第7話 天才ってのはどこにでも居るもんだ

なんか神界が整って、神々も揃いつつあるって言うから、私も見に行くことにした。お目通りってやつだな。とはいえ、私の姿は見えてないんだけどね。声は届くけど。

…ええとね、始祖と違って、神の格なら直接の創造者の姿を拝むことができるようで。けど私は創造者じゃないんで、姿は見えていない。まあ、別に見せたいわけじゃないから良いけども。

とりあえず、顔合わせってことで神界に行ってみたんだけども…なんというか、ドラゴンが居た。赤いドラゴン。ヴァーベルが作った、ドデカイ神界の宮殿でも頭をぶつけそうな巨大竜で、体を屈めて窮屈そう。可哀想に。


ドラゴンは火の神だそうで。ヴァーベル作。

緑の衣を纏う踊り子風なねーちゃんも居て、妖艶に微笑んでるが、彼女が風の神。これもヴァーベル作。あいつの趣味が滲み出ているかのようだ。


長いパツキンで優美とかの形容詞がぴったりな優男、ぶっちゃけ外見だけ王子なあれが土の神。

青い体躯で半透明な液体人間っぽい女性がウンディー…違った、水の神だ。めちゃくちゃ盛ってる髪が凄いっすね。この両名はティニマ作。


その4柱の神々と、補佐をする中神、そして他の小神がいる。


…そうそう、中とか小で思い出したけど、神格システムを作ったんだった。魂の格によって世界との親和性が云々かんぬんで時エネの使用可能枠が上下するとかなんとかかんとかってことで、神格を設定しているんだった。忘れてたけど。

つまり、まあ格が高ければ高いほど重要な役に就いてるし、同時にいろんなことができる。更に神格の中に枷を作ることで、下界への安易な干渉を出来なくしている。神様的に偉さの基準って感じでもあるのだが。

正直に言えば、偉さなんざどうでもいいだろ、って思うんだけども…この神々、やけに人間臭いのだ。今だって主神のお言葉に嬉しそうな感情丸出しだし、私の存在に怪訝な様子だし、感性豊か過ぎる。神なんだから舞台装置でええやんって今でも思うんだけども、どうにもヴァーベル達としては、神は人らしい心を持っていて欲しいんだとさ。無機質な機械より、温情を見せる神の方が親しみが出やすくて信仰もマッハでやばい、と。

だから、人間臭さがあるってことは、欲もあるわけだ。人間味の本質は欲望だぜ。この神格システムが、欲による神の暴走を防ぐ防波堤になれば、と思って作ったのだが。はてさて。

まあ、いいけどね。暴走するんだったら、私がじきじきに消し飛ばすから。そういう役目は、私がやるべきだろうからね。…なら、私は嫌われ者で居るべきかもなぁ。あんまり神界には近づかないようにしよう。

ちなみに、最初から神界での私への印象はあんまり良くはないようで。ほら、冥府に籠もってるか、王国にばかり居るから、神界を覗くこともなかったし。神々にとっては得体の知れない存在にしか見えないようだ。そも、私もあんまり仲良くはしたくない。私の子供でもないのに頼られても面倒だからだ。


ちなみに、4柱の神は6大属性の神々だが、なら残りの闇と光はどこに居るんだ、と思ったら。


「闇と光の神はお前が作るんだよ!」


と言われた。まじかよ、面倒だな。

ま、適当でいっか。とりあえず、神の座に就けてれば良いんだし、各属性の管理さえできれば人形でも構わないんだし。

ってなわけで、片手間に造ってた美人天使人形と冥府補佐の死神くんを、神代理ってことで紹介しておいた。代理って部分はぼかしておいたけどね。そのうちにちゃんと作るから、今は彼らで我慢しておいてよ。


しかし、神々の私への視線はちょっと気になるな。なんと言おうか、疑心?そう、まさに疑いの目だ。こいつ本当に神か?って感じの目で見られてた気がする。いや、見えてないんだけど。あのトンガリ髪の野郎からは、明らかに敵を見る目を向けられたぞ。なんだぁ?やんのかこらぁ?

