第322話 プロヴォ族全員?の願い
それから、およそ一時間ほどが経過した頃──。
「──……ん、んぁ……?」
「! 姉さん!」
「ふぇ、あと……?」
シルドやプロヴォ族の力を借りて後片付けに尽力していたフェアトの鼓膜を小さな呻き声が叩き、それが姉の口からこぼれたものだと即座に察して駆け寄り、ぼんやりとした瞳でスタークが妹を視認し、その名を口にした瞬間。
「ッ! そうだ、あいつは!? オブテインはどうなった!?」
「えっ? あ、あぁ、もう倒しましたけど……」
「……そう、か……」
勢いよく始神晶製のベッドだかソファーだかから飛び起きると同時に詰め寄り、あの序列十五位との戦いはどうなったのかと迫真の声音で問うも、フェアトから返ってきたのは何でもないかのような戦闘終了の報告。
……尤も、こうしてパイクの背に寝かされている自分に落ち着いた声で言い聞かせるように伝えてきている時点で察せられるものはあった為、スタークとしても意外だとは思っていなかったようだ。
「それより姉さん、体調は? 頭痛が酷かったりとか……」
「……あ? いや、特にはねぇな」
「そう、ですか? ならいいんですけど……」
また、フェアトはフェアトでオブテインの生き死によりも姉の健康状態の方がよほど気がかりだったらしいが、そんな心からの心配に対して姉の応答は何ともあっさりしており。
(……そっか。 あくまでも称号の力で強制的に酩酊状態にされただけであって、お酒を呑んだわけじゃない。 オブテインが死んだ時点で【
その理由を知る術はもう存在しないものの、もしかすると並び立つ者たち全体に共通するのかもしれない〝称号による影響の予後〟についてを考察していたフェアトの思考を遮ったのは。
「で? もう何もかも終わったから先に進むってか?」
「え……あぁ、そうですね。 そのつもりで──」
すっかり目が覚めた様子で立ち上がり、ぐるぐると肩を回しつつも次なる目的地、魔闘技祭が開催されるという彼の地へとすでに気持ちが向いている様子の姉の声であり。
これといって否定する要素もなかった為、膝をついていた姿勢から同じように立ち上がって残りの後始末をお願いしようと振り返ったフェアトの、そしてスタークの視界に。
『『『────……ッ!!』』』
「な、何ですか?」
「何やってんだコイツら……」
『────! ──、──────……!! ───!!』
「……相変わらず意味不明だな、おい通訳係」
「……」
頭、手、足を地面につけた状態で一斉に何かを叫んでいるプロヴォ族たちが映り、おそらく感謝の意を示す為の動作なのだろう事は理解できても、オブテインに半殺しにされた後にセリシアの治癒を受けて回復したらしい男の言葉はやはり理解できず。
通訳係という、ともすれば雑用係と大差ない呼称で以て序列三位を呼びつけたスタークに対し、あくまで無表情かつ無感情のセリシアは男の言葉を噛み砕いて理解するとともに通訳し。
「『〝奴〟を討ち倒すばかりか命まで救ってもらい感謝に堪えない、我らにできる事があれば何でも言ってほしい』と」
「いやぁ、これといって貴方たちに要求する事は……」
「ねぇよな。 っつか、そもそも叶えらんねぇだろ」
「『──、────』」
要は、どうか恩返しをと主張しているらしい事は分かったが、プロヴォ族に可能な恩返しの範疇に姉妹が望むものがあるとはどうしても思えず、『特にないから、気にしないでほしい』と暗に通訳してもらったところ。
『……────、──……ッ! ────ッ!!』
『『『……────!!』』』
「こ、今度は何です? そんな一斉に頭を下げて……」
先の主張が通らなかったからか、それとも元々次なる主張として挙げるつもりだったのかは不明ながら、今度は男だけでなく全員が彼に続くように──何やら妙な間もあったが──声を揃えて何かを叫び、今の言葉の意味を知るべくセリシアの方を向くと。
「『……恩も返せぬ内に、なお物願いなど烏滸がましいとは分かっているが、どうか正式に我らの〝長〟の座に──』」
「おいおい、そいつぁ断ったじゃねぇかよ」
どうやら彼らは、とっくのとうに断って久しい筈の『長の座をスタークに』という願いを諦め切れていなかったらしく、『思ったより図々しいなコイツら』と感心半分、呆れ半分で改めて断りを入れようととしたものの。
「……最後まで聞け、『どうか我らの〝長〟の座に──』」
男の言葉には続きがあったようで、再び訳し始めたセリシアが次に口にした言葉に二人は揃って唖然とする事となる。
「──『姉妹で就いてもらいたい』、と」
「「はっ?」」
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