第11話 冷酷なんですよ(笑)

新たに神を作りだした。

え、面倒くさがり屋の私が神を作るなんて珍しいって?ごもっとも。

けども、こればかりは仕方がなかったからね、作っちゃった。


私は鍵となった姉弟を不憫に思ってね。永遠の辺獄に閉じ込めら続けるなんて拷問も良いところだし、これを救わねば神じゃないだろって思ったので、門を劣化させないように弄り回して、なんとか鍵である彼らの魂の元までたどり着けた。

ところがね、彼らの魂は泥闇にもっとも近く存在している為か、その影響を一身に受けてしまっていた。

そう、狂ってしまったのだ、完全に。

ただ、私の存在は知覚できていたのか、私に対してへの敬いだけは忘れなかったが、しかし会話は支離滅裂。それ以外の反応が期待できない。これは駄目だな。

あの泥闇は、どうやら狂気を撒いているらしい。だから、狂気に当てられて二人も狂っているのだ。

しかし、私はそれで「はい、ご愁傷さま」と諦める気にはなれなかった。なので、二人を救えるだけ救ってみよう、と思って。冥府の仕事そっちのけでこれに掛かりきりになったぞ。

とりあえず、鍵となった二人の魂はそのままに、意識だけでもここから引っ張り出せないかなっって。本体が辺獄でも、意識が別ならまだマシじゃん?で、それを行うにしても、人の魂のままじゃ難しいので、いっそ神にしてしまおうってノリで神格をあげちゃった!


そして出来たのは、双子神。

私はこの二人を、光の神と闇の神にすることにした。死神くん達は返上だね。

双子の名を取って、光の神セルシュ、闇の神ヴェルシュと名付けた。


ただ、狂気が根底に根付いているためか、二人の意識はほんの少ししか覚醒できない。つまり、常に狂気に浸された状態なのだ。なので、私は更に改造を施した。

私は、彼らの威光を遍く知らしめるために、人々に彼らを称えるように言ったが、これだっていつまで持つかはわからない。正直、遠い未来に難癖つけられて抹消される可能性が高いと踏んでいる。翼種なんかは「存在自体認めない!」とか言い出しそうだし。っていうか、言ってるし。小さな神々ですら、彼らの犠牲なんて気にも止めていない。むしろ死んで当然っていうか、犠牲になって当然って感じなのだよ。それに、私は酷くイラァっとする。誰が世界を救ったと思ってるんだ?


だから、世界に刻み込むことにした。


私が救った子らが、世界の為に犠牲になったことを、この世界の全ての存在に刻みつけることにした。忘れるなど許さない。

二つの神を一つにして、新たなる神の形として成り立たせた。そして全ての者の魂に紐づけして、全ての存在にこの神の影響を与えることにした。それは神だって例外じゃない。


そう、新たなる神、それは狂神。

狂気を与える神だ。

ほら、なんかかっこよくない?


この日から、世界には狂気が生まれたのだ。おめでとう、正気度チェックしなきゃ。

そして、二人で一つの神は、アバターを与えて下界で自由に生きる権利を与えたよ。化身として練り歩き、世界に狂気を与えるんだろうけども、これでいいのだ。


狂気だって、世界には必要な感情でしょう?



※※※



 田人の爺さんがヴァルスと別れて、そのままドワーフ王国に留まってなんか冶金技術の底上げしてから、獣種の大陸へ渡っていった。なんかさ、才人で凄い爺さんだから、ついつい私も彼の死を長引かせてきたんだけども、彼がドワーフ王国でオリハルコンの加工技術を編み出したあたりで「よし!不老にしちゃおう!」と決めた。だってさぁ、オリハルコンだよ!?神だけどビックリだよ!

鉱石ってのは大地の管轄なのでティニマの支配圏なのだが、オリハルコンは彼女が密かに創り出していたビックリ鉱石だったらしい。で、地下を数百㌔も掘り進んでいたドワーフ王国でこれを発見したはいいけども、加工技術を持たずに持て余していた。けども、爺さんはこれを研究し、数年で太陽光と地熱を用いた改良溶鉱炉を開発し、オリハルコンを加工できるようにしたのだ。あいも変わらず未来に生きてんな。


お陰様で、オリハルコン作成の第一作品は、剣だ。ロマンの塊やで。これが聖剣とかエクスなんとかとか呼ばれたりするんでしょう?知ってる。

で、今じゃ第二作品にも手がけてるんだけどね、これに神々が反発した。

オリハルコンは、超チート鉱石だ。神秘の力をティニマが封入しただけあって、奮うだけでビームとか放てるんだけど、これの威力は造り手による。で、これって神すら斬れるのだ。そりゃ危険視されるわな。神々はこれに恐れを抱いて、オリハルコンを没収すべきだとか言い始めてさ、ヴァーベルに殺到してるんだって。何を怖がってるんだか。

でも、オリハルコンを自力で見つけ出して加工技術を造ったのは、人だ。それを没収するのはただの臆病な神々のワガママじゃん?って言ったら、私にも反発してきた。ははは、いい度胸じゃんお前ら。オリハルコンで私も斬られれば死にはせずとも痛いし、最悪追放されるんだけどね。そもそも、神殺しなんてどういう状況で成せるんだよって感じだけど。まず剣持った奴が神界に来るか、神が下界に顕現するかしないと斬れないじゃん。

