第12話 オムライスの悲劇
駅に着いた二人、目的のオムライス店はそこから歩いて10分ほどの場所にある。
意気揚々と向かった二人は道中で何のメニューにするかなど、悩みながら談笑していた。
あれが食べたいこれが食べたい、これは美味しいのだろうか?など様々な妄想を語り合ったいたのだが、店に着く数十メートル手前でその笑顔は消え去った。
「ご主人様……まさかこれって?」
「え、そんなわけ……」
二人が見たのは二十人ほど並んでる長い行列だった。
にわかには信じがたいその光景に二人はその行列の元を探る。
若い女の子や、カップルなど様々に並んでいるその先は確かに今泉が目的としていたオムライス店へと連なっていた。
「これ全部あの店に並んでるのか!?」
「ごめんジン、人気店とは聞いてたんだけどまさかこんなに混んでるとは思わなかったよ」
平日のお昼前。
普通に考えれば人が少ない穴場な時間なのだろう。
しかしそれは他の人も同じ考えなわけで、空いている時間を狙ってくる客層も多くなる。
開店前のこの行列にテンションが下がりながらも、二人は最後尾に並ぶ。
「たぶんこれじゃ二時間ぐらいは待つかもな」
「えー!? 俺様はその間お腹が空きっぱなしなのか!?」
「じゃあせっかく来たけどやめる?」
「ぬー……やめない!!」
二人は家にいる時と変わらない様子で話していると、ジンはある事に気がつく。
どうやら目の前に並んでいる若い女性二人組が気になるようだ。
「どうしたんだよジン」
「なんかさっきからこっちをチラチラ見てくる気がするんだよ」
確かにその二人組は今泉達の事を見ていた。
こそこそ話しては笑っているのを見て今泉はそっと聞き耳を立てた。
「後ろの二人ってホモじゃないの……?」
「えー、マジー?」
「だって男同士でこんなとこ来なくないー?」
「確かにーやば」
なんと女性二人組は今泉達が男同士でオシャレな店に来る事を笑っていたのだ。
この事にひどくショックを受けた今泉はジンの手を取り帰ろうとする。
「どうしたのご主人様?」
「帰るぞ、ジン」
突然の出来事に動揺を隠しきれないジン。
この光景を見て前に並んでいる二人組はコソコソ話し出す。
「手繋いでない?」
「やっぱりホモだよ」
「ってかご主人様とか呼んでなかった?」
「えーマジ? キモー」
さっきの動揺していたジンにもこの会話は耳に入った。
今泉はそっとジンの手を離し帰る。
ジンも今泉の後をおとなしく着いていく。
家に帰るまでの二人はお互いに黙ったまま。
今泉が前を歩き、ジンがその後を着いていく。
家に着き、先に口を開いたのはジンだった。
「ご主人様、ごめん」
「突然どうした……」
「俺様が外出たいなんて言わなきゃ良かったね」
「さっきの事気にしてるのか?」
「ご主人様が可哀想だよ」
「別に俺は気にしてないよ」
「ご主人様、いいんだよ」
ジンは今泉に謝った。
謝る必要なんてないのに、それらしい理由をつけて謝る。
ジンは買ってもらった服を脱ぎ、いつものジャージに着替え布団に潜った。
今泉はそれを見て、トイレに篭る。
悔しくて悔しくて、ただそれだけなのに泣いた。
本当なら二人で楽しくオムライスを食べていたのに、悪口を言われた様に感じてしまったのだ。
自分の気持ちに嘘をついた形の今泉は、おもむろに家を飛び出しいつものスーパーに向かう。
あらかた買う目星はついていたようで、迷うこと無くカゴに商品を入れていく。
会計を済ませ、そそくさと家に帰った今泉は料理を始めた。
この間ジンは布団に潜ったままだ。
しばらくの時間が経ち、今泉はジンの事を呼ぶ。
「ジンー? ご飯できたぞー」
するとジンは布団の中から出てきた。
「昼飯食うぞ!」
「これって……」
ジンは目を丸くした。
そこには今泉お手製のオムライスがあった。
「早くしないと冷めるぞ」
「どうしたのこれ?」
「俺が作った」
「そんな事はわかってるよ」
「気づいたんだよ俺、オシャレなお店で食べるのもいいけど二人で食べられればそれでいいんだって」
「ご主人様〜!!」
きっとオシャレなオムライス店と比べてしまえば、いい材料も使ってないし流行りのトロトロなやつでもない。
ただ、二人でその時間を共有出来ることが嬉しい事なのだとお互いに感じていた。
オムライスを食べ終えた二人。
後片付けをしている今泉はある事が頭の中で揺らいでいた。
自分の気持ちに嘘はつけない。
この洗い物が終わったら正直に話してみようとそう決意した。
今泉はのんびりとテレビを見ているジンの隣に座り、話し出す。
「ジン、ちょっと話があるんだけど」
「どうした、ご主人様?」
不安と恐怖で押しつぶされてしまいそうな今泉の告白がこれから始まるのだった……
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