第2話 誠に遺憾であります

  三日三晩をかけて世界を造り、なんとかかんとか、人が住めるような形にはなった。


あの荒れ地には大海が緩やかに波打ち、陸には緑溢れる森や植物で満ち溢れ、そこここに様々な動物や虫などで溢れ返っている。

これらは全て少女、もとい、ティニマの作である。

わざわざ海に魚類を作り出し、そこから長い年月をかけて進化の可能性を与えて、数種類の魚類が陸に上がったのがつい最近。陸に上った種は、それぞれの凄まじい進化を経て、鳥や獣という形に変化していた。なお、人類などの知的生物はまだ出現していない。


ああ!そうそう、そうなんだよ!

ちょっとさ、我々も自分に名前を付けてみたのだ。


やはり名前がないと不便だろう?男とか少女とか、私なんて「お前」とか「君」とか呼ばれてて、味気ないにも程がある。だがしかし、名乗ろうにも人間の頃の名前なんて、みんな覚えてないし。

そういうわけで、名前をつけようって事になったんだけども…まあ、ほら、自分で自分に名前をつけるのって恥ずかしいだろう?もしも、ここで妙な中二病が炸裂したら後で顔面を覆いたくなるかもしれない…という、私の必死の説得により、互いに名前を付け合うってことになったのだ。

ちなみに、私はあの男の方の名前を付けた。

【ヴァーベル】って名前だ。ほら、なんか男性名っぽいだろ?いや、別にタケシとかシゲオでも良かったんだけども、ここってファンタジーだし。神話とかで「創造神タケシ」とか出てきたら爆笑する自信がある。ので、普通のファンタジーっぽいネーミングにした。うむ、懸命だ。

で、ヴァーベルが命名した少女【ティニマ】が、私の名を付けてくれた。


【ルドラ】


それが、私のこれからの名前だ。神様ネームだな。

それから、今の光るだけの眩い姿ってのも味気ないので、自分の姿を作ってみた。ようはアバターだな。ただ、どうしても顔だけは作れなかったので、顔の無い人型にしかならなかった。何故なんだ…自分の顔を忘れているせいか?

 私が作った自分の姿だが…馴染んだ黒髪で、異世界風の紫ローブとフードに、怪しさ抜群な仮面の姿にしてみた。魔法使いっぽい恰好で、仮面は顔の上半分を隠す程度だ。無貌だから表情がないだろう?だから、仮面でフォローしてみることにした。それと、顔が見えないほうがミステリアスっぽさが増えるだろうし。

で、それを真似たのか、ヴァーベルとティニマも、自身の無貌の顔を覆ってみたようだ。

ヴァーベルはシンプルに赤いトラ模様の腰巻きを纏った、赤い鬣の獅子マスクだ。上半身は筋骨隆々。どっかのプロレスラーかな?

ティニマは、植物っぽい草を巻き付けた体躯に緑髪で、顔の上半分を蔓と花で覆っている。ぴょろん、とアホ毛が出てて、小さな花が咲いているのがチャームポイント。アルラウネっぽいな、とか思ったり。

ま、こんな感じの姿を互いに見せ合ったら、互いの姿に爆笑したり。なんで誰も普通の恰好をしないんだ、とか言ってみるが…まあわかってるよ。普通のサラリーマンみたいな恰好の神様なんざ嫌だ。神様はお役所やないねんで。


 さて、ティニマは大地に関連する物を作り、ヴァーベルは天空に関する物を作っている。天空って言うと、雲とか星とか、流星群が必ず降る日を決めたり………確率という概念は、あいつには無いようだ。それと、星座とか作りたいってことで、天に腕を伸ばして星を移動させていたぞ。大蛇座とかイタチ座とかガマガエル座とかあるらしいけど、私にはそれがどれかはわからない。きっとティニマにもわからないだろう。

…え、私?

