第13話 (´・ω・`)してます
「何故にあのような事を成されたのですか!?」
開口一番、ヴァルスに責められてちょっとショックを受ける私。
ええと、ここは私の領域なのだが。
やってきた魂のヴァルスは、私がしたことに関して酷く立腹してる。うん、まぁそうだよね、争いは止まったけど被害は甚大だもの。反省はしているが後悔はしていない。
けど、ヴァルスにプンスカと怒られてちょっとショックだったのでションボリしていたら、翼種の奥さんが慰めてくれた。っていうかお嬢さん、ひょっとして私の事、見えてる?
「確かに、やり方はあまりにも乱暴でしたが、それはヴァルスへの愛あってのこと。その全てを否定してはならないのではございませんか?」
「それは…確かに、そうだけども…」
「むしろ、神へ弓引く行いをしたあの者達へは、十分過ぎる罰を与えられました。はい、正直に申しますと、主が行わずとも私自身の手で行ってやりたいくらいでしたもの、ええ」
わぁ、なんかお嬢さんの背後からすっげぇ怒りのオーラが出ている。キレてますねぇ、これはめっちゃキレてますねぇ。ヴァルスが引いてる程だもの。まあ自分自身と夫が殺されたら聖人君子でもブチ切れるわな。
咳払いしてから、ヴァルスは真面目な空気で口を開く。
「…主上よ、貴方様のお怒りは最もです。ですが、私はあくまで人の世の理は、人の手によって成されるべきと思っています。主上のお手を汚すことで、貴方様がこれ以上、邪神という誹りを受けるような事態には成したくなかったのです」
お、おう、ヴァルス…君、そこまで考えててくれたんかい。そして考え無しな私。
ぐぐうっ!?なんか、猛烈に恥ずかしい気分になってきた…!マイサンから説教されるのが一番堪える…!
その、すまんかった。正直、私も君が死んで正気とは言えなかったようだ。ごめんね。
「いえ!主上が頭を下げられることではありません!…全ては私の不徳と致すところ。主上の気分を害される原因となったのは、忸怩たる思いであります」
バカ真面目だねぇ、お前は。まあヴァルスらしいけど。
…しかし、そうだね。お前達はこれからどうする?むしろ、どうしたい?
「…私は、長く生きました、主上。これ以上の転生にて人の世にあったとしても、何か偉大なる事を成しえることはないでしょう。それはエーティバルトのような、後進に任せたいと思います」
ま、そうだね。田人の爺さん以外でも、田人はちょこちょこ出てきてるし。とはいえ、爺さんもいい歳なんだけども。
それじゃ、神にでも昇格するかい?
できることなら、冥府での仕事を手伝ってくれると有り難いんだけど。
「願ってもないことです、主上。貴方様の手伝いを行えるのならば、我が魂の一片まで身を粉にして働きましょう」
クソ真面目だなぁお前は。思わず二回言っちゃったぞ。
ああ、そうだ。
お嬢さん、君も一緒に仕事するかい?
「…え?宜しいのですか?ルドラ様…その、私はヴァルスと違って、神に相応しい者とは思えませんが…」
いいんだよ、神に相応しい奴なんてそうは居ないんだし。私とか。
「ふふふ、御冗談を」
いや、冗談では無いんだけど…。
・・・・・・・・・・・
さて、そんな感じで、ヴァルスとその奥さんである翼種のエルシレアちゃんが、冥府の付き人になった。やったね!なんか息子夫婦がやってきたようで、私としては嬉しい。
とはいえ、冥府の仕事はそこそこに多い。獄卒の監査とか刑場の監査とか死の尖兵の監査とか罪人の魂の監査とか…見てるだけだな。
とりあえず、死神くんを補佐につけて、ヴァルスに冥府の仕事を割り振っておいた。そのうち、冥府の仕事は全部彼に丸投げするつもりだ。これで私は楽ができる!いいことじゃないか!!
