第315話 朴念仁かテメェは
目が合った生物を強制的に発情させる
それが肉体のどの部分に発現するかは完全に
それは額だったり、手の平だったり、それこそ色欲の象徴たる〝男のシンボル〟のどこかだったりするらしいのだが。
オブテインの場合は、どうやら舌の表面だったようで。
つるつるとして無駄に綺麗な赤く長い舌の中心に、ギラギラと妖しく輝く大きな一つの眼球がフェアトを射抜いており。
たとえ他の誰かに懸想していたとしても、たとえ他の誰かとの情事の最中だったとしても関係なく、まさに己の虜としてしまうという〝他の誰か〟からしても〝射抜かれた者〟としても堪ったもので はない鬼種の睥睨だったが──。
「ッ、おいおいマジか……? これも駄目なのかよ……!」
「……そのようで」
残念ながら、フェアトを射抜くには足らなかった。
無敵の【盾】の心を惑わすには至らなかった。
(一応、身構えてはみたけど……そりゃそうだよね)
もちろん、まず以てそうなるだろうとフェアトとしても半ば確信してはいたものの、〝性欲〟という害になるのかならないのか不明瞭なものまで防ぐ事ができるのか分からなかった以上、一抹の不安からいつでも【
「ッ、何度も言うがよォ! オレだぞ!? オレなんだぞ!? それを何食わぬ顔でいなしやがって!! 朴念仁かテメェはァ!!」
「……貴方の魅力が薄いだけなのでは?」
「ンな訳あるか! 見ろ
「……」
それからフェアトは、怒号を轟かせるオブテインに対して『お前に魅力がないせいだ』と皮肉めいた言葉をぶつけこそしたが、この瞬間も二人の周りには恍惚とした表情で気絶したまま肌を焼かれたり斬り裂かれたりしているプロヴォ族の女性たちが転がっており、それを考えれば彼の
偶然、彼の力が通用しないほどのふざけた【守備力】を誇るフェアトが敵対する存在として立ちはだかったのが幸運だったというだけで、想い人が居ようが居まいがお構いなしに魅了する彼の前では。
スタークなら一発で虜になっていただろう事を踏まえると、『セリシアに姉を連れた上での後退を命じたのは間違いじゃなかった』と改めて安堵し、そして気を引き締め直す事を強いられていた。
まだ戦いは始まったばかりなのだし。
「こうなりゃ意地でも堕としてやらなきゃオレの気が済まねぇ……!! 無理やりってのァ趣味じゃねぇんだがなァ!!」
「ッ!!」
それはそれとして、もはや【
(とりあえず、そのまま──【
ここまで発動しなかった──否、
何故、発動したくてもできなかったのか?
それは【
フェアトの【
しかし、こうやって一ヶ所を狙ってくれるなら──。
「──ぐッ!? がはッ!! 何だァ!?」
「ふぅ……」
鬼種特有の鋭い爪も相まって、それこそへし折れるのが先か潰れるのが先かというほどの激痛と流血がオブテインの太い首を襲い、思わず距離を取って咳き込んでしまう彼とは対照的に、やはり無傷かつ痛みも感じていないフェアトはひとまず深い息を吐きつつ態勢を整える。
そんな中、オブテインは突然の事態に困惑していたが。
(何でオレの首に痛みが──……いや、待てよ)
脳が下半身にありそうであっても、彼は愚者ではない。
並び立つ者たち《シークエンス》全体で見れば下位の方ではあるものの、そもそも選ばれし二十六体の魔族たちはXYZ《ジーゼット》を除けば皆、魔族という人間より遥かに優れた種の中でも更に飛び抜けて身体能力や魔力のみならず知力などにも秀でた者たちであった。
ゆえに彼もまた知恵者であり、その思考回路の殆どが色欲を求める為に利用されるとはいえ、初見の反撃に狼狽え続ける事はなく、あくまでも冷静に、そして迅速に頭を働かせる。
重ねて言うが、オブテインは決して愚者ではない。
「〝攻撃の──……いや、違ぇな」
「……?」
愚者ではないからこそ〝その可能性〟に辿り着き。
「──〝ダメージの反射〟か?」
「ッ!」
たった一回の発動で、術理を看破してしまったのだろう。
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