私は、時と夜に関する管轄なので、主にその二つに関連する概念を創造した。


…なんというか、「世界」の奴は質問すれば返してはくれるのだがね、わからない部分を興味本位で聞いてみたところ、ちょっと気になった事があって。


なんでも、世界が生まれたての今現在、我々は好き勝手に世界を創造できているわけだが、これっていつまでも可能な事ではないようだ。世界のイメージが固着すれば、それを改変・創造するのには、それ相応のエネルギーが必要となるらしい。今は形が定まりきってないから、自由にできるってこと。乾燥する前の紙粘土だと思えばいいのかね。

乾燥した紙粘土を弄るには、それ相応の力と工夫が必要ってことだ。


…で、だ。


その改変・創造に必要なエネルギーってのがなんなのか、だが。

我々が自由に世界を創造できるのは、実は「世界」から凄いエネルギーを分け与えられているから、干渉できているんだとさ。

つまり、「我々の想像力+世界の万能エネルギー」によって、創造が可能となっている。

ううむ、イメージとしては…巨大な湖を想像してほしい。湖の水が、この世界に満ちている万能エネルギーなのだ。我らの力をこれに例えれば、この湖からコップで水を掬い、飲水にしたり氷にしたりしている、といったところか。

さて、この湖の水は、この世界の万物が存在し続ける為に、常に消費されている。

例えば、「時」もそうだ。

時間が流れるにしても、この湖の水を少しずつ消費せねばならない。それがこの世界、有限の定め。

そして、時が流れるという現象を起こすことで、また別の巨大なエネルギーが発生する。


私はこの時から発生するエネルギーを、「時エネルギー」と呼ぶことにした。

同じく、「世界」が渡してくる万能エネルギーは、「世界エネルギー」と呼称する。


時エネルギーは世界エネルギーに比べれば小さな作用しか持たず、世界エネルギーのような万能の力には全然足りない。だがしかし、時エネルギーは世界エネルギーの………ああもう面倒くさい!世界エネルギー略して「世エネ」だ!


世エネは万能だが、創造神である私達しか扱えない。

一方、時エネはおそらく他の被造物でも使える。


世エネはなんでも作り出せるが、限りがある。

時エネはなんでもは作れないが、世界が存続する限り増え続ける。


この二点を考えれば、時エネがどれだけ貴重か理解できるだろうか。

なぜなら世エネの消費を抑えねば、世界のものが「詰む」未来が必ずやってくるのだ。


先程の湖に例えれば、基本的に水は自動では供給されず、徐々に徐々に消費されていく。

一番最初、湖は容量100%だが、時代が下るにつれてこれが減っていく。そして基本的に大きく供給できない。これが0%になった瞬間が、世界のゲームオーバーだ。

なぜなら、世界という「有限」が生まれると、それを無に還そうと迫ってくる「虚無」という代物が侵食してくるらしい。それに「世界」が世界エネルギーを用いて拮抗し、無限という「虚無」の魔の手から、世界そのものを守るのだ。つまり、容量0%=侵略によって虚無に帰す、ということだな。

で、この虚無は世界が固着する程に強くなり、最終的に世界は虚無に侵食されて無に帰すのが常らしいのだが、「世界」が世界エネルギーをたくさん持っていればいるほど、その侵食を遅らせることができる…まあ、つまりは世界の寿命を伸ばすことができるのだ。


『世界』からこれを聞いて、私は「早急にエコロジックなシステムを作らな駄目じゃん!」と思い立ち、こうして四苦八苦しながら新システムを作り上げたのだ。なんかプログラム言語でも弄ってる気分になったぜ。


さて話は戻るが、その世界エネルギーを維持・作り出す方法だが。


…まず、世エネを使用しない。これに尽きる。だから時エネを変わりに使用していくというのが一点。

次に、この世界は感情や祈りが力を持つ世界なので、想いもまた力となる。つまり、定命の者達が神への祈りを抱いて捧げるたびに、それが世界エネルギーとなって「世界」に還元されるのだ。ただし、こちらのエネルギー発生率はひっじょーに微々たるものなので、あまり期待はできない。

あとは、物質、魂、力を「世界」に還元する方法だが…これを行うと捧げられた存在は消滅するので、文字通りの人身御供になる。………最終的に世界の維持のために、人類全てをこれに捧げる必要が出てくるかもしれんな。嫌な未来だ。ただ、エネルギーの補填としては、これが一番マシではある。なんとも、世知辛い話である。


それはさておき、肝心の新システムのお披露目!

