第11話 ブラウン

びん沼川、おそるべし。

それは私たちの靴を捕らえ、引きずり込んだのだった。

現代人の我々は、ぬかるみに足を取られるなんてほとんど経験がないことであった。靴は茶色く染まり、すっかり濡れてしまった。だがもう開き直って進むしかない。

ガポガポと情けない音を足元から放ちながら、我々は無言で200メートルほどの泥道を歩いた。

ようやく乾いた地面に達すると、Mが嘆いた。

「ブルーになったよ」

いやいや、どうみてもブラウンである。2人の靴とズボンの裾は完全に茶色くなっていた。

なんで歩くだけでじゅうぶんにツラいのに、こんな追い打ちを受けねばならないのだ。

15時。治水橋というところにでた。これは「じすいばし」と読むらしい。これをブラウンシューズで渡った。7時間が経過しており、歩きは遅くなってきていた。

橋を渡ると荒川沿いを歩いた。このおおきな荒川が市境なのだ。

とつぜん、Mが「チョコ食べる?」と、ロッテのアーモンドチョコを出した。個包装でないタイプで、ちょっと油断すると中身が落下してしまう。あまり屋外で食べるようなものではないと思うのだが、糖分がありがたかった。

16時頃に指扇駅に到達した。近くのLIFEというスーパーに入って漫画雑誌を読んだり、休憩したりと時間を使った。

指扇から先に進むと、すっかり暗くなってしまった。

さいたま市を四角形にたとえると、スタート地点が底辺の中心位置、ヤクルト事務所が底辺の一番左となり、そこから上辺に向かって来た。現在が左辺と上辺の限界で、この先を右に向かう。まあつまり半周さえできてないということだ。

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