まあ、つまりは神は自分たちの優位性が崩れるのが嫌なんだろうね。クソみたいに人間臭い連中だなぁ、私も人のこと言えないけど。同族嫌悪かね。

なので、ヴァーベルが提案した「これ以上オリハルコンによる武具製作を禁じるように言う」ってことで折衷案となった。はぁ、なんで私じゃなくてヴァーベルが言うんだよ。私の大陸なのに。

いえね、ヴァーベルが神々の板挟みにあっているのは知っているが、だからといって良いようにされるのは違うだろう、とも思う。舐められてない?とも。私だったら恐怖政治に移行するね。独裁者じゃん、やべぇな私。


ま、そっちのことはヴァーベルの奴に丸投げして、私は空気を読んで爺さんに話しかけてた。雑談してから「寿命を無くしてあげるね!」って言ったら感涙されたけど、オリハルコンの件に関しては複雑そうだった。なんとも、神々の横槍に関しては思う所があるようだ。うん、私も同感だ。聖剣があれば魔物を倒すのも楽になるだろうに。

なんでも、「この世界全てのモノが神に統治されるような光景は見たくない」ってさ。翼種、特に天族の社会って神が第一だからさ、みんなティニマに頼りっきりなんだよね。何につけても神様神様と喧しく、その内にティニマも面倒になったのか全自動天啓与えシステムを作ったら、みーんな自分の意思なんて無くしちゃった。全て神さまがやってくれるって、思考放棄して進化しなくなったんだよね。人は凄いスピードで進化してるけど、天族はもう進化する土壌が無くなってる。文明はまだまだ人間の先だけど、きっと数百年も経てば追い抜かれるだろうね。そんな塩梅。

そんな天族を見たから、爺さんも少し懸念しているようだ。

だから、はっきりと言っちゃったよ。

そんなことにはさせない、ってね。

大言壮語かもしれんが、あの神々がこれ以上の図に乗るようなら、私だって容赦はしない。頭押さえつけてでもなんとかしよう。って言ったら、また感涙された。爺さん爺さん、涙腺脆くない?



※※※



【狂神グリムアード

世界的に有名なこの神について、知られていることは殆ど無いのだが、唯一わかっているのは狂気を支配しているという点だけだ。グリムアードの存在に関して言及しているのはルドラ教の資料のみで、一説ではルドラが創り出したとも言われている。すなわち、邪神に分類される。

グリムアードは人の姿で世に顕現し、狂気的言動で人心を翻弄する性質がある。グリムアードの言葉は支離滅裂だが、彼が望むだけで言葉を聞いた者を狂わせる事ができる。かつて、獣種が統治する古代の王国がグリムアードの一言によって瓦解したという伝説すらあるほどに、畏怖の念を抱かれている存在でもある。

彼が世に顕現するのは何が目的なのか、それは一切が不明であるが、もしも彼に出会ったのならば早急に逃げることをお勧めする。とはいっても、人と違わぬ姿を持つグリムアードの正体に気づければ、の話なのだが。

               ケイレス・アードナー著「世界の神々」より】



【聖なる武具について

一般的に伝説に語られる武器と言えば、真っ先に思い浮かべるのは聖剣ティニマエールだろうか。この聖剣は、かの古代ドワーフ王国で発見された神の鉱石オリハルコンを用いて作り出された伝説の武器であり、後に勇者の手にも渡ったとされている代物だ。一説では、神すら斬れる、とのことらしい。同じく、同時期に作られたオリハルコンの大斧、聖斧ガーファンクも存在する。この聖斧は後にドワーフの勇者ペスカトルも使用していたという、知名度の高い代物でもある。


~中略~


一振りで山をも砕く、と歌われたこのオリハルコンの鋳造技術は、現在では既に失われている。古代のドワーフたちがどのような手法によってこれを加工し、創り出したのか、今となっては歴史の闇の中なのだ。ただ、この鋳造技術に関してはかの有名なタビト、エーティバルトが関わっている、ともされているが、真偽の程は定かではない。当人は黙して語らないからだ。

                  リトス・ミューズ著「太古の武具」より】



【その日、夢の中にルドラ神が現れ給うた。神は私の功績を讃え、私の寿命を定めぬと約束してくださった。何という栄誉!何という光栄か!長らく生きてきたが、ここまで素晴らしい栄光に浴したことは一度とてなかっただろう。ただ、私も始祖ヴァルスと同じく(不死ではないが)時の定めより外れたという事は、留意すべきだろう。きっと、面倒事も増えるだろうからな。いや、別にルドラ神を責めている意図は決してない、うむ。ただ、どうせなら若い身体に戻してくれればいいのにな~とか思った程度である。別に期待していたわけではないのだ、うむ。

ところで話は変わるが、若返りの魔法研究って残っていただろうか?一度、思い出す必要があるだろうか。

                    「エーティバルトの手記」より】

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