…まあ、彼らにどう思われようが、私はどうでもいい。世界の摂理を乱さないなら、どうでもいいし。つまり私の仕事を増やさないでくれたまえ。

あの中神…とんがり髪のエレゲルとワカメ髪のミシュレイアだっけ?この二柱が神々の取りまとめ役らしいんだけども、なんか私を嫌っているようだ。

たぶん、私がヴァーベルやティニマの敵と思っているんじゃないかね。死の神だし、あんまり良いイメージは無いだろうし、仲良くしている姿はほとんど見せてなかったし。


ま、どうでもいっか。


私は相変わらず冥府に引きこもるつもりだから、まぁ適当にやっといて~って感じで丸投げする。こういうのはヴァーベルの仕事だ。私は知ったこっちゃない。



・・・・・・・・・・・・・



さてはて、下界の現状だけど。


 ドワーフが王国に入植を開始しててね、国が急激に大きく発展してきている。船によって鉄製品が流れてくるようになり、王国の異文化交流にやってきたドワーフ達が工芸品や農業に感銘を受けていて、農具の方も充実している。あと料理はどこの種族にも好評。ええことや。

半獣、ドワーフと異種族も増えてきて、あと変わり者エルフとかもちょこちょことやってくることがある。エルフって平和主義者が多いけども、だからって異人種との交流を嫌ってるわけじゃないし。それに兵器の必要性や現状のエルフに関して問題を感じている人らもいるようで、そういった手合いの人々が王国に来ている。で、人間の生活に興味を示して、魔法を流布してくれてる。おお、これはありがたい。


魔法はね、エルフとかの翼種の血が混じった人じゃないと適正が無いんだけども、人の間にもちょろっとだけ使える者がいるのだ。しかし、この世界の魔法はひっじょーに大雑把でね、理論立てて使ってるわけじゃなくて、親和性のある精霊に祈ることで力を借りて、自身の想いや感情を起点に魔法という形で発現する…ようは、燃えろーって強く思ったら火が出るんだよ。でも出るだけ。ファイアボールみたいにはならない。そんな感じ。


ところが。

一人だけ、この魔法適正がずば抜けて高い人間が居た。


そう、鍛冶屋の息子であったエーメルを覚えているだろうか?彼の息子がそうで、まだほんの5歳くらいのちびっ子なんだが、彼は精霊を目視できるレベルで精霊との親和性が高く、また魔法を扱う才能もあると思われる。

魔法ってのは、感情が大事。その点、子供なら感情の大きさも凄い。更にこのちびっ子くんはいわゆる天才で、なかなか魂の格が高く、私の声が届くのだ。マジで優秀だな。

そういうわけで、私はちびっ子くんに啓示を与え、エルフの人を通じて魔法の習得をしてもらった。最初は驚いてたけども、私が神だとすぐに察してから膝ついて崇拝するし、5歳でこれって将来有望ってレベルじゃねーな。ヴァルスの最初を思い出すと、その差に感慨深い気持ちになる…ううん、本質的に気が弱いんだよな、あいつ。

で、ちびっ子くんは、ほんの数年で一人前の魔法使いになった。エルフの人もビックリなレベルの成長っぷりで、更に魔法を使える理由を解明しようと動き始めて、土や風の観察とか精霊の観察とか魔法の観察とかを繰り返し、15歳になる頃には魔法理論の雛形を作り出した。まあアレだよ、呪文とかそういうアレね。


 この呪文の基礎は2種あって、まず「精霊語」という言葉で精霊に語りかけ、召喚に応じて貰って力の方向性を定める。そこから更にちびっ子くんが作り出した「呪文」という特殊言語を唱え、精霊語の効果と相乗させる事で威力を上げている。無論、精霊語と呪文の内容に齟齬が出ると威力が落ちるか発動しないので、ちゃんと意味を理解しないと扱えない。

これで、魔法を使うごとに効果が変動することがなくなり、割と簡単に不思議な力を使えることが出来るようになった。めっちゃ燃えろーって念じなくても使えるようになったので、エルフの人らは驚きながらちびっ子くんを超天才だ~!と持て囃してる。うん、その通りだと思うよ。

ちなみに、魔法発動時の術者の祈りや感情次第で威力が上がったり下がったりするみたいなので、性格次第で得意属性とか出来そうだよな。

しかしちびっ子くん、これに驕ることもなく研究を続けてて、その破竹の勢いはまさに列車のよう。魔法世界のニューウェーブが爆走しているのを感じるね。


…ふむ、こういうポンッと出てくる天才って、どういう基準で発生するんだろうかね。別大陸にも時折ポッと出てくるし、この国でもちょこちょこと出てきては、新しい分野の発展を促す事もある。

