品の入る春は、悪意ある者たちの狙い目になりやすい。
遠くより砂煙を上げて迫りくる一団から、ハルモを含め農民たちは街の城壁内へ逃げるしかない。
それとは対照的に城壁の外に走り出したのは、テュケーの騎士団。
「我ら騎士団の正義に刃、命が惜しくなければ受けてみるがいい!!」
街の食料を狙う野盗たちを正面から迎え撃った騎士団は、その実力を持って野盗たちを蹴散らしていく。一切の遠慮も手加減もなく、全力を持って迎撃した。
野盗たちは騎士団との実力差を理解すると、馬首を返して走り去っていった。
街の人々は戻ってくる騎士たちに歓喜と花を持って迎え入れる。拍手の飛び交う喧騒の中、ハルモの目に立派な鎧と剣を持ったデュスノの姿が映った。
高価な絹の肌着に頑丈な鎧をまとった立派な騎士としての姿をしている。自分の土に汚れた安い木綿服が、なんともみすぼらしく思えた。
「これが、俺とお前の差だ」
すれ違いざま、その一言に、ハルモの返事はなかった。ただ彼はじっと、デュスノの後姿を見ているしかなかった。
こうして三度、差が開いた。
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