第2話
しかし、その声には聞き覚えがある。怪物に囲まれていた時、たびたび聞こえてきたあの声だ。
「改めて、お疲れ様でございました、マスター」
にこりと微笑み、ねぎらう彼女。その様子からは、何の悪意も感じ取れない。
少し、彼女を観察してみる。
まず服装だが、白を基調とした、いわゆるシスターのような服を着ている。別段派手さは感じないが、日常ではまずお目にかからないような格好だ。
ケープから少し出ている髪は茶色で、ぴしっと真横に切りそろえられている。まるでまっすぐな刃のようだ。
大きな茶色の瞳は、俺をまっすぐ見つめている。一点の曇りさえない。
鼻筋もすうっと通っており、小さめの唇は、ふっくらしていて桜色だ。
美少女といっても差し支えのない顔立ちだろう。
だからこそ、怪しい。
俺が住んでいるところは、会社の独身寮。
女の子が訪問することなんてまずない。
来るとしても、他の社員の家族くらいだ。
しかも、なにかと素性にうるさいご時世。誰かが訪問すれば、部屋専用の電話に、管理人からの連絡がかかってくるはずである。
ましてや、天井からいきなり降ってくるなんてあり得るはずがない。
「なんなんだよ……。何者なんだ、アンタ」
訳が分からないので、とりあえず素性を聞くことにした。
事と次第によっては、警察に連絡しなければいけないだろう。
「申し遅れました。私はツルギ。神様のご命令で、あなたにお仕えすることとなりました」
怪しい。――うん、これは警察に連絡だ。
床に置いたはずのスマホを探し、電話をかけようとした。
だが――スマホの画面は、バッキバキに割れていた。
「あぁーっ!」
思わず絶叫する!
きっと、少女――ツルギとか言ったか、が落下してきたことによって、何かの拍子に割れてしまったのだろう。
あぁ~……機種変更したばかりなのに……。
仕方ない。ひとまず警察に連絡するのは後にして、色々聞いてみることにした。
いざとなったら、連行して警察に突き出してやる!
「んで、お仕えするってどういうことだ?」
怪しんでいることや不機嫌を隠さずに、ツルギに質問する。
「あ、説明がまだでしたね、申し訳ございません! 順を追ってご説明いたします」
ハッとしながら、ツルギが答える。
それは、どうにも避けようのない、まさに降って湧いたような災難の始まりであった。
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