第324話 旅立ちと贈答品

 ……双子としては、すぐにでも旅立ちたかったのだが。


 結局あの騒ぎの後、何としても双子への謝礼と慰労やンゴクワへの祝福を兼ねた〝宴〟に双子やセリシアを招待したいと主張するプロヴォ族の熱意に負け、その宴に一晩を費やした翌日。


「──……あ"〜……マジで頭痛ぇ……」


「あんなに呑むからでしょうよ」


「出されたモン残せってのか? 馬鹿言ってんじゃねぇ……」


「馬鹿はどっちですか全く……」


 プロヴォ族秘伝の〝玉手酒たまてざけ〟──数十年の周期で、かつても拠点とした事のある地へと戻ってきた時の為、地中へ埋めたうえで魔法で保護し、発酵させておく事で完成する文字通りの〝地酒〟を堪能したスタークは、オブテインの力とは全く関係のない二日酔いに襲われていたが、それはそれとして。


『──、────。 ──────、────!』


「『……──、──。 ─、────』」


「……今、何と?」


「『改めて、プロヴォ族一同より御礼申し上げる。 これより贈答品をお持ちするので、どうか受け取ってほしい』と」


「贈答品? そんな、宴だけでいいのに」


「いいじゃねぇか、もらっとけって」


「もう、こんな時ばっかり……」


 いざ見送りとなった時、引き止めてきたンゴクワが言う事には宴でのもてなし以外にもお礼の品を用意していたようで、その声に呼応して建物の1つからプロヴォ族の中でも力持ちらしい男たちが、どういう訳か2人がかりで持って来た箱の中には。


『────。 ────、──』


「んん? 何だこりゃ」


「これは……〝金属〟? いや〝鉱石〟ですかね」


 フェアトが箱を覗き込みながら口にした通り、金属と言うには光沢が鈍く、鉱石と言うには硬度が高そうな、いかにも地面の中にこのままの形で埋まってましたとばかりに無加工な具合の銀色で大きな何かが入っており。


『─、──〝───〟。 〝──────〟─、───』


「……なるほど」


「何つってんだ」


 それについて疑問を感じたのを察したンゴクワが、あくまでも双子に対して解答した事を目線で察したセリシアは。


「『その金属の名は〝戦塹鉱せんざんこう〟。 我らは、ただ闇雲に移動しているのではない。 〝攻防一体の戦盾デュエリングシールド〟にも使用しているその鉱石が採掘できる地を本能で感知し、その地に根付くのだ』と』


「へぇ、そんなモンがあんのか」


 武闘国家内でも非常に稀少な上、他国での扱いに至っては今スタークたちの眼前にある鉱石一つで屋敷が買えてしまうほどに価値が高く、それに加えて同じ場所からは数十年に一度しか採掘できないという貴重も貴重な代物だと通訳する。


 また、この鉱石は名に〝戦〟とある通り武器として利用した場合の殺傷能力が極端に高く、いくら何でも始神晶と比較するのは可哀想だが、それ以外の鉄や鋼といった並の金属を遥かに凌駕するほどに硬く重い素材であり。


 彼らの連携も相まって、そこらの冒険者などでは身ぐるみ剥がされる程度で済めば御の字だろうというのも頷ける。


「いいんですか? そんな貴重なものを……」


『──────』


「『お二方にこそ使っていただきたいのだ』と」


「そうかよ、まぁ使い道は──……どうする?」


 そんな稀少性の高い鉱石を、スタークやフェアトならばきっと自分たちより有効的に活用してくれる筈だと信じてやまないンゴクワの言葉と曇りなき眼で首を縦に振る様子を見て。


(……後でパイクたちに食べさせてみましょうか)


(あー……そうだな、そうすっか)


『『りゅう?』』


 元より受け取る気満々だったスタークが、されど使い道までは思いついていないだろう事を察し、以前パイクたちに始神晶の欠片を食べさせた時と同じようにすれば、もしかしたら何らかの強化が見込めるかもしれないとフェアトが提案した事で、とりあえずの用途が決定し。


 とうとう、この場での思い残しがなくなった事によって。


「じゃ、あたしらは行くぜ。 せいぜい頑張れよンゴクワ」


『……ッ、──、───ッ!!』


「あぁ分かってる、お互いにな」


 踵を返しつつ後ろ手に手を振って激励を送り、それに呼応するが如く決意を秘めた何らかの言葉を叫んだンゴクワとともにプロヴォ族たちが一斉に立ち上がって何かを叫ぶ、そんな喧騒を背にしながらの騒々しい別れだったものだから──。










(……え? 今、会話できてなかった……?)


 セリシアを介さず、心と心で会話を果たしていた姉とンゴクワの意思疎通っぷりにフェアトは随分と遅れて疑問を感じ、どうやったのかと姉に問いかけていたが──……それはまた、別のお話。

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