第323話 お前がやれよ
スタークだけでなく?
フェアトも合わせて姉妹で長になれ?
「……『どちらが長に相応しいのかなど我らには決められないし、そもそも長が一人でなければならないなどという決まりはないのだから』──とも言っているが、どうする?」
「いやいやいや……それは無理ですよ流石に」
「受ける訳ねぇだろって伝え──」
言いたい事は理解できるし、わざわざ訳されなくても何となく理解は及びこそすれ、スターク一人だけでも断ったというのに何故フェアトも合わせた二人なら了承してもらえると思ったのかと、何をどうすればそのような結論に至るのかと呆れる双子。
当然、今回もまた考えるまでもなく断ろうとしたのだが。
「──……いや待て、まだ訳すなよ」
「姉さん? 何を──」
何かを思いついたらしいスタークは無表情のまま、そして
「お前がやれよ。 アイツの馬鹿げた力を理解した上で、なお立ち向かおうとしたお前が。
『……ッ!?』
セリシアに同時通訳させて、そう告げた。
単に自分が長になどなりたくないというのもあろうが、オブテインと己を比較した際に勝っているものなど何一つないと分かっていても立ち向かった、この男こそが長に相応しい筈だというのもまた本心からの考えであったものの。
『……─、──、〝─〟────……! ──……ッ』
「『我らは〝力〟をこそ重んじる、非力な自分では──』」
放浪部族である事以上に戦闘民族であるという一面の方が強く大きいプロヴォ族が長として戴く者は、これまで長の座に就いた者たちを鑑みれば分かる通り例外なく他を圧倒する〝力〟を有しており。
『──!?』
「ちょ、姉さん!?」
ガシッ、とスタークが男の顔を掴んで絶対に自分から目を離せなくなるようにし始めたのだから、フェアトが驚きのあまり声を上げてしまったのも無理はなかったと言えるが。
「そういや名前、聞いてなかったな。 何てんだ?」
『……ッ、─、〝────〟……』
「〝ンゴクワ〟、だそうだ」
そこに怒気や悪意は全くなく、その証拠にスタークはよくよく考えてみると今の今まで知らないままだった男の名を問い、同時通訳していたセリシアが彼の名を告げた瞬間、グリッという音が聞こえてきそうな勢いで無理やり後ろを向かせたかと思えば。
「いいか、ンゴクワ。 コイツらを、コイツらの〝目〟を良く見てみろ。 セリシアが訳したあたしの言葉を又聞きしたコイツらが今、一体どんな目でお前を見てるかってのを」
『……ッ』
その先で一様に跪いていた同族たちを視界に捉えさせながら、今度は同族たちから目を離せないように仕向け、そんなスタークの言葉を──正確にはセリシアが訳した言葉を耳にした彼から見た同族たちの〝目〟は。
「言ってみろよ、どこのどいつが──お前を否定してる?」
『……ッ!!』
誰も彼も、ンゴクワに対する失意など抱いていなかった。
むしろ、スタークが口にした『お前がやれよ』という言葉を聞いた時、何であれば淡い期待を抱いてすらいたのだ。
きっとンゴクワなら、これまでのどんな長とも違う全く新しい形で自分たちを統治してくれる筈だ──と、そんな風に。
『……──────、────……?』
『『『───! ────ッ!!』』』
それを知ってか知らずか──……否、間違いなく直感で理解していたンゴクワが喉奥から絞り出すが如き声で何かを問いかけた瞬間、同族たちは一斉に全く同じトーンで叫ぶような声を上げる。
無論、双子には全く以て伝わっていなかったが。
それでも、ニュアンスくらいは理解できた。
だとすれば、ンゴクワに伝わっていない訳もなく。
『……!! ─、──……!!』
すでにスタークの手は放されている事からも痛みとは関係ないと分かる、まさに破顔涙笑を地で行く泣き笑いを浮かべながら何かを決意するかのように片腕を掲げて叫んだ途端。
『『『──、──!! ────……ッ!!』』』
それに呼応するが如く立ち上がり、ンゴクワ同様に右腕だったり左腕だったり、或いは両腕だったりを掲げた彼らは。
「『誰より
誰もが歓喜し、そう叫んでいたのだという──。
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