第307話 ……お前か?
手首を切断されたなら、まだ分かる。
……いや、分かりたくないし切断などされたくもないが。
それでも〝斬撃〟を受けた結果として負った傷が手首や腕そのものの切断ならば、しっくり来なくもないというだけ。
だからこそ、スタークには分からなかった。
手首でもなければ肩から先を落とされた訳でもなく。
「……ッい"!? ッてぇ……!?」
ましてや鋭利な刃物で斬られた訳でもないのに、己の腕が肘の辺りまでパックリと縦に割れてしまった理由が。
ただでさえ【守備力】が薄く、そして不意のダメージにも弱いスタークが縦に真っ二つとなった血塗れの右腕を押さえる中。
「パイク! 【
『……!?』
「いいから!」
『……っ!』
ここまで神晶竜である事も、そして魔法を使える事もプロヴォ族の男には隠していたのに、それを無に帰すような指示を出してきたフェアトに一瞬パイクは戸惑いこそしたが、パイクとしても傷ついた相棒を放っておく事はしたくなかった為、沈黙を貫きつつも即座に【
『──……ッ!? ──、────!?』
その一連の流れを見て、言葉こそ理解できずとも〝普通の馬が魔法を使つ〟という異常事態に出くわした事に男が驚き、『あれは何だ、お前たちも〝奴〟と同じなのか』と抱いてしまっても仕方ない疑問を、三人の中で唯一プロヴォ族の言語を解するセリシアにぶつけたが。
「……『────。 ──────』」
『──!? ──……ッ』
当のセリシアから返ってきたのは、ほんの少しの抑揚さえも感じさせない、ただただ事実を突きつけるだけのごく短い応答であり、〝あれは竜種だ〟と、〝洩らせば殺す〟と静かに脅した事で、スタークを相手取った時とは比べ物にならない死の気配を感じ取った男は黙る他なく、そちらについては何とかなったものの。
「……おい。
……今度はスタークがセリシアを問い詰め始めた。
尤も、こちらについても無理はないと言えるだろう。
スタークにさえ気取らせず、いつの間にか切断する。
それはまさしく、【
「……私ではない、が──」
しかし、セリシアはあくまで自分の力に依るところではないと主張しながらも、どうやら何かしらの確信を持って気づいた事があるらしく、ゆっくりとした動きで建造物の二階部分を見上げつつ。
「──
「っ、じゃあ本当に……!?」
「やっぱ居やがるんだな?
自分と同種の力、要は選ばれし二十六体の魔族たちが魔王より賜った力の一つが原因だろうと断言し、ハッキリ言うと半信半疑だったフェアトとは対照的に、スタークが好戦的な笑みを浮かべて拳を鳴らす中。
(じゃあ、どうしてパイクやシルドは黙ったまま──)
だとしたら何故、今の今まで並び立つ者たちの存在をパイクやシルドは自分たちに伝えてくれなかったのだろうか? という疑問が残る。
これまでは、たとえ夜にしか姿を現す事ができない元魔族が国王の皮を被っていてもなお反応を示してくれていたのに──とフェアトがシルドに近寄って、その艶やかな毛並みを再現した身体に触れようとした時。
(……? 何これ、模様? いや、
そんなシルドの、そしてパイクの身体の表面にも何やら奇怪な模様のような、はたまたフェアトの見解通り文字のように何らかの規則性を持っている気もする何かに、そっとフェアトが触れた瞬間。
「……えっ?」
模様のような文字のような〝それ〟は、そこまで力を入れたわけでもないのに、フェアトの一撫でであっさりと消えていき。
『っ!! りゅー! りゅあぁ!!』
『りゅう! りゅうぅ!!』
「ん、え? 何? 急に鳴き出し──……て……」
それと同時にパイクとシルドが鳴き声を上げ、それこそフェアトが求めていた以上の過剰な反応を、
聡明なフェアトは、すぐに〝その可能性〟に至り。
(まさか、さっきの文字が原因で喋れなくなっ──)
まさかとは言いつつも、ほぼ確信めいて〝それ〟こそがこの建造物に巣食う
『──てっきりプロヴォ族の雑魚どもが、寝取られた女ァ取り返しに来たモンだとばっかり思ってたんだがな』
「っ!?」
「何だ? どっから声が……」
姿は見えないのに声だけが自分たちの鼓膜を揺らしているという奇妙な状態で、まさしく蛮族のような口ぶりの男声が響き渡り。
『露出度満載の女どもにゃ飽きてきてたし、たまには餓鬼が相手ってのも悪くねぇ。
「……何だか知らねぇが上等だ、ぶちのめしてやる」
「ちょ、ちょっと……!」
『りゅー?』
『……りゅう』
さも『次はお前らだ』と勝利を前提とする旨の挑発とともにスタークたちを誘い、その建造物に薄く刻まれてパイクたちのものともまた違う文字が消えるやいなや、スタークは露骨に舌を打ちつつ苛立ちMAXで階段を踏み締めていき、フェアトは遅れながらもついていき、パイクとシルドは念の為に待機を選択していた。
……では、セリシアは?
(……やはり貴様だったか、〝オブテイン〟)
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