バーテンダーにお任せあれ
きょんきょん
ようこそAmourへ
大都会東京都町田市(神奈川県)
この『西の渋谷』とも言われ、人口42 万人を擁する町田に、バー『アムール』を開店して早一年。
磨きあげられたバカラのグラスが壁一面に収納され、仄かな照明が乱反射し、さながらステンドグラスのような美しさを見せる。
店内のBGMは、客層に合わせ曲調を変え、居心地の良い空間を演出する。
アンティークチェアにもこだわり、この椅子に座った客は、至福の時を過ごすだろう。
この店も紆余曲折あったが、何とか軌道に乗った。それも日々この店を訪れてくれるお客様あってのものだ。
トゥルルルル…
(おっと電話だ。こんな時間帯に誰だ?もう店を閉じようと思っていたのに)
もちろんそんな失礼な態度は表に出さない。電話一つとってもスマートな対応をするのが一流のバーテンダーってもんさ。
「お電話有難うございます。アムールでございます」
「おい。仕事だ。来い」
「へい」
「声キモいぞ」
「申し訳ございません」
完璧な人間なんていないわな。さーお仕事に行きますか。
今日の仕事は、依頼主の娘の身辺調査だ。
「また身辺調査っすか?もういい加減うんざりなんですけど」
「ど阿呆が。こういう仕事を地道にこなしてこそのバーテンダだろうが」
「こなした結果、三流のパパラッチみたいになってますけどね」
「うるせぇ。いいか?今回の依頼主は、田園調布の有閑マダムだ。その娘さんにどうやら男の影がちらついてるから調べてくれだとよ。あれだけの太客は落とす額が桁違いだからな。絶対にとちんじゃねぇぞ」
「はいはい子供想いな母親な事で。そんで報酬はどの位で?」
「完全な証拠を収めれば五百万だ。あとはいつも通り、お前の店のスポンサーになる算段だ。わかってるだろうがバレんなよ」
「確かにそれだけの上顧客なら、うちの店にとって福の神になりそうっすね」
「だが、満足いく結果が出なかったら、店は閉めるからな」
「わ、わかってますよ~オーナ~とりあえず今月の売り上げです~」
「目標売上越えてねぇじゃねぇか。穴埋めとけよ」
「つれぇ」
「ならさっさと借金返すんだな」
このスキンヘッドの海坊主みたいな人はオーナーの金城剛。そして俺は雇われ店長の須田実(28)
この人の気まぐれ一つで俺の首は飛んでしまうし、俺の城も吹き飛んでしまう。
(店名はオーナーがつけたのだが、アムールは日本語で愛だ。何処に愛がある)
なので、今日もバーテンダーのプライドを棄て仕事に邁進する。
オーナーの何やら胡散臭い人脈で仕事を請け負い、雇われ店長である俺が解決する。その見返りとして、報酬+アムールの顧客になるという流れになっているのである。
オーナー曰く、これもバーテンダーの仕事だとの事。はぁそっすか。
とにかくうちの店は常連でなりたっているから、断りたくても断れないんだよ。ちくしょー。
「さっさと借金返して、バーテンダーに専念してやる!!」
後日、愛機ニコンD500を携えて、ターゲットである旦那の尾行を開始した。
ターゲットの名前は西園寺華代(16)都内のお嬢様学校に在学。犯罪歴はなし。素行に問題なし。友達もなし…。
これと言った特徴はない何処にでもいそうな女子高生だ。しかし母親も娘の素行を心配するならともかく、探偵紛いを雇ってまで身辺調査を依頼するというのは、少々いきすぎな気もするが…。
これも太客をゲットする為だと気合いを入れ、12月の寒空の下じっと動向を観察していた。
こういう依頼は、基本長時間の張り込みになる事が多いので、とにかく忍耐強くなければならない。暫く待ち構えてると、曲がり角から仕立ての良いスーツを着た男性と、華代が連れだってやってきた。
なんと彼らはそのままホテルにインしたのだ。なんてうらやまけしからゴホンゴホン。思わず手振れしてしまったじゃねぇか。
しかしあっさりと証拠写真が手に入ってしまった。もう少し粘るかと思ったのだが、あの旦那は警戒のけの字もしていないな。まぁお陰で長期戦にならずに済んだが。
今回の仕事は楽に終わりそうだと、気分よくその日の本業に戻れた。
客の入りは上々で、客単価も悪くない。今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだと満足してると、お一人様の女性客が来店した。
ちょうど空いていた席に案内すると、わざわざ正面のイスにに腰掛けた。
「ねぇバーテンダーさん。おすすめのウィスキーちょうだい」
「でしたらマッカランはいかがでしょうか。スモーキーですが、初心者の方でも飲み易いですよ」
「ふーん。まぁよくわからないけどそれで」
「お飲み方はいかがなさいますか?」
「んー飲み易いので」
「かしこまりました」(この客…もしかしたら
「お客様。申し訳ございませんが、身分証を御提示頂いてもよろしいでしょうか」
「あーはいはい。年確ね。どうぞ」
「―――失礼ですが、おもいっきり高校生じゃねぇか」(まさか未成年がこの店に来るなんて、なんて日だ!)
「どうしたんですか~?頭抱えて具合でも悪いの?」
「たった今悪くなったわ」
彼女はそれを聞くと、ニヤーと笑い、カツラ(気づかなかった)と眼鏡(似合っていた)を外すと知っている顔だった。
「お前はあの時の女じゃねぇかっ!!」
「どうも~」
これが華代との出会いだった。
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