世界エネルギーを多用すると世界が衰えるので、時エネを貯蓄するタンクを作り出し、そこに時エネを自動的に蓄積できるようにした。そして紐付けられた存在だけが時エネルギーを使用し、特殊な言語を用いて世界に奇跡を与えられるシステムを作り出したのだ!つまりは、凄い神様チックな気分になれる!

世界創造以降は、私も含めて世エネの使用は控えてもらう。どうしても大きな改変が必要な場合は、この時エネの大量消費で頑張るつもりだ。ダメだった場合?…その時に考えよう。

あと、他の神を作ってから、この時エネで神っぽいことをやってほしい、という心算もある。

だってさ、世界が複雑化すればするほど、人手が足りなくなるだろうし、神はもっと必要だから。でも世エネは我々だけの力なので、被造神は時エネで頑張ってもらうのだ。

そりゃあ世エネに比べれば、時エネなんてクッソ小さい鼻くそみたいなシロモンですよ。それでも地形を変えたり、天候を変えたり、海を真っ二つにする程度の力はあるのだよ。…よくよく考えば凄い力ではある。万能を創造できる力に比べれば、まあ見劣りはするけども。


そういうわけで、苦労して創り出したシステムを「どうだ凄いだろう!?」と他の二人に自慢してみたが、二人共よくわかっていない様子で「へーすごいね」という淡々とした反応を返しただけだった。興味すら持ってくれない。ちくせうっ!



※※※



 さてはて、時エネのタンクを私の領域…ああ、別次元に居住地を作ったのだがね。そこに貯蓄用タンクを安置した。イメージは砂時計だったので、その通りに巨大砂時計型のタンクとなった。


…この居住地は、ようは私が作り出した小さな別世界だ。最初の世界と同一ではあるが、世界のどこでもない場所だな………え、わかんないって?聞くんじゃない、感じるんだ!(思考放棄)

で、そこに自らが寛げるプライベートスペースを構えたのだ。大森林の小川と、その畔にある荒小屋をイメージしてみた。一回、こういう場所で隠者っぽく住んでみたかったんだよなぁ。小屋内は広いんだがね。

ちなみに、マイ領域は当人の精神世界としての側面が強いので、改変に世エネは必要ではない。部屋替えが簡単で良いことだな。

小屋の横に、ドドーンっと鎮座する砂時計。私の背丈の倍はあるが、まあコレが満杯になるには数万年は必要だろうから、一杯一杯になる心配はない。うん、ちょっと容量でかくしすぎたかな、と思わなくもない。少しずつ砂が貯まるのを見ていると、なんか愉快に感じるものだなぁ。


 一方、時エネを発見した私は疑問に思った事があり、ティニマとヴァーベルに確認をとってもらったところ、時エネだけでなく、この世界のあらゆる現象は発生した時点で、一定量のエネルギーを生み出していることを突き止めたのだ。

そう、いわば自然エネルギーである。一応、時エネもこれに分類されるんだろうかね。

風が吹くことでも、火が燃えることでも、目に見えないエネルギーが発生している。火力発電とかそういうイメージに近いね。で、この自然エネルギー略して自エネは、時エネよりエネルギー発生率が悪いらしい。

なんでも、これら自エネを作り出すのは、世界を構成する「元素」とも言うべき代物のようだ。元素記号ではない。ファンタジー世界の4大元素とかの、アレである。この元素が世エネを消費することで、風や火という現象を作り出す、この世界を構成する重要な要素となっているのだ。ファンタジー粒子ですな。

これをなんとか利用できないかと考えていたのだが、いいアイディアが浮かばずに首を傾げるだけに終わった。


 で、別日。ティニマが世界を監視するシステムを作ったとメッセージを飛ばしてきたので、ヴァーベルと一緒に彼女の元に行って、それの詳しい事を聞くことにした。今後の参考になるかもしれんしな。ちなみに彼女の領域は野原の中の一軒家で、可愛らしい女性っぽい内装であったと追記しておこう。野郎共には居たたまれない領域だ。

