第8話 ウォーキングは800円の得
そのベイシア電気は国道に突然ポツンと現れて、周囲にはなにもなかった。立地条件のせいか、客は自分たち以外には数えるほどしかおらず、マッサージ椅子も使い放題だった。15分ほどでマッサージの時間が終わると、連コインならずの、連マッサージ……をしそうになった。
だが待て。我々は片道2800円も出して千葉県までマッサージ椅子に乗りに来たわけではない。
熟睡しかけているMを起こして北上を再開した。少しいい休憩だった。
たぶん17時くらいだったと思う。すっかり暗くなったところに、八日市場まで数キロという案内表示が見えた。
「犬吠埼まで何キロって出てこないよ」
「まだ遠いってことだよな」
「時間も時間だし、やめたほうがいいんじゃないかな」
「じゃあ続きはそのうちってことで」
2人で話し合った。疲れも出て来て、歩きも遅くなってきていた。
意外だったのが、今朝さいたまから太東駅までを電車で3時間弱ほど揺られただけでけっこう疲労してしまったことだった。下車した最初の一歩からすでに「あれ? なんで疲れてるの?」と思うほどだった。
最近知ったのだけど、疲労の多くは自律神経から来るらしい。揺られるというのは自律神経が常に体のバランスに補正をかけている状態なのである。そう考えると乗り物疲れというのは確かにあるようだ。
話し合いがまとまり、私たちは九十九里浜踏破を諦めて、そこからもよりの駅に向かって歩いた。辿り着いたのはたしか東金駅だったと思う。
Mが嬉しそうに、「あ、南浦和まで2000円くらいだよ」と言った。
「いっぱい歩いたから800円分の得をしたね」
Mはピカピカと眼鏡を光らせて嬉しそうに笑った。
「おう、頑張ったからな」
私も嬉しくなった。あとで振り返るとベイシア電気のことしか記憶に残らない一日だった。
グーグルマップで調べると、台東の灯台から東金駅まで31kmとのこと。
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