そうだなぁ、「1+1=2」になる計算式が、たまに「1+1=田」になるっていうのか。

つまり田の人だな。

これからは天才を田の人、略して田人と呼ぼう。安直だって?知らんなぁ。



※※※



【「田」について

古代の象形文字の中で、「田」という不思議な文字が存在する。これの発祥がどこからなのかは定かではないが、当時の人々はこの「田」という文字を才能ある人への尊称として用いていたようだ。一説では、ルドラがヴァルスへ語った説法の中に、「田」についての言葉があったのが発祥だ、とも言われている。この説が大きく流布されたのか、後の人々は時に現れる天才を差して、「タビト」と呼ぶようになった。

                エルベン・マグリル著「世界の言語」より】



【神々の階級について

神には階級があると言われている。とは言ったものの、神界に出向いた人間などほぼ居ない上に、これらの情報は神の言葉を受けた者の証言故に、いささか信憑性に欠ける。なので、これらの情報は眉に唾でもつけて拝見して頂きたい。

 まず、我らが最もよく知られている大神。これはヴァーベル、ティニマ、ルドラという原初の三神を指す。基本的に彼らと同位の存在は、この世界には居ないと見て良い。つまりは、この世界でもっとも力ある存在とも言える。

 次に、中神。これはそれぞれの領域の役割を担い、管理する神と言える。この世界に元素があるのは周知の事実だが、これを管理しているのは精霊王であり、その6大属性の精霊王を補佐するのが6元神とされる。

6元神は、火の神ヴァルフレア、風の神フェレシアーヌ、土の神ガイゼルムンド、水の神マウラ、光の神セルシュ、闇の神ヴェルシュの6柱である。この内、光の神と闇の神に関しては謎が多く、一説では双子なのでは無いかと言われている。また、6元神よりも下位のものを取りまとめる纏め役として、エレゲルとミシュレイアという神が居たとされている。が、現在ではこの二柱の存在は抹消されており、その経緯は未だに謎に包まれている。

 そして小神。彼らは小さき神と称されるが、それでも我ら定命の者よりも大きな力を宿す存在である。人が神に昇華された場合、最初になるのがこの位階であるとされる。基本的に管理している領域の下請け的なことを成すとか、なんとか。

…このように書くと怒り出す敬虔な信徒もいるかもしれないが、再三言うが眉唾と思いながら拝読して欲しい。筆者も神が中間管理職のような形態だと思いたくはないのだ。が、記録として残っている以上、無視する訳にもいかないのでここに記しておく。正直、書いたら出来るだけすぐに忘れるつもりだ。誰だって神という神秘のベールを剥ぎ取りたくはないからだ。

               ケイレス・アードナー著「世界の神々」より】



【三原神という幻想について

 原初の神という事で、一般の人々に持て囃されている存在がいる。それが三原神と呼称されている存在だ。だがしかし、私はあえてここに異を唱えたい。本当にこいつらは偉大な存在なのか?と。

確かに人類の祖を創り出した、偉大なることを成し遂げた存在かもしれない。だがしかし、こいつらの存在が逆に争いを引き起こしたという事例も存在する。人々が神の名を好き勝手名乗りながら戦争を起こしたことも、一度や二度ではない。つまり、この世界では神など争いを巻き起こすような疫病神だ。

だからこそ、私は神など必要ない、と声を大にして言いたい。神が我らに何をしてくれる?祈っても声は届かず、無辜の民が悪人に殺されることすら日常なこの世界で、神に祈って何になろう?ならば、祈りの時間を自分や家族の為に使うほうがよほど合理的である。

~以下省略~】


【「三原神という幻想について」というチラシへの反論

少し以前に発行された、このバカバカしいチラシを読んだ読者は居るだろうか?正直、私はこのゴミを読んでまさに口から失笑が零れ出てしまったほどだ。

当該書の筆者についてだが、彼はどうやら宗教に関してほとんど無知であると察せられる。そもそも、神は人を救う為に存在しているわけではない、とルドラ教の聖典にはっきりと書かれているのだ。つまり、我らが神は人を救うために存在しているわけではない。誰だってわかっている。それでも祈るのは、神が見守ってくださるからだ。

天に嘘は吐けない、とは古代の賢人の言葉だが、その通りに神々は我らの所業を把握しておられる。これは冥府に赴いたカルモランの著書にも書かれているほどだ。人が生前の行いによって冥府にて裁かれるのは、既にわかりきっている事である。更に言えば、神が居たから争いが起ったというのは間違いだ。そもそも、戦争を起こす暴君はいつだって何かの責任にしたがるからだ。その都合の良い存在が神だったという、それだけの話しだ。そもそもに於いて宗教とは精神的な祈りによって魂の研磨を試みる(以下省略)】