なお、割と魂の格が高かったエルシレアちゃんには、元悪人どもである死の尖兵の総括者になってもらったんで、天使な容貌と白い翼な白ローブのお姿に。そして性格は敬虔で優しく慈愛に満ちている。まさに天使!でも死神!ヴァルスには過ぎた娘さんやでぇ。
そうそう、冥府ばっかり居るのもアレかと思って、二人には私のプライベートスペースへの移動権を贈っといた。私の領域ってことは、つまり私の力の根源の場所でもある。ここに招待されるのって滅茶苦茶レアなのよね。
それを理解しているのか二人ともすっごい恐縮してたけど、たまにはお茶しながら雑談したいじゃん?
なので、たまにお茶に誘っては癒やされてます。はぁ~話し相手が居るのは良いことだ。
…ああ、そうそう。なんで二人が仮面姿の私を認識してるのか不思議だったんだけども、実は簡単な話で。
ヴァルスは私が直接、創り出した子だ。つまり私の一部と言える。だから私を認知できる。これは魂の繋がりが原因だね。
で、エルシレアちゃんは、あのサレンの子孫だ。緑髪とかモロにそれだし、美人だし。で、サレンはティニマの子だが、同時に私が手を加えて力を与えた子だ。その直系の子孫である彼女には、私の力の一部も入ってるわけで、魂的に繋がりがまだ薄っすらと残ってる。
そして死して二人の魂の格が上がったみたいでさ、それで私の姿が見られるようになった、と。なるほど納得。
ま、そんな感じで息子夫婦と癒やされながら、今日も我らは冥府仕事を頑張っている。
…まあ、その、私の家に飾ってある土偶とか、その他献上品とか見られちゃって、ヴァルスがすっごい嬉しそうに笑ってたのを見て恥ずかしくなったりしたが。…ええやん、別に飾っててもさ。
※※※
「ごめんね、なんにも出来なくて」
ティニマが訪れて、そんな事を言った。
思わず私は驚いて変な顔をしたようだ…いや、顔無いけど。
その様子を見て、ティニマはくすくすと笑っている。
「えっとね、この間の事はごめんね。もう、あたしの声もあの人達には届いてなくて…ただ、都合の良い言葉だけを望むようになってたの。あたしがどれだけ言っても、答えてくれなくなっちゃってた」
あぁ~、まあ神に依存してる連中を統治する上位者にとって、神って都合の良い道具みたいなもんだしね。仕方ないんじゃない?
「うん…ごめんね、始祖の子の事。あたし、臆病だから…消し飛ばしてでも止めるべきだったんだろうけど、出来なかった…」
まあ、君がそれを行ったら、むしろ私がショックで倒れたかもね。流石に君には似合わない行動だ。
「…けど、そのせいでサレンも、地族の子も割を食ったんだとしたら…あたしのせいだと思うし」
ティニマや。いいかね、どうせ世界の理なんて、定命の者にとっては理解の外の出来事でしか無いんだよ。神は人の為にあるのだと、彼らは勝手に信じている。そして違ったら裏切られたとか叫ぶんだ。そんな戯言に付き合っていられるほど、我々だって暇じゃないし、知ったことでもない。
むしろ、生み出してくれてセンキュー!とか言ってもらう立場だけどね。誰も作ってくれた事に感謝なんてしてないし、今更だよ、今更。
どうせ、人間も我らも、自分の都合で動いてるんだから。
「そうなのかな?」
そうなのだよ。
皆が利己主義だからこそ、利他主義が美徳とされてるんだし。我々がどれほど利他主義に動いても、人がそう有れるようには出来ていないってことは、つまり我ら自身が「人は利己的だ」と認識しているに他ならないのだ。
つまり、これは本能なのだから、考えるだけ無駄だよ。
「…たま~に、ルドラみたいに簡単に物事を考えれれば良いのになって、そう思うよ」
む、まるでこっちが単純バカのような物言いだな。失礼な。
「だって、普通の人はそんな風に割り切って考えられないと思うよ?やっぱり、ルドラって独特な考えをしてると思うよ~」
つまり、邪神に向いてるてことだね。
なんだ、私にぴったりじゃないか。最近じゃ邪神を目指してるんだよ、私は。
「…そっか。ルドラは、そういう立場で行くつもりなんだね」
そうなのだよ。もう根付いた印象は変えられないし、だったらもう邪神で突っ走ろうかな、と。
