第4話 謎の男の正体
お風呂での一悶着があった後のお昼。
二人はそれぞれのほほんと過ごしていた。
今泉はスマホをいじりながらゴロゴロ。
謎の男は日の当たるところでゴロゴロ。
静寂の中、部屋にお腹の音が鳴り響いた。
今泉が謎の男を見る、謎の男も今泉を見る。
二人とも自分じゃないと言いたげな顔をするが、お腹が空いたのは事実である。
「そろそろご飯にしますか?」
「ご主人様、それは名案だ」
ぎらつかせた目をした謎の男と、やれやれといった様子の今泉。
「もう冷蔵庫の中全然ないや……昨日と同じ焼うどんでも良いですか?」
「俺様は別に構わないぜ」
そうですか、と今泉は料理に取り掛かる。
ものの10分ほどで焼うどんは出来上がり、食卓に運ばれる。
「夜ご飯はもうちょっとマシなものにするんで、お昼はこれで我慢してください」
「ご主人様よ気にするな、俺様はこのうどんはめちゃくちゃ美味いと思ってるぜ」
「そう言ってくれると嬉しいです」
うどんをすすり、無言で食べ進めていく二人。
半分も食べ進めたところで今泉は口を開く。
「そう言えばなんで猫なのに人の姿になったんですか?」
「いい事を聞いてくれたな……だが、それは俺様にもわからないんだ」
「わからない……?」
「猫の時の記憶も、人としての記憶もない。ただ何となく猫なんだなとしかわからない」
「名前も分からないんですか?」
「そうだな……名前か……んー、出てきそうなんだよな」
「頑張ってください!」
「んー……じ、ジン!ジンだ!」
「ジン? ジンさんって言うんですか?」
「そうだ、俺の名前はジンだ……だけどなんで名前が出てきたんだ」
「とりあえず名前を思い出せただけでも良かったじゃないですか!」
人だったのが、猫になったのか?猫だったのが、人になったのか?
答えは二人にもわからない。
しかし今泉の性格のおかげだろうか、二人の間には大きな溝もなく家族であったかの様な空気が流れている。
そしてここからは謎の男に対するリサーチが始まった。
過去の出来事などは覚えていないと言う謎の男だが、簡単な事は覚えているという。
「好きな食べ物は?」
「魚とか肉」
「嫌いな食べ物は?」
「玉ねぎ、チョコレート」
「好きな場所は?」
「暗いとこ、日が当たるとこ」
「嫌いな場所は?」
「寒いとこ」
「好きな人は?」
「飯くれる人」
「嫌いな人は?」
「構いすぎる人」
アイドルの特集ページかというぐらいありったけの質問をした今泉。
最後の質問をジンにぶつけた。
「今一番気になってる事は?」
「気になってる事……何かを探してる……」
「何かを探してる……?」
「んー、俺様は何かを探すためにこの姿になったはずなんだ……」
「何かってなんですか?」
「いや……それがわからないんだ……」
それまで上機嫌で質問に答えていたジンだが、その表情はどこか悲しそうだった。
「じゃあ何かわかるまで頑張りましょう!」
「……すまないな、迷惑かける」
今泉は最初こそジンのことをとんでもない奴だという認識だったが、1日共にして悪い奴ではないし家においてあげようと感じた。
それはジンが意図して迷惑をかけているわけではない事、理由があってここにいる事、そして自分が拾ってきた責任がある事。
これらの要素が合わさって、追い出す事を拒んでいる。
「しばらくは面倒見ますから! だから心配しないで!」
「うぅ……ご主人様! 申し訳ねぇ!!」
冷め切ってしまった焼うどんを、今泉は二人分レンジにかけ熱々になったものを再び食卓に戻す。
泣きながら食うジンと、それを励ましつつ食べる今泉。
完食した二人は、少し距離が縮まった。
しばらくのんびりした今泉は、買い物に出かける支度をする。
それに気がついたジンはあるお願いをした。
「ご主人様? 俺様も行きたいんだが……」
「ダメダメ!」
「そこをなんとか!!」
「なんとかって、服はどうするのさ」
「……んー、これじゃダメか?」
腕も足も七分丈、オシャレと言い張ればそれまでだがそういう服ではない。
家中探しても、どれもサイズが合う服があるはずもなく泣く泣く断念するジン。
「そんなに外に出たいのか?」
「外に出たら思い出す気がするんだ……」
「そっか……じゃあ次の休みまでに用意するからそれまで我慢しててくれ」
「本当か!?」
「あぁ、約束するよ」
「やったー!! 最高だぜご主人様!!」
「じゃあ、行ってくるから大人しく待っててくださいね」
今泉は家を出て買い物に向かう最中、小躍りするジンの姿を思い出しどう晩ご飯に腕を奮ってやろうかと考えていた。
そして、家で待つジンも今泉の優しさに心躍りながら幸せを噛み締めゴロゴロしていた。
二人は今、お互いに惹かれあい始めているのかもしれない……
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