そして彼女の説明を聞きながら、空中に映しだされたPCっぽい巨大ウィンドウに記された世界マップを観察したところ、元素が異様に薄くなったり、逆に密集したりして天変地異を発生させているケースもあるのだと知った。

火の元素が濃い火山地帯では頻繁に噴火を繰り返し、同じく水の元素が濃い大海原では巨大な大津波が頻繁に発生しては、生命達を根こそぎ掻っ攫っていくため、ティニマとしては頭が痛い事象なんだとか。たとえ神であっても、理由のわからない事象を何とかする事はできなくなりつつある。つまり、この世界が徐々に固着しつつある、という事なのだろう。


さて、その天変地異を観察していて、理解した事がある。


元素が密集することによって、異様な噴火や津波、地震雷火事親爺もとい大嵐が発生するのだから、この元素を管理するシステムが必要になってくる。ちょっと今の状況はねぇ、地震地帯とか一時間ごとに地震起こって大地が捲れ上がってるし、海とか常に大津波発生注意報で危険極まりない。これではバカンスなど夢のまた夢だぞ。

そこで、私は元素を管理する存在、つまりファンタジーではお馴染みの「精霊」を作り出すことを提案してみた。元素そのものに形を与えて、命令を聞いてくれるような便利な存在として作り出す。これで命令一つで天変地異は収まるようになるだろう。

当初は相も変わらず理解していなかった二人だが、「精霊を造れば生き物がずっと住みやすくなって、災害も起こらなくなる」と説明したら、諸手を挙げて賛成してくれた。チョロいぞ、君たち。

大地を作ったティニマが元素から精霊という形を創り出し、そして大気、つまり世界を覆うヴァーベルが元素の支配者となった。え、私?私はシステム作成のフォローだよ。だって疲れるのは嫌だし。


ティニマが精霊を生み出せば、精霊達は微かな自我で、ティニマを母と慕い始めた。見た目は発光する人型です。

一目で分かりやすいよう元素ごとに色分けを行ったところ、風は緑、火は赤、水は青、土は黄、光は白、闇は黒となった。つまり、これがこの世界における6大元素ってことになった。これにより、自エネは6つの属性に分かれることになったのだ。この精霊を利用すれば、おそらくだが後の人間達も、魔法を使うことができるんじゃないかな?

で、生まれた自我が薄い精霊達を取りまとめ、命令を下すのがヴァーベルの役目。その命令によって精霊達が元素を操り管理することで、世界中の天変地異はあっという間に鳴りを潜めました。うん、理論通りで良かった。このまま、精霊達は元素を管理してもらいたいものだ。

リーダー気質っぽいので、ヴァーベルは精霊の中で一番最初に創り出した6種を引き連れて、なんかいろいろと教えている。そのうち、明確な自我が芽生えたりしてな。


で、地上世界の現況だけど。


世界環境はいい感じになったし、ティニマが動物を作ってるんで賑やかしい感じにはなっている。ただなぁ、神様視点の下界って凄い勢いで時が流れてくからさ、あっという間に生まれて死んでいくんだよね。無常観を感じるな。


………ああ、そうそう。


生命を作り出す際に、ティニマが死者の領域を作ることにしたらしいんだが、


「イメージできないのー!だって地獄みたいなドロドロしたイメージしか無いんだもん!」


ってなわけで、なんか私に泣きついてきた。え、ヴァーベル?…ほら、あいつって脳筋だから…。

それで、まあタンク作りで忙しい片手間に、死者の国、冥府を作る手伝いをしたよ。

定命を持つ者達は魂という、世エネで作られた代物を体内に内包している。これが存在の核となっている、とはティニマの言である。私はまだ生命を創造してないんで、そのへんは彼女の方が詳しい。ちなみに魂システムは「世界」があらかじめ作っておいたシステムなんで、私は楽できる。…これで魂システムの構築とか、どんだけ苦労したのやら。

魂が肉体から死して離れると同時に、冥府と呼ばれる領域に引っ張っていくように設定し、その冥府では魂の選別と転生システムという、お役所仕事っぽい物を作った。

転生システムは、まあ言わずもがな。順番に魂を送り出して何に転生するかを自動で割り振るシステムですな。紐付けられた魂が自動で移送され、生命誕生の瞬間に魂がシュッと入り込んで完了って流れなので、やることと言えば転生先の種族分類とかを決める事かな…あれ、結構大変じゃね?