「…うん、でもね、ルドラ。全部一人で抱え込まなくていいんだよ?あたしも、ヴァーベルも居るんだからね。一人じゃないんだから」
…そうだね。まあ、余裕があるなら、相談させてもらうよ。
可能ならば、ね。
※※※
【死の神ルドヴァルスには、伴侶が存在している。エルシレアと呼ばれたこの神は、ルドヴァルスの妻であり、冥府に魂を送る尖兵の総括者と呼ばれている。美しい緑の髪に、可憐なる容貌、そして白鳩のような翼から、一説では彼女はサレンではないかと言われているが、定かではない。もっとも、冥府に下って戻ってきた者達の中では、エルシレアはサレンではないと証言した者も居るが。
ともあれ、死への安息所へ向かう者達を優しく導くのが、このエルシレアと呼ばれる神でもある。だが、一見して優しげなこの女神は、しかし大きな罪を犯した者へは手厳しい扱いをするとも言う。正しき者へは慈悲を、悪しき者へは罰を送る彼女もまた、冥府を総括する支配者の一柱なのだと感じさせるだろう。
ちなみに、ルドヴァルスとの仲は非常に良好な様子であり、判決を待つ者の前で非常に仲睦まじい様子を見せることもあったと言われている。とりあえず、この夫婦神は独り身にとって、いろいろと辛い存在に映るのも仕方がないことであろうか。
~中略~
地母神ティニマだが、彼女の行動はある時を境に大きく変わっているのをご存知だろうか?そう、ルドラの手によって神罰が成された、あの戦役以降からだ。当時の隆盛を誇っていた天族・地族が、共にルドラ神の怒りを買い、その身を醜い虫へと変貌させた。それ以後、ティニマは人への干渉をほとんど止めてしまったと言われている。
人の始祖を殺めたという翼種の愚かな行動が、彼女の始祖を死なせてしまった過去に重ねてしまい、酷く傷ついてしまったのではないか、と推察されている。ただ、アレほどまでに現世に干渉的であったティニマが、一切の干渉を絶った時点でその心変わりは察して余りある。彼女なりに、何か大きな思いを抱いた可能性は高いだろう。
ケイレス・アードナー著「世界の神々」より】
【ヴァルスの死について
始祖の一人、人種の祖であるヴァルスだが、彼の死に関しての資料は数多いようで少ない。これは、当時のヴァルスの死に関わっている翼種の国が滅んだことが原因である。反面、当時の神罰にて生き残った者達が遺した口伝や手記は数多あり、これらが現在でも残されている重要な資料として残っているのだが、個人個人の手による記録の為、その正確性は疑問視されている部分も多い。
ある手記では、天を衝く巨大な黒馬が出現した、と記されている。別のある手記では、巨人のような黒い人影、またある手記では天を覆う夜のベールであったとされる。このように、出現したというルドラ神の描写は、見た者によって変わるのではないか、と推察される。
ヴァルスの死に関しても、当時の内乱を引き起こした地族が先に手を出した、いや天族が先だった、いやいや実はヴァルスが一番最初に戦乱を止めようと手を出した、うんぬんかんぬんエトセトラ。このように責任転嫁のような手記が非常に多いことから、この死の真相に関して正しい情報を選別することは難しいだろう。
ただ、当時の天族側指揮官の副官であった男の手記があるのだが、前後の話の流れ的にこれが一番信頼できる資料なのではないか、と言われている。その場合、ルドラの手によって翼種から甲殻種が生み出されたということにもなり、忌むべき甲殻種は元は翼種ということになる。この事実は、プライドの高い…もとい、誇り高き翼種にとっては永遠に認められそうにない事実となるだろう。
この事から、メルディニマ大陸に於いてこの話題はタブー視されているが、まあこの本を書いているのは我がザーレド大陸なので、関係のない話でもある。ともあれ、我が同族がもしも翼種のメルディニマ大陸へ赴くことがあれば、人の始祖の死に関しては話題に出さないほうが懸命である。良好な関係を築きたいのならば、の話だが。
ヴィイ・ジェ・レオハン著「三種の始祖」より】
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