第11話 外の世界
翌朝、仕事の日でもないのに普段かけているアラームよりも今泉は早く起きる。
スマホで時間を確認し、ベッドから出ようとした時今泉は思わず飛び上がってしまった。
「じ、ジン? もしかして起きてる?」
「起きてる」
「いつから起きてたの?」
「30分前から」
ジンは今泉が起きるよりも30分ほど早く目が覚めていた。
しかし、起こしては申し訳ない気持ちと二度寝できないもどかしさから大人しく布団の中で待っていたのだ。
二人は顔を洗い歯磨きをして少し早い準備をする。
時刻は9時過ぎ、まだオムライス店が開く時間ではない。
お店が開く11時までどうするか悩んだ今泉は、少し早いが外に出ることを提案する。
ジンはこれを二つ返事でOKを出し、二人は服を着替えていよいよ外に向かう。
「準備はいい?」
「よし、大丈夫だ!」
今泉にはいつもの景色だが、ジンにとっては拾われて以来初めての外の世界。
何の変哲もない普通の空気にジンは感動する。
「くぅ〜……外の空気は美味い!」
「外の空気って、いつも窓開けて入ってくる空気と一緒なんだけど」
「うるさい! こういうのはシチュエーションも大事なんだよ!」
「そ、そうですか」
大きく息を吸い込み、体内に近場の空気を取り入れたジンと、それを何とも言えない顔で見つめる今泉はあても無くふらつく。
ジンは周りの景色をキョロキョロしながら観察しては、気になったところを今泉に聞いていく。
「ご主人様、あれは何だ?」
「あれかー」
ジンが指さしたのは長い煙突が立つ建物だった。
「あれは銭湯って言うんだよ」
「銭湯?」
「大きいお風呂がある」
「へぇー! 大きい風呂かー!」
「色んな人がいるから好き嫌いあるけどね」
「今度行ってみたい!」
「興味あるのか?」
「ご主人様の家の風呂は少し狭いからなー」
「悪かったね!」
色んなものに興味を駆られるジンとそれに応える今泉の二人が次に辿り着いたのは最初に出会った場所だ。
なんて事ない普通の路地で二人は出会いこの生活が始まった。
「確かここでジンを見つけたんだよなー」
「まだ俺様が猫だった頃の話だな」
「あの時はすごい可愛かったのに、今じゃこんな……」
「こんなって何だ!」
「ごめんごめん、そういえばジンは何でここにいたの?」
「それが気がついたらここにいたんだ」
ジンは未だに過去の記憶がない。
生活していく中で、少しは何か思い出すと踏んでいた今泉だがまだまだ道のりは長い。
「別に俺はジンと一緒にいて楽しいからゆっくり思い出してこ」
「ありがとうご主人様……」
「お、そろそろ向かわないと」
「電車だー!」
教えてもらったオムライス店はここから電車で5駅隣にある。
テレビで電車の存在を知ったジンにとって、これもまたメインイベントのひとつなのだ。
駅に着くなりジンは改札を見てテンションが上がる。
「これが改札ってやつか!?」
「改札ぐらいで驚かないでくれよ」
「これにカードをタッチしたら通れるんだろ??」
「よく知ってるなー」
「テレビだけはよく見てたからな!」
自信満々に語るジンは今泉に手を差し出し、ある物をくれといったような仕草をする。
「あー、切符か。ちょっと待ってて」
「違う違う! カードが欲しいんだ!」
「えー、カードが欲しいってー?」
ジンは大きく二回うなずき、お願いした。
今泉は券売機に向かいジンの分のICカードを買い、手渡した。
「おぉ! これが俺様のカードかー!!」
「無くすなよー」
時間は通勤通学の人もまだ少なくない。
ジンは改札前で人の流れに乗れずあたふたしてしまっている。
見かねた今泉はジンの手を取り、人と人との隙間に割り込み何とか改札を通る。
目当ての駅行きのホームに着きひと段落ついた二人。
「さっきはありがとうご主人様」
「いいよ気にしないで」
少し落ち込んでいたジンだが、電車がホームに来るなりその目の色が変わる。
「テレビで見たやつだ!」
「危ないぞー」
停車した電車のドアが開き二人は乗り込む。
席は二人並んで座れるほどは空いていなかったので、ドア横に陣取り窓の外を見る。
子供のようにキラキラとした目をするジンとそれを見守る今泉。
まだまだ休日は始まったばかりだが、ジンが喜ぶ姿を見る今泉はこの休みに出かけてよかったと心底思う。
だが、その嬉しい気持ちはどこから来るのか?
友達としてなのか、恋なのか。
今泉にはその答えが少しずつ見え始めている。
しかし、その気持ちを表に出す事はないのだろう。
今泉はこの関係が壊れるのがすごく怖いからだ。
二人の関係はこのまま続くのだろうか?
今日、その答えは出ない。
ただ今日は二人が休日を楽しむだけの日。
二人は駅に着き、オムライス店へと向かっていくのだった……
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