第8話 ファッションショー
ジンが今泉にべったり甘えた夜から数日。
今日も今泉は仕事だった。
相変わらず今泉はジンのために昼ご飯を作り置き、仕事に出かけ、ジンはそれを食べて後片付けをして昼寝をする。
こんな生活にも慣れてきた二人だが、それも今日でおさらばだ。
「それじゃあお疲れ様でーす!」
「あれ、今ちゃん今日はご機嫌じゃん。なあ、知恵ちゃん」
「確かになんかテンション高いっていうかー」
「そ、そうですか?」
「知恵ちゃん残念だったなー、こいつ彼女でも出来たんだよ」
「えー、残念だなー」
「ちょっと二人ともー! ってか知恵ちゃん全然残念がってないし」
最近の今泉は如実に生活の充実を感じさせる様な表情を見せている。
さらに今日は声色も明るくなってきている。
その理由はこれから今泉が向かう場所にあった。
「すいません、荷物の受け取りをしたいんですけど」
「えーと、番号良いですか?」
今泉はコンビニにいた。
スマホの画面を確認しながら店員に番号を伝えていく。
そして荷物の確認を済ませ、サインをして受け取る。
あの晩に通販サイトで頼んでいたジンの服がようやく届いたのだ。
さすがに留守番中のジンに荷物の受け取りをさせるのは怖かったのと、少しのサプライズも兼ねてコンビニ受け取りにしていた。
暗い夜道にいい年した大人がニヤニヤしながらダンボール箱を抱えているのはさぞ気持ちが悪いが、今の今泉には周りの視線など一ミリも認識出来ていなかった。
家の前に着き、インターホンを鳴らす。
ドアの向こうから不安げな声が聞こえてくる。
「ど、どちらさまでしょうか……」
ジンは今泉以外の人とは会った事がないので、とても不安な様だ。
本当は両手が塞がっているためドアを開けてもらおうと思っていたのだが、ここで今泉はあるイタズラを思いつく。
ドアの覗き穴からは見えない位置に隠れ、声を変えて返事をした。
「すいませーん、こちらにジンさんいらっしゃいますよねー?」
「……え!? ななななんで名前を!?」
「やっぱりそうでしたかー、ちょっと荷物の受け取りをして欲しくて出ていただけませんかー?」
「いや、あの……今、家の人がいないんで後にして……」
「ちょっと困るんですよねー、そういうの」
「も、もう少ししたら帰ってくると思うんで……」
「あと何分ですかー?」
「それはちょっと……」
困り果てていくジンの顔を想像して笑いを堪えていた今泉だが、さすがにかわいそうに思ったのかここでネタばらしをする。
「いいから開けてくださーい」
「あと少しだけ……」
「受け取るだけでいいんですよー」
「じゃ、じゃあ……」
開いたドアの細い隙間から顔を覗かせるジンは、泣きそうな顔をして周りを確認した。
「ジン、俺だよ俺!」
「……あ! 今さっき怪しい人が来たんだ!」
「怪しい人?」
「なんか俺様の名前を知っててすげー怖かったんだよ……」
「それってさ、「こんな声だった?」」
「そうそう! ……ってえぇ!? どういう事!?」
「さっきのは全部俺がやってたの」
「…………あー、もうご主人様は趣味が悪い」
「ごめんって。でも本当に荷物があるんだよ」
「荷物……?」
「さ、入った入った!」
不安がっていたジンはまたも今の状況が掴めていない。
今泉の言う通り部屋の奥へと着いていったジンは謎のダンボール箱に目をやった。
「これ何が入ってるんだ?」
「開けてみてからのお楽しみだよ」
「んー……気になる」
「その前に……ご飯食べる?」
「食べる!」
いつも通りに今泉は晩ご飯の支度をする。
今日はしめじと小松菜のペペロンチーノの様だ。
パパっと作り終え、二人はパパッと平らげる。
きちんと食器を片付けた後、二人は開封の儀へと移る。
「よし、開けるよ」
「う、うん……」
ジンは未だに中身の検討がつかず、ドキドキを隠せないでいる。
今泉はテープを剥がしダンボールを開ける。
そして、中身を勢いよく取り出しジンに見せつける。
「これだよこれ! ジンの服!」
「あ、あああ! 俺様の、俺様の服なのか!?」
「そりゃそうだよ、俺が着てもぶかぶかだろうし」
「やったああああ! ありがとうご主人様!!」
喜び走り回るジンとそれを微笑みながら見守る今泉。
二人の笑い声が響く夜九時半。
鳴り響く…………壁ドン!!
静かにと言ったように口元に人差し指で合図する今泉と、忍び足で定位置に戻るジン。
それでも喜びが抑えられない二人は、何故かひそひそ声で会話をする。
「ちょっと着てみなよー」
「似合うといいなー」
ジンはパリパリの服を身に包み、一時間ほど静かなファッションショーが繰り広げられていくのだった……
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