第15話 どうも、邪神です
はい?神々の陳情だって?
「うん…そうなの、ルドラ」
…ここは私の領域、荒小屋(ただし中は綺麗で広い)の中。
曇り顔でやってきたティニマの言葉に、私としてはため息しか出ない。
…はぁ、私が定命の者達をふっ飛ばした事が気に食わなくて?それで私に釘を差してこいって言われた、と。
「正確に言えば~、ルドラが平然と世界破壊爆弾をポチってやっちゃったから、みんな怖がってるっていうのが正しいかな?」
まあ、そりゃそうだけどもね。
で、私に世界へ手を出すなって、そう言ってるわけか。
「うん。なんかね、ルドラはもう下界に干渉しないでくれ、ってさ。後のことはぜーんぶ自分たちでやるから、私達は手を出さなくて良いんだって」
それ、普通に要らないもの扱いされてない?
「そうかも」
はぁ、けったくそ悪いっていうか、なぁんで小さな神々の言う通りにせなあかんのかね。我々、この世界の原初の神々だぜ?
それとも、世界を作ってもらった恩義なんて、もう忘れてるんだろうかねぇ。けっ。
「ルドラ…アレからなんかスれてるよ」
まぁね。ヴァーベルとは喧嘩中だし、それでヴァーベル派な神々が私を苛め始めて、ついでに下界の人々も私を憎み始めたって事とかね。これでグレなきゃなんだってんですか。
「う~ん、それもそっか。あたしも今の神々の陰口はキライだし、わかるよ…でも、ヴァーベルの気持ちもわかるかな。ルドラがしなければいけないことをやっただけって事もね」
ティニマは優しいね。
「皮肉はダ~メ!ちょっとは素直にお話してちょうだい」
はいはい…。
ま、ティニマの顔も立てて、下界には極力、干渉しないって約束してやるさ。けども、世界レベルの危機の場合は別だ。その時は容赦なく、誰の妨害も関係なく処理するから。そこだけは譲れない。
「うん。あたしもそこは譲っちゃいけないと思うから、いいよ。そのことはあたしから話しておくね」
頼んだよ。どうにも、私は顔を出すだけで嫌われてるしね…ああ違うか。ミシュレイアは私へ上辺だけの敬意を払うようになったっけね。何を企んでやがるんだか。
「ルドラがやった事を見て、ルドラがとーっても強大だって思い知ったから、仲間に引き入れられたら自分たちにとって良いことだって思ったのかも。けど、エレゲルがヴァーベルを擁立しちゃってて、ルドラ派なミシュレイアと対立してるみたい。派閥争いってやつかな~?」
やっぱさ、神々を人間臭くするのって失敗だったんじゃない?
「全部が失敗だったとは思わないけどね~。心があるから救われた人も居るし、慈悲の心って神だからこそ大切だと思うし」
はいはい、悪うござんしたね邪神で。
「捻くれないの。それに、ルドラには優しい部分もあるってあたしは知ってるし」
へぇ?そりゃどこの事を仰ってるんで?
「えっとね、ヴァルスくんが始めて作って献上した土器を未だに保管してるとか、たまに眺めてニヤニヤしてるとか、グリムちゃんとお酒飲みながら記念写真を撮って部屋に飾ってるとか、それと」
はいはいこの話はおしまい!閉廷!解散!!
「恥ずかしがらなくってもいいのに~。そもそも、ルドラって身内にはすっごい甘いでしょ?」
失敬な!その通りだよ!!
