14嫁 大賢者ソフィア外伝 後世の評価

『 


 魔術工学史に関する次の説明文の空欄を、下記の語句の中から選んで埋め、正しい文章を完成させよ。ただし、語句は全て使うとは限らず、使う回数も一度とは限らない。(配点 各2点)








 ・・・・は、BH末期からAH始めに活躍した大賢者である。




 彼女は従来、個々人の魔法使いが非体系的に用いていた秘密主義的魔術言語を一新し、・・・に基づいた新しい汎用魔術言語を開発した。また、平面にデフォルメ的偶像を掘りイメージを固定する、安価かつ安全な呪文詠唱法――・・・・を新たに考案し、生活マジックアイテム普及の基礎を築いた。




 彼女の発想で生まれ、後の世に『三種の宝具』と呼ばれた生活マジックアイテムとは、食料保存等に用いる・・・・、衣類の洗浄に用いる・・・・、広範囲への情報の伝達に用いる・・・・である。






マーンガ法 簡易幻術法  ソフィア 10進法 2進法 星辰数 クールボックス クリーニングミキサー ビジョンプロジェクター フォトンヒーター ソフォス ソレチナ ブレッシング法


                                            』




                    (マリティカ学園初等科 社会科目 期末考査)











 この度は、私のような魔術工学を生業とする者にとって世界最高の栄誉であるソフィア賞を頂いたこと、まことに感謝する。




 私の研究に関してアレコレ話したところで、どうせ『つまらん』と一般大衆は興味をもたないだろうし、どうせビジョンプロジェクターで偏在するエセ評論家どもとコメンテーターたちがおもしろおかしく5割程度の正確さしかもたない扇動的な解説を加えてくれるだろうから、敢えてそこらへんの話は割愛させてもらいたい。




 では、何を語るのか。




 私は昔の話がしたい。




 というのも、昨今、懐古的反知性主義とでもいおうか、先人が苦労して築いてきた魔術工学の存在そのものを不当に貶めようとする無知蒙昧な輩があまりにも多いからだ。




 彼らが言うには、この賞の語源ともなったソフィア女史こそ、近代の戦争の惨禍を招いた諸悪の根源であり、彼女さえいなければ、今も世界は素朴で自然で平和な魔術文明を謳歌できていたというのである。




 果たして、本当だろうか?




 確かにソフィア女史本人の意思でなかったにせよ、魔術工学の理論は結果として戦争兵器に転用されたことは事実だ。




 もちろんそれはソフィア女史の本意ではないことは疑いようもない。




 しかし、ソフィア女史本人も、研究職に入られる前は、理想帝と共に各地を転戦して、魔王配下の四天王を屠り、数多の敵国の兵士を打倒した経験を持つ歴戦の強者であったから、魔法の攻撃性と暴力性については十分に認識していたに相違ない。




 それでもなお彼女は、新しい魔術言語理論を開発した。




 なぜか。




 理由は明確である。




 ソフィア女史は、マジックアイテムを市井に普及させることにより、殺すよりも多くの知的生物を救える信じておられたのだ。




 そして、それは紛れもない事実である。




 もし、彼女がクールボックスを始めとする冷凍技術を開発してなければ、各地への円滑な食糧輸送は滞り、毎年世界のどこかで発生している不作から生ずる飢饉で、幼子が苦しみの内に果てていただろう。




 もし、彼女がクリーニングミキサーを生み出さなければ、不衛生から疫病が発生し、文明そのものが亡びていたかもしれない。




 もし、彼女がビジョンプロジェクターを開発しなければ、教育や知識といったものは、今も富裕層や金持ちどもに独占され、私のような貧乏人の生まれは、このような知的産業に未来永劫携わることが許されなかっただろう。




 のみならず、我々は今の平等で民主的な生活を教授することができず、今も、何万年に一度現れるか分からない理想帝の再来を待ちわび、その何倍も発生する可能性の高い暴君に怯える日々を送っていただろう。




 今の『当たり前』は『当たり前』でなく、頑迷な偏見と迷信を打ち砕こうと理性を研ぎ澄ましてきた先人の営為の積み重ねの結果であることを、我々は忘れてはならない。




 はっきりと言っておきたい。




 賢者も愚人も、それはおろか知性なきモンスターでさえも、命を奪うことはできる。




 しかし、一つの理論で億人を救うことができるのは、我々魔術工学の研究家のみである。




                                          』




(第617回 ソフィア賞  魔術工学部門受賞者 アレハンドロ スピーチ書き起こし)












『そもそも、自分より知的程度の低い男性と付き合う意味がわかりません。全ての知的生命体の生きる意味は知的向上だというのに』




『偉そうなこと言ってるけど、近年のソフィア賞の受賞者は全員男だろうが!』




『それは、女性が性差別的役割分業を押し付けられているという社会的悪習の証明にすぎません。そもそも、あなたはソフィア賞の語源となった大賢者ソフィアが女性だとご存じないのですか?』




『出たよ! 魔術工学女子マコジョの伝家の宝刀、ソフィア様! あんなん理想帝の妾の一人だろうが!』




『だからなんだと? 理想帝の妃の偉人排出率は、同時代の他の男性のそれに比べて格段に高いんですが』




『理屈っぽいなあ。だから、魔術工学女子マコジョはもてないんだ! そんなにソフィア様が好きなら、あんたも彼女見習って、正妻は諦めてどっかの愛人になればいいだろう!』




『そうですね。こちらも理想帝ほどの甲斐性がある男性ならば、必ずしも一夫一婦制にこだわる意味はないかもしれませんね。まあ、あなたの性格と年収では話になりませんけど』




『うるせえ! だったらあんたもその大賢者ソフィア様くらいの業績を残してからほざいたらどうなんだ!』




(『テッテイ闘論 イイタイホウダイ!』 ビジョンプロジェクター チャネルシグマ 字幕書き起こし)


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