第10話 残念、それは沼だ
川沿いを歩くと12時過ぎに、荒川にかかる羽倉橋という隣の市と接続している大きな橋に出た。その長さは1km以上ある。
近くのコンビニでサンドウィッチを買って、橋を渡った。
「隣の市に行くのか?」と聞くと、「橋の向こうにさいたま市がはみ出している」とのこと。
おお迷惑だ。遠回りせねばならんとは。
橋を渡って荒川の土手で昼飯にした。たくさんの草が生えた斜面で、2月だというのに天気がいいせいか、なかなか心地が良かった。
食っていると、どこかの犬が駆け寄って来た。
「犬ってばかだねえ」
Mがつぶやいた。なんでだかわからないので黙っていたが、この一言が妙に今でも印象的だ。
食い終えて歩き再開。排水場が見えてきた。そこに放棄された車があった。全体的に潰れて、屋根がなかった。
「カプコンのボーナスステージだ」
Mは喜んだ。
市境沿いを歩くと、「びん沼川」という小川に出た。そこではたくさんの釣り人がいた。
「あいつらそんな腹減ってんのか。釣ったらもちろん食うんだろうな」
Mが釣り人を見るやすかさずイヤミを言った。彼はキャッチアンドリリースに批判的なのである。リリースしても魚は乳酸を分解できない生き物だから、ボロボロになって死期が早まるだけだ、あんなものはただの虐殺だとお怒りなのだ。今では乳酸は疲労物質ではないと知られているが、当時はそうでなかった。
我々は釣り人を横目にしつつ、しばらく小川の左側を歩いていたが、やがてびん沼川にかかる100メートルほどの小さな橋が見えてきた。
「この川の左右のどちらを歩くべきか」と迷った。右のほうが道が広そうだ。そしてさいたま市は向かって右だ。もうすぐ羽倉橋のときのように、荒川に架かる大きな橋を渡るのだ。
右を選んで700mほど歩くと、とつぜん舗装路がなくなった。水たまりだらけの泥道になった。
「これどうするんだ」
「引き返す体力があるか」
「行くしかないか」
もう14時を回っている。つまり6時間歩いているのだ。そろそろ体力面も考慮しないといけない。
恐る恐る泥の上に足を乗せた。「びん沼川」とはよくいったものだ。周囲が沼地の川だったのか。
靴が10cm沈んだ。
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