第309話 〝女〟である限り
「何故だ!? オレだぞ!? このオレとヤレるんだぞ!?」
「いや『オレだぞ』って言われても……」
派手な上着を自らひん剥いて肉体美をアピールし、フェアトとしては視界に入れる事さえしたくない下半身の
足元で酩酊状態にある少女が彼女の想い人なのだから。
……そうでなくとも、いきなり『ヤろう』と初対面の男性から言われて『はい』なんて頷く
『『『────♡ ────……♡』』』
「うるせぇな、もうテメェらには飽きてんだよ』
『『『──……ッ、────♡』』』
「うわ、ちょっと……」
そのあんまりな表現を体現するかの如く、まるで走光性を持つ昆虫のようにオブテインへ惹き寄せられていくプロヴォ族の若い女性たちを、オブテインは興味なさげに遠慮もなしに振り払い。
それすらも行為の一つだとばかりに恍惚な表情を浮かべて転がされる女性たちに、フェアトは割と本気でドン引きしつつも。
(この
だからといって浅慮に女性たちを軽蔑するなどという事は決してなく、十中八九オブテインが持つ二つの力のどちらか、もしくは両方が作用した結果なのだろうと半ば確信に近い推論を脳内で広げていた。
性別が〝女〟である限り、絶対に抗えない力と。
まぁ常通りフェアトには効かないのだが、スタークにはどちらであろうと特効である事に変わりはない為、速やかに退避させなければと思考を巡らせていた、その時。
『〜〜ッ、────!! ──────ッ!!』
「えっ?」
「あン? テメェは──……あァ、なるほどな」
突如、今の今まで沈黙を貫いていながらも随行する事だけはやめなかったプロヴォ族の男が、さも我慢の限界だと言わんばかりに何かを叫び出し。
当然ながら意味を理解できないフェアトは困惑の表情をありありと浮かべていたが、そんな彼女とは対照的にオブテインは何かを察したようにニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべたまま。
「
『……ッ!? ────ッ!!』
「はッ、力もねぇ奴が何ほざいてんだァ!?」
このプロヴォ族の男がオブテインを倒して欲しいと乞うてきた本当の理由は、この男がオブテインに愛する人を奪われてしまったからだったのだと、そして今この男の愛する人はもう死んでしまったか文字通り壊れてしまったかのどちらかなのだという事をフェアトは悟りつつ。
(もしかしなくても、会話が成り立ってる? あの
それも充分に衝撃的な事実ではあるものの、どちらかと言えば今もなお双方の会話が全く違う言語同士で成り立っている事への衝撃の方が大きく、『これも称号の力の一つなんだろうか』と何とも場違いな思案をし始めようとしていた一方で。
「ッと、そういやコイツは一応〝姦通罪〟ってヤツに当たんのか? だとしたらオレはテメェと事を構えなきゃいけなくなんのか? いやー面倒臭ぇなァ! なァセリシアよ!」
「……白々しい。 貴様は知っていて手を出したのだろう? プロヴォ族に基本的人権はなく、この国の法も適用されぬという事を」
「ははッ、やっぱテメェも知ってたか! なら話は早ぇ!」
セリシアの言葉通り、とことんなまでの白々しさで以て己が犯した罪を、そして【真紅の断頭台】を敵に回してしまうかもしれないという思ってもいない煩わしさを声高々に叫んでみせるオブテインに、セリシアは何の感情も見せない無表情で彼のおざなりな自分語りを切って捨て。
そんな彼女の対応をあらかじめ読んでいたと見えるオブテインは、ケロッとした表情を浮かべて笑い飛ばしつつ。
「ハッキリ言って、オレはテメェより弱い! が、オレは法を犯した訳じゃあねぇからテメェの正義とやらには反してねぇ筈だ! アストリットの言葉を間に受けて好き放題した阿呆と違ってな!」
「……序列九位の事ですね?」
「おォよ! その点、オレの
『……ッ!! ────ッ!!』
「あっ!? 危な──」
イザイアスは法に触れてしまったが為にセリシアからの断罪を受ける羽目になったが、プロヴォ族は武闘国家において〝人間〟と認められておらず、それこそ人間と同等の権利を持つ獣人や霊人にさえ劣る畜生も同然であり、そんな彼らに目を付けた自分を褒めてやりたいくらいだと嗤うオブテインに対し、ついに怒りが臨界点を超 えた男は
あまりの怒りゆえに視界も狭まり、もはや違う意味でオブテインの事しか見えていなかった男の身体は──。
『────……ッ!?』
「な……ッ!?」
突如、室内に轟いた〝ドカン〟という爆発音とともに勢いよく吹き飛び、
室内の床や壁には一切の傷や焦げ目をつけぬまま、どういう理屈か
「あーァ、寝取られ男の丸焼き一丁上がりだなァ。 わざわざ
オブテインは、いつの間にかその手に持っていた総身が真っ黒のペンをくるくると回しつつ、ピタッと回転を止めた先に刻まれていた謎の言語がやはりプロヴォ族の言語であると明かした上で、こう告げる──。
「──〝ドカン〟、ってなァ」
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