24嫁 獣娘ナミル(10) 後世の評価


 ようこそ! 歴史と文化の街 魅力いっぱいのグリナリエへ! 




 理想帝のお膝元で育まれた古都グリナリエには、伝統に彩られた観光スポットがたくさんあります。




 あなたの個性に合わせて、心ゆくまでステキを楽しんでください!










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 気分は理想帝? 古に思いを馳せる王宮エリア(p7へ)










 王宮エリアは、理想帝時代から続く、古き良き宮廷建築を保存した遺構地区です。




 範囲内の構造物の9割以上が国宝級の最重要文化財に指定されており、歴史好きのあなたならば、是非訪れて頂きたいエリアです。




 せっかく観光にきたのに、お勉強はちょっと……という方も大丈夫!




 世界に名を轟かせるあの有名な『ナミルの塔』からの眺望のすばらしさを体感するのに、知識は一切いりません!




 理想帝の卓越した魔法力によって建造されたナミルの塔は、今なお世界最高の人工的建造物であり、まさに『超魔法オーバーマジカロニクス』の象徴として、彼かのジャン=ジャック=アルベールの偉大さを現代にも伝えています。




 ☆一口コラム ナミルの塔の『ナミル』って?☆




 ナミルは、理想帝のお妃様の一人で、当時、軍事訓練用の施設だった塔の最初のマスターとなったビースティアンです。『ナミルの塔』の呼称は、彼女を慕った兵士たちによって、後世つけられたものだとされています。




 そんな彼女の詳細は不明ですが、当時の後宮に勤めていたメイドさんの日記に何度か名前が出てきます。




 それによると、こっそり夜中に厨房に忍び込んで料理をつまみ食いしたり、理想帝にお城の屋根から跳び降りて抱き着くイタズラをしかけたりと、中々にお茶目な人柄だったみたいです。




 彼女が発案し、好んで食べたという麺料理は、『ナミルヌードル』として今も庶民に親しまれています。(気になる方は下町エリアのページの方も是非チェックしてみてくださいね)       』




(グリナリエ市 無料観光パンフレットより抜粋)














『(…中略…)歴史家に著述され、巷説を賑わせる英雄の物語の多くは、戦乱の時代の華々しい活躍だ。




 やれ1000人で十万の大軍を打ち破っただの、やれ指揮官同士の一騎打ちが天下を分けただの、華々しい活躍は耳障りが良く、読んでいて心地良い。




 だからこそ、この手の物語は、本になり、あるいは劇になり、人々の記憶に残るのだろう。




 だが、多くの者たちが注目しない重要な戦いがある。




 それは、一度築いた平和を『維持』するための戦いだ。




 例えば、局地的なモンスターの大量発生。




 自然災害。




 あるいは匪賊の跋扈。




 それらとの対決は決して華やかではない、地味で、退屈で、陰鬱で、不愉快な戦いとなる。




 しかし、それらのイレギュラーは被害を受けている当事者からすれば、戦乱の時代と何ら変わりのない惨禍である。




 たとえ、もたらす被害が世界という単位からすれば取るに足らない規模であるにしても、為政者が慢心し、犠牲者たちの嘆きを放置し続ければ、それはやがて種火となり、いずれ大火へと化けて支配者たちを焼き尽くす。




 ここ数百年の実例を挙げるまでもなく、民衆というものは、不満を抱きやすく、恩は忘れやすいことを、賢明な読者諸君はよくご存じだろう。




 多くの英雄がこのいわば『平和な戦争』への対処を誤ってきたが、著者の知る限り、もっともこれに上手く対処したのが、かの理想帝、ジャン=ジャック=アルベールその人である。




 彼は、大きな戦乱のない時代において重要なのは、何万の軍勢を動かして、平地の雌雄を決するというような大会戦ではなく、各地で散発的に発生するであろう不正規戦への細やかな対応であることを明確に予期していた。




 その例は枚挙に暇がないが、ここでは読者諸兄にも馴染みの深い、『ナミルの塔』を取り上げることでもって、今一度、『平和な戦争』への備えというものを学ぶ縁としたい。




 今でも観光の目玉として少なからず彼の都市に恩恵を与えているあの素晴らしく美しい尖塔は、当初から、兵士たちを山岳地帯の不正規戦闘に備えさせる目的で造られていた。




 世界を統一してまだ数年も経たない内に、ナミルの塔を――当初は名前もなかったであろう塔を築いた理想帝。




 当然、次にすべきことはその塔に、兵士たちに山岳地帯のイロハを叩き込む指導的な人材を配置することだった。




 しかし、これが難題である。




 今でこそ、山岳地帯で軍事行動をする際の詳細なマニュアルが存在するが、当時はそういったテキストは存在しなかった。(もちろん、後に理想帝自身の手で、それらの『凡人でも一定の技能を学べるシステム』が整備されたことを読者諸兄はご存じだろうが)。




 仮にマニュアルが存在しても、あの時代には兵士はもちろん、士官の中にも字が読めない人間が多かったので十全には機能しなかったであろう。(ちなみに、後に識字率を上げたのも、理想帝と彼の伴侶の一人である大賢者ソフィアの発明の功績であることは言うまでもないことである)




 つまり、当時の指導教官は、そういった補助テキストなしに、戦乱の世を潜り抜けた荒くれものたちに、山のルールを叩きこまねばならなかったのである。




 そこで、理想帝が選んだのが、当時、すでに彼の後宮に入っていた、獣人ナミルである。




 彼女は、当時二十歳を過ぎたばかりの理想帝よりさらに若く、文字も読めなかったと伝わっている。




 若輩の、女の、無学な、獣人。




 昨今色々とお盛んな偏狭的民族主義に熱心な某国や、学歴主義的な官僚どもに支配された某国ならば、彼女は指導者選考の候補にすら入らなかったであろうが、賢明なる理想帝は、よく分かっていた。




 『海のことはマーメイドに。森のことはエルフに訊け』。




 結局、特異な地形について学びたければ、そこで暮らしている者たちに学ぶのが一番だと。




 彼らは時に文字を持たないが、経験知とでも言うべき、連綿たる生命の歴史の中で積み重ねた貴重な知見を有している。それを利用しない手はない。




 そう理想帝は考えたに違いない。




 そして、選ばれたナミルもその期待に応えて、おそらく素晴らしい指導をしたのだと思う。




 『思う』と推測調でしか言及できないのは、軍学家として情けない限りであるが、こればかりは致し方ない。




 なぜなら、理想帝が治めたあの時代は、あまりにも完璧すぎて、その訓練が活かされる機会は存在しなかったからである。




 モンスターはおよそ都市部にいる限り理想帝の強力な結界に守られて手が出せなかったし、天災は彼が事前に神々や精霊と交渉して未然に防いでいたし、善政が行き届いていた故に、食い詰めて匪賊になるような者は現れなかったのだ。




 だが、ナミルに始まる帝国の不正規戦への教育の成果は、理想帝よりはるか後の時代に起こったいくつかの変の結果を援用すれば十分だろう。『アッスワースの反乱』、『トロール大躍進』、『三山大崩落』。


 これら三つの、山岳地帯で発生したイレギュラーは、いずれもすぐに当時の帝国の常備軍の手によってすぐに沈静化されている。




 帝国が理想帝の時代から遠く、その輝きを失いかけた黄昏の時代にあってもなお、彼の薫陶は行き届いていたのだ。




 無論、山岳訓練の創始者となったナミルの功績もまた、推して知るべしであろう。




                                            』




(アミール・フッサール著 『現代の不正規戦争』より抜粋)




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