だってさぁ、人類皆兄弟とか言うけども、私はそこまで悟ってはいないよ。定命の者は全て我が子って感じで愛せるほど、私も人間できていないのだよ。そもそも、愛って何よ?愛してもすぐに死ぬんだから辛いだけじゃん。
まあ、だからこそヴァルスが死んだ時にブチ切れたんだけど。
「それは…そうかもね。好きな子が死んじゃうとやっぱり悲しいけど、死ぬまでの過程でたくさんの出来事があるんだよ。その中で、幸せな時間を過ごしているのを見届けられれば、それだけでいいんだと思うよ。壊れない幸せは無いけども、それが長引くように手助けするのが、あたしの仕事」
慈悲深いことで…。私はそこまでの労は費やせないね。
言うなれば、私はこの世界をゲーム的に見てしまっているけども、君たちは疑似体験っぽく感じているのかね。
なんというか、シ○シティとシ○ズの違いと言うか。
「よくわかんない」
うん、ごめん。私もよくわからんくなった。
※※※
ティニマと気の抜ける会話をしていると、なんとなく癒やされる。
やっぱ例のアレで私も堪えてね。とはいえ、やらなきゃいけないからやるわけで。これはもう、どうしようもない。誰かがやらねばならない汚れ仕事なんだから、私がやるしかないのだ。
もうね、吹っ切れた。
いいじゃん、邪神!世界をいつか滅ぼすのも私だろうし、だったら今から邪神って風評を広めていきゃーいいじゃん!?だったら、変な期待なんてされないし、縋られることもない。私は自分の時間が増えてハッピーハッピーだ。
ま、地下世界カーでも人口激減で混乱してんだけどね。夜の民の司祭が私に何があったか聞いてくるんで、そのままを話したら混乱してたけど、王様と話し合って民には話さないって事にしたらしい。司祭は私の決定に肯定も否定もせず、沈黙を守った。理解は出来ても、人としては納得しかねるってところか。それもそうだな。
ルドラ教徒には、我ら神は世界を守ることを使命としている、と教えておいたからね。だから地上世界ジョーよりは理解があった様子で、離反する者はいなかった。まあ畏怖の念は強くなったけど、致し方ない。
…え、地上世界ジョーではちゃんと理由を話さないのかって?だってルドラ教の司祭がもう居ないし、話したところで誰が信じるよ?どうせ言い出した人間が嘘つき呼ばわりされるか、混乱を起こさないようにダンマリされるのが目に見えてるし、それが正しい。
たとえ神の言葉でもね、自らを見捨てるような事実は人にとっては邪魔なのさ。人は都合の良い真実だけを友にする生き物なのだよ。これはもう本能レベルなので仕方がない。それに、私はともかくヴァーベル達の信仰まで低迷するのは死活問題だ。
ああ、一連のことはヴァルスも承知しててね、何も言わずに従ってくれたよ。無言の信頼が熱いぜ。でもちょっと重いぜ。私は君が敬うような立派な存在ではないんじゃよ、と言いたい気分になる。
で、それ以上に大変なことは…。
もうね、冥府が満杯。
めっちゃ人でごった返してる。やばい。いまだかつて無いレベルのヤバさ。人手が足りんぞおい!?
そもそも、これの発端は私が原因である。
ほら、こっちの勝手な都合(という名の世界救済)で死なせたわけだからさ、その分の補填はしなきゃいけないわけだよ。で、私が殺めた死者達には、それはもうありのままを話したよ。彼らには知る権利がある。で、大ブーイング。そりゃそうだ。
ははは!もっと責めろ!我は邪神ぞ?人々の憎しみは心地よいのう!!
と、邪神ごっこで心の平定を保っていると、ヴァルスが私の前に立って人々を説得し始めた。
「理不尽であることは承知している。それでも、どうしようの手立てもない出来事もある。そして、神であっても覆せない滅びは存在する。主上はそれを回避するために、貴方がたを犠牲にした。それは事実である。
だがしかし、主上が動かれねば、貴方がたも含めて全ての魂は消滅していたであろう。貴方がたはそれをも否定されるのか?新たなる生すら否定し、虚無へと帰する事を良しとするのならば、今すぐ虚無へと還るべきだ。そして今回の厄災は、我ら人の弱き心が彼奴の糧となったのが原因だ。それを、自らの弱さを無視し、
ヴァルスの、始祖の言葉に黙する者も多かったが、そうでない者も多かった。
…しかし、私としては、ヴァルスが私を庇ってくれた事が一番うれしかったりする。
うっうっ…頭抱えてビクビクしてた子がこんなに偉くなって…父は嬉しいぞ。
しかし人間どもよ、なに私の子供を罵倒してくれてんだ?
