第3話 西新井駅前半額弁当
西新井大師に着いたのが19時。ここまで5時間も歩いて来たので多少疲れがでていた。暗くてこの寺の建物の色などはわからないけど、立派な建物であることはわかる。こんな時間でも人がけっこういる。あと数時間して元日になれば大賑わいとなるのだろうか。
階段のようなところに座って少し休憩を取った。初日の出は5:40頃だったと思う。まだ10時間も先のことなので急ぐ必要はない。
当時、…というか今の今まで地図をまるで見ていなかったので、これを書きながらグーグルマップで確認したところ、我々のルートは大間違いだったらしい。浦和を出たら川口市を川沿いに歩くと葛西臨海公園まで32kmほどの距離だが、今回やった板橋区の環七を左折というルートは40.1kmになる。なぜMはこんなルートを選んだのだろうか。
この日、Mとどんな会話をしたのか全く記憶がない。記憶に鮮烈なのはもっと別のことだ。
西新井大師から数百メートルの距離にある、西新井駅前のイオンに着いたのが19:40だったと思う。翌日は休みなのだろうか、大量の弁当が全て半額で売られていた。夜食を取ってなかったので、一つかって駅前で食べていると、自転車に乗ったセイン・カミユそっくりの外国人に挨拶された。
誰だろうと思いつつ挨拶を返したが、いま思うと私が白人を全てセイン・カミユだと思うように、あの人も私を「日本人全部同じ顔ネー」と思って誰かと間違えたのだろう。惜しい事をした。「おう、ガイジン、誰に挨拶しとんじゃワレ」という態度を取れば、私と間違えられた誰かの株が下がったのに。
疲れが出て来た足でヨボヨボと環七を歩いて22時過ぎ。綾瀬の交番とマクドナルドの前にベンチがあった。ここで2人で座ってボウゼンとした。暗い夜に、信号が赤、青と何順もするのをじっと見つめていた。当時も今も、この時のことを思い返してみると、我々はいったい何をやっているのだろうと思ってしまうが、なぜかこの信号機の赤色と青色が今なお記憶に鮮烈である。
23時半。既にMとの会話は途絶えていた。疲れもあるがやはり眠気が強まり、もはや歩く速度も老人並である。環七は綾瀬を過ぎたあたりで南に折れる。ここでMが「帝釈天を見に行きたい」と言い出した。
「なんだそれは」
「寅さんで有名なんだ」
「近いのか」
「寄り道をすれば行ける」
この上寄り道をするのか。私は少し怒りそうになった。
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