未成年はダメですよ

「てゆーかさ、おじさん」

「お、おじさんっ!?」

「ちょっと若そうだけどおじさんでしょ? 名前は何て言うの?」

 つい手元のリーガルのグラスを落としそうになった。「須田だよ。須田実」確かにここ最近運動が減って肉付きはよくなってるが、おじさん扱いは無いだろと女子高生の若さに反発してると、「須田さん尾行つけてたでしょ。ホテルまで」


 ――実はね、最初からつけられてたのは気づいてたんだけど、敢えて泳がせてたんだ。

 なんだと。尾行に気付かれてたのか。「でも何でそんなことしたんだ? 俺を振りきるならまだしも、わざわざ写真撮られるなんておかしいだろ」

「んー特に理由もないけど。でもバレちゃったんだし、ろくな報告出来ないでしょ?これじゃあ報酬も貰えないかなぁ~」

「お、お前ってやつは」マジでこいつ叩いてやろうかと思ったが、深呼吸してクールさを取り戻す。

「お母さんの依頼なんでしょ?娘の不貞相手を見つけてくれって」

「まぁそんなとこだな。娘が心配なんだろうよ」と俺はなげやりに言った。

 尾行もバレて、依頼人まで見当つけられてるんじゃどうしようもねぇな。今後の事を考えるだけでめんどくせぇ。

 認めるついでに、ノンアルコールカクテルを出してやったが、お酒飲みたかったのにと拗ねる顔を見れて、ちょっと溜飲が下がった。

「あの人が心配ねー。どうせ世間体を気にしての事なんだろうけど。それでも探偵雇うかな」

 厳密にいやぁバーテンダー兼使いっぱしりな訳だが、ここは敢えて言わないでおくことにして、例の親父について尋ねる。

「ところでよ。あの男との関係はなんなんだよ」

「あぁ、あれはパパ活だよ。結構な小遣い稼ぎになるんだよね」

「パパ活だぁ?よくまぁそんな援交みたいなもんに手出すな。いつか痛い目みるぞ」

「食事とか添い寝程度だから心配ないよ。優しいおじさんばっかだからさ」

 こういう年頃は、優しさの意味を履き違えるよな。それは優しさじゃなくて下心ってやつだよ。なんて言っても聞きゃしないんだよなぁ。

「っていうか、お前の実家は金持ちなんだろ?なら金に困ってるわけでもないんだし、そんな危ない橋を渡る必要もねぇだろ」

「お金じゃないんだよ。私は居場所が欲しいの。学校でも家でも、まるで空気のように誰も私を見てくれない。でもパパ活で会ってくれる人は、ちゃんと私を見て、悩みを聞いてくれるの」

 彼女はそういうと、振り向いて俺に言った。「あの人に報告してもいいけど、この店は盗撮をしてるってSNSで拡散するからね」

 ふん。一丁前に脅しなんてしやがって。

 それなら俺にも考えはあるぜ。


「どうだ。証拠写真は撮れたか」

「いやーまだっす。それよりオーナーちょっと調べてほしいことがあるんですけど―――」

 

「―――ちゃん。華代ちゃん」

「ん? あぁごめんごめん。何だっけ?」

「どうしたんだい? 何か悩みでもあるのかな? 良かったら話聞くよ」

「うん。大丈夫だよ」

 イタリアンで食事をしてる間、どうにもバーでの会話を思い出してしまう。説教じみたこと言うおじさんだったけど、きっと馬鹿なガキだなんて思われてるんだろうな。

 でもこっちからしたら、大人なんてもっとバカだ。

 子供の事を正面から見ようともしないんだから。

「じゃあいつものように休憩しようか」

 ホテルに到着すると、手慣れたように一番安い客室のボタンを押す。今日は空いているみたいだ。

 須田さんは、危ないからやめろ何て言ってたけど、今時パパ活なんて誰でもやってるんだよ。

「さぁドリンクでも飲んでよ」

 部屋に入り上着を脱いでると、おじさんがソフトドリンクを渡してくれた。ちょうど喉が乾いてたから一息に飲む。(…あれ……?力が入らない……?なんで? )

 なんでか解らないけど、急に体が重くなって、身動きが取れなくなってしまった。

「さぁこれから楽しもうね。華代ちゃんもOKだろ?」

 はぁ?OK?何言ってるのこの人と身の危険を感じたけど、体は思うように言うことを聞いてくれない。

 なおもおじさんは服に手を伸ばす。

「ちょっと話聞くそぶり見せたら、君みたいな女の子はすぐひっかかるんだから。おじさんとしては助かるけどね」

(そうか、最初から体が目当てだったんだ。やっぱり私に味方なんていないんだ)もうどうでもいいやと抵抗するのもやめ、シャツのボタンに手がかかったその時―――


「おいっ!!華代大丈夫かっ!?」

「な、なんだね君はっ?」

「てめぇこそ何やってんだよクソジジィがっ!」

 突然入ってきた須田さんは、私を襲ったおじさんを思いっきり殴って失神させた。

「大丈夫か?何もされてないか?」

「うん。押し倒されただけだよ」

 そう聞くと、須田さんは凄く悲しそうな顔を見せた。

「おい。おっさんよ」

「ひゃひゃい!」

「 お前がやったことはこの写真に納めてあるからよ。今まで相当な人数相手してたみてぇだけど、全て証拠は警察に提出してある。覚悟しとけよ」

 その一言でおじさんはうなだれてしまった。

「なぁ。今回の事でどれだけ危ないことしてたか解ったろ?」

「……うん。でもなんでここが解ったの? 」

 須田さんは口を濁してたけど、どうやら私の事が心配で、今日ここに来ることを調べたみたいだ。それとおじさんのこれ迄の余罪も含めて調べたらしい。

「もし辛くて誰かに話を聞いてほしい時は、俺が聞いてやる。友達が欲しいなら俺がなってやる。だからもう無茶はするな。それにバーテンダーが友達なんて学校で自慢できるだろ?」

「えー須田さんおじさんだからなー。狙われちゃうかもしんないし」

「俺は年上が好みだバカヤロー」

 そう言うと笑顔で私の頭を撫でてくれたのだ。


「あの中年男の情報は教えたが、本当に何も無かったんだな」

「なーんもなかったっすよ。心配するようなことは何も」

(めっちゃ恐ぇぇ。視線で殺せるわこの人)

 後日、依頼された仕事はという報告をした。

 オーナーは怪しんでるというか、気づいてそうだが見逃してくれたみたいで助かった。いやマジで店無くなるところだったわ。


 その日の夜、いつものようにバーテンダー業に勤しんでると、一人のお客が来店した。以前と同じように正面のカウンターチェアに腰かける。

「ウィスキーを下さる?」

「ノンアルコールでよろしければ」

 彼女は嬉しそうに笑っていた。

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