思い知らせなきゃわからないってのなら、いっぺん地獄を見てみるか?ああ、ここ地獄だったわ。
巨大な私の姿を一瞬だけ顕現させたら、波が引くように静寂が訪れる。
うむうむ、静かになったな。
そんな萎縮している人間諸君一同へ、私は懇切丁寧に、それはもう最上級な親切さで説明してやったよ。丁寧に、罪人を踏ん捕まえる時みたいな威圧感でね。
この世界には、絶対に覆せない関係性ってのがあるんだって、骨の髄まで刻み込んであげよう。私にも居るからね、そんな絶対者が。
さて、世の理を教えてあげてから、しっかりと損失分の補填をしてあげた。
あれだよ、ティニマから聞いてたその手の小説によくある神様転生の特典ってやつだね。それをね、一つだけだけど、あげちゃった。超太っ腹!時エネ大奮発したけど大丈夫大丈夫、まだ残ってるからイケるイケる。
多かったのは案の定、強くなりてぇ!って感じの願い。でもチートなんて趣味じゃないんで、超成長する基礎能力の大奮発に留めておいた。ぶっちゃけ、最初から強くする意味って何よ?赤子の時点でスーパーマンか?腹ぶち破って出てきそうで怖いわ。
英雄にしてくれ!とかもあったけど、英雄ってなんやねんって思ったんで、まあ強い素地能力を上げたんで後はお前次第だよ~って言っておいた。後のことは知らん。勝手にやれ。
で、次は記憶を継承したい、とか、家族と一緒に転生したい、とか。まあそのへんの慎ましやかな特典は色を付けて叶えておいた。ちょっとだけ未来視を与えて、無意識により良い行動をするようになる、っていう天運がよくなる感じの能力をね。家族が存命の者は、相手がここへ来るまでは天国で過ごすことに。ま、気長に過ごしててもらおうか。
中には、性格を変えてくれ!とか、意気地のなさを直してくれ!とかあったけど、知らんがな。あんたの性格はあんた自身の問題だよ、っていうか、それは生まれた時点の特性と環境でそうなっただけだから、転生して環境変われば性格も変わるぜ、って事で万事解決。その手の人にも天運つけておこう。ラッキーマンが増殖するな。
転生人口は百年単位で錐揉してるから、カルマ値が低い人を優先的に転生させてるんで、一斉に転生するわけではない。っていうか、出来ない。需要がなけりゃ供給も無いんだよ。ってなわけで、暫くの間は下界も細々と増えていくことだろう。
うん、すっからかんな今の下界を見てると、原初の頃を思い出すなぁ。と、思い出に耽る今日このごろ。
それを話したらヴァルスが苦笑してた。彼も同じことを思ったらしい。
いやぁ、神様で昔話ができるのっていいことだよねぇ。
…え、不謹慎?知らんなぁ、私邪神だしぃ。
※※※
【1600年前より、異様に高い能力を持つ者が生まれることが後を絶たない時期があったという。それらの人柄は非常に多種多用なのだが、決まって剣術・魔法が長けていたり、あるいは天運とも言うべき幸運を呼び込んだり、またある者は前世の記憶を持っていたとされている。この現象は以降1000年近く続き、現在では少なくなっているが稀に見られる。この不可思議な現象を、人々は「神の贈り子」と呼んでいたようだ。
前世を記憶していると自称している人々だが、その能力は一般的、もしくはやや上程度だったようだ。精神的に老成している者が多く、その反動か健忘症になりやすかったらしい。
ただ、彼らは前世の死に関しては一様に口を閉ざし、決して話すことはなかったという。かろうじて残っていた資料では、「ルドラ神は恐ろしい存在だ」ということだけ。当時でも邪神として畏れられていたルドラだが、ここでも彼の神の名が出てくる事に、非常に興味深く思える事だろう。
レ・サイアのエスケル著「古代人の物語」より】
【夜刻神ルドラ!その偉容は天よりも高く、地よりも深く、あまねく世界を監視するもの。
そしてもっとも残酷なる神。殺める神。
力ある者達を屈服せし神。
夜を呼び、死を呼び、永久の眠りへと誘いし死の具象。
嗚呼、我が主神よ!私は貴方様を何よりもお慕い申しております!
全ての者が貴方様を恨み、憎み、殺そうとしたとしても、我が二つの躯は貴方様の盾となることでしょう!
故に我が神よ、お願いがあるのです。
できれば、この不届き者共を殺す許可を頂きたいのですが。
ええ、我が神を侮辱するこのヴァーベルの下僕共を木っ端微塵の千切りに…え、ダメですか?そこをなんとか我が主!でしたらみじん切りで我慢しますので!それもダメ!?そんなぁ!
「(後に明らかになる)町で踊り狂う狂神グリムアードの台詞を書き上げたメモ帳」より】
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