第9話 さいたま一周計画

はなしは九十九里浜を半分も歩けなかった年の1月にさかのぼる。

さいたまから歩いて海まで初日の出を見に行ってボロボロになって、半月ほど経過した頃だ。

普通の知能がある人なら、「もうあんな目に遭いたくない」と布団をかぶって泣きぬれるところだろう。だが我々は違った。

「40kmも歩けるなんて俺たちはすごい!」

「やればなんでもできるんだ」

バカ面を100億ルクスでぴかぴか輝かせて愚行を誇った。よせばいいのに、周囲にも自慢していた。

そして、1月のある日、突然Mがこう言った。

「さいたま市を一周しよう。ちょうど1日で歩ける距離だよ」

本当だろうか。いまいち信用ならない男である。こんどは胡散臭く思って地図を見た。騙されないぞと思ってさいたま市の輪郭をバッチリにらみつけた。

よくわからなかった。市の周囲が何キロメートルか、そんなこと地図を見てもわかるわけがない。

まあMが自信満々に言うのだから1日で歩けるのだろう。

2月上旬、私は原付でMのアパートに行き、8時に出立した。この日はちょくちょく写真を撮って今でも残しておいたので、正確な時間がわかるのだ。

まずは南下し、戸田市との境目に到達した。入り組んだ市境を正確になぞるわけにも行かないので、ざっくりと選んだ道ではあるが、だいたい市と市の境目を歩いたのである。

戸田の人造湖付近にヤクルトスワローズの球団事務所のような建物がある。ここに10:48に到達した写真がある。車なら南浦和から15分の距離であることを考えると不安になってくる。

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