【『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論

昨日発行されたこの無駄な紙くずについてだが、どうやらこれの筆者は私へ挑戦的な試みを行いたいようだ。そもそも、彼の言っている事は荒唐無稽である。冥府に関しての証言があの大悪党の著書である時点で、まさに眉唾も良いところだ。所詮、低能なルドラ教徒のくだらない論点ずらしに過ぎないのだ(以下略)】


【[『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論]への反論

あの書籍の発行者を突き止めたのだが、どうやら彼はアーホイ子爵のようだ。貴族の道楽らしく、チラシまで出してくだらない事を反証しようと躍起になっている上に、遂に筆者への圧力を駆けてきた。我が家の前に暴漢を雇って黙らせようとした様子だが、あいにくと連中は経験なヴァーベル教徒であったために、同じ三原神の教徒として分かり合うことができたのだ。しかし、アーホイ子爵の愚かしさにため息しか出ない。このような幼稚な手段で良いようにできると本気で(以下略)】


【〈[『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論]への反論〉への反論

事実無根な事を書かないでもらいたい!そもそも、分かりあったなどと言っているが実際は金の力で黙らせただけではないか!この生臭坊主め!恥ずかしくはないのか!?だいたいお前らルドラ教徒は(略)】


【《〈[『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論]への反論〉への反論》への反論

論破できないと見るや、暴言の嵐とは恐れ入るものだ。まさかこれで知識人を気取っていたのではあるまいな?この程度の論説一つを打ち崩せない時点で、子爵の程度の底が知れるというものだ。だいたい、甘いのではないかね?あんな暴言を吐いて一つとして反論が来ないままに自分の言説が受け入れられると信じていたのかね?それこそ世間知らずのお坊ちゃんらしい無知蒙昧さだ。まさに背筋が凍りつくというものだ。それに君の言葉遣いは貴族としてどうかと(略)】


【《〈[『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論]への反論〉への反論》への以下略

このゼニゲバ坊主(略)】


【《〈[『「三原神という幻想について」というチラシへの反論』への反論]への反論〉への反論》への以下略の略

低能貴族のやっかみ(略)】


【《〈[『「三原神という幻想について」という略

(全略)】


【《〈[『「三原神という幻想について」という略への略

(全略の略)】



【帝都レイダス新聞朝刊

 昨日未明、帝都の某所にて乱闘騒ぎが発生した。当事者は最近の広告チラシで賑わいを見せていたアーホイ子爵と、修道士オターケの二名である。オターケ修道士の院へアーホイ子爵が乗り込み、恫喝と恐喝、更には暴行を加えたという。それにオターケ修道士が殴り返し、周囲が止めることも出来ない胸ぐら掴んだ大乱闘に発展したようだ。報告を受けた治安隊がやってくるまで、まさに手のつけようのない事態だったとのことだが、まあ魔法騎士と魔法士の戦いで死人が出なかった事の方が僥倖である。このお騒がせな事件の発端は、両名が広告チラシを用いた文通めいたやり取りが原因である(なお内容は罵詈雑言が飛び交っていたが)。互いに引くに引けぬ暴言と罵り合いから、乱闘にまで発生するなどと誰が予想できたのか…いや、実は期待していた者は多いかも知れないが。

 ともかく、広告料を払ってまでこのような、子供に見せられない文面を世に晒すのは如何ばかりかと思う。そもそも、普通に手紙でも送りつけば良いだけの話しなので、チラシに拘るその理由も一般人にはよくわからない。もっとも、一番の被害者は夜中に乱闘騒ぎでぶっ壊された修道院の方であろうが。喧嘩をするなら、一般人を巻き込まないように行ってほしいものだ。


街角の人々の声:

「バカじゃなかろうか。大の大人が雁首揃えて恥ずかしいとは思わんのかね」

「まあ、読んでる分には面白かったけどね。でも喧嘩はよそでやってくれよ。邪魔だから」

「う~ん、神を信じるも信じないも自由って時代だしねぇ。奇跡の一つでも起これば、もっと信徒が増えるかもしれないけど~、まあわざわざ用もないのに教会に行って祈ったりはしないかなぁ」

「貴族も修道士も暇人が多いんだな」 

                       帝都のレイダス新聞より】


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