第3話
「うちの社史は読んだことあるか」
「ええ、もちろん社員研修のときに」
「戦時中、壱ノ宮に住んでいた我が一族はG県のとある山村に疎開した。そこでは食糧難の時代なのにずいぶんと世話になった」
「そして終戦後、空襲で焼かれた壱ノ宮に戻って復興とともに会社を興し、一家一丸となって盛りたてていく。高度成長期の時、恩返しとばかりに、世話になった山村の若い子を積極的に雇い、多くの従業員を雇う程の規模になり現在に至るですよね」
「そうだ。だが何事も順調ばかりではない、わが社も倒産の危機があった」
「そうなんですか」
「先代、つまりお前のお爺ちゃんが社長の頃だ。会社の経営がにっちもさっちもいかなくなり、東奔西走していた先代はついに倒れてしまい、あの山村に静養に行くことになった」
父親はそこでひと息ついて間をおいた。
「静養中の先代が村の廻りを散策中、洞穴を見つけてな、そこが何故か気になり入って行った。そこでアクマに出会ったそうだ」
「お爺ちゃんが?アクマですか?」
「そこでどんなやり取りがあったかは訊いてないが、アクマと取り引きをして会社を倒産の危機から脱したそうだ」
「そんな作り話」
「冗談だと言ったろう。だがこの冗談はまだ続きがある」
父親の顔と言葉は冗談に聞こえなかったが、息子は黙って聞くことにした。
「先代は洞穴での出来事は、最初は夢か幻かと思っていたそうだ。しかし、モノは試しと、言われた通りにやってみた」
「なにを言われたんです」
「紙とペンを用意して、知りたいことを念じてみよ、さすれば答えよう」
「はあ」
「そう言われたそうだ。そして試してみたら自分の手が勝手にペンを取り、紙に答えを書きはじめた。先代はその時に会社の次の方針を念じ、その答えが書かれたので、その通りにやってみたところ危機を脱した。オイルショックの時も、バブルが崩壊した時も、わが社が乗りきったのは、その都度指示をあおぎ、その通りにしたからだ」
「信じられない話です」
「話しを戻すが、最初の御告げで危機を脱した後、先代にまた御告げというか要求があった。社員をひとり洞穴に寄越すようにと」
「最初の特別出張は、先代が命じた。選ばれたのは村から来た青年で、あまり働かなくて村からも鼻つまみ者のヤツだった。村の洞穴に行き、一晩過ごすという奇妙な出張で、私がその見届け人として着いていった」
「父さんが」
「私は青年についていき、洞穴に青年が入って行くのを見届けると、村に戻って宿に泊まり翌朝洞穴に迎えにいった。しかし青年はいなかった」
息子は喉をごくりと鳴らした。
「私はすぐに村に戻り、先代に連絡して指示をあおいだが、それでいいから戻って来るように言われた。今のお前と一緒だ、何が何やら分からなかったので先代に問いつめた。だが先代は何も答えず、気にするなとだけ言われたよ」
「父さんはそれで納得したのですか」
「するしかないだろう。当時は上の言うことは絶対だからな。そしてそれからすぐだったな、あの洞穴に
息子は息をのんだ。自分が担当したここ数年ではなく、ずっと続いてた事だったとは……
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