で、魂の選別ってのは………まあティニマの、


「やっぱり悪人も善人も一緒にするのって変だしねー!悪人はちゃんと地獄で罰さなきゃダメなんだよ!」


という主張により、余計なシステムを構築させられる羽目になったのだ…むむ、面倒なオーダーを入れおって。


とりあえず、「カルマ」というシステムを作ってみた…うん、業だよ、黒歴史っぽいとか言わない。

このシステムは、その定命の者がその生涯の中で、同位種族からどれだけ悪感情を向けられたかによって変動する代物でね。全ての魂にこれを紐付け、カルマ値の大きさによって冥府でどの程度の罰則を与えられるかを、振り分けるシステムとした。

え、同位種族って何なのかって?ようは、同じ知的レベルの種族ってことさ。動物なら動物、植物なら植物、人なら人。ぶっちゃけ、違う種族まで計算してたら食物連鎖もあるんだし、まともに集計できないに違いないので数えていない。そもそも、感情があるかどうかすらも疑わしい、この世界の植物にまでカウントするのは無駄だし。

まあ、状況によりけりでカルマなんて変動しそうだし、冤罪とかでもカルマは溜まりそうだけども、それを吟味するために仕分け人が必要なのだ。つまりは、死の神ってやつだね。


つまりティニマ!君が死の神を兼任するのだよ!


と、私がティニマへ指差し言えば、ティニマは困った感じで小首を傾げた。


「え~?でもあたし、大地の監視システムとか作っちゃったし。生命分布図っていうの?それと、元素の監視とか。こっちまで出向いてやるのは無理だよぉ」


ぬぐぐ……そっちから言い出したくせに!

などと思っていると、


「なぁに言ってんだルドラ!お前は世界維持に必要な仕事をまだ割り振ってないじゃねーか!俺は四季を作ったり、これから作る神々の領域を統治する役目を持ってるんだぜ!どうせだし、そのまま死の神になっちまえよ!」


とか、脳筋が口を出してきやがった。


ちょっと!人をそんな物騒なものに勝手に任命しないでくれよな!?

いや、ちょっとだけ「死の神とか格好いいな」とか思ってないから!ないから!ないったらない!



※※※



【死の神ルドヴァルス

その体躯は老人にも青年にも見えるとされ、冥府にて罪人の裁きを行う神であるとされる。死者は皆、この神の前に晒され、生前の罪を数えられた上で冥府に落ちる階層を決める。一説では、何があっても決して逆らってはいけない相手であり、逆らう者は無情な刑にて魂ごと抹消されてしまう、との記述もある、恐ろしい神である。一部の地域では親が子に向けて「悪い子はルドヴァルスに連れて行かれてしまうよ」という、子供を脅しつける定型句として今もなお使用されている。

ルドヴァルスは夜刻神ルドラの眷属ではないか、という説が残っており、それを裏付けるかのように【ヴァルス】とは古代語で神子という意味を指すという。

                ケイレス・アードナー著「世界の神々」より】


【元素とは、世界に偏在する不可視の存在である。これらはかつて神々が世界を創造した際に、神の身の内より生まれ出でたとされている。神は元素の一部を掬い上げ、形を定めて精霊に変えたのだ。

精霊は世界のエネルギーを内包しており、高位の精霊は強い自我を持つという。すなわち、世界の番人である。そして我々、人種も獣種も翼種も、全ての者が扱う「魔法」はこの精霊の力を借り受けることによって発現している。また、大量の精霊を無理やり使役したり、無思慮に消費し続けると、精霊王と呼ばれる存在達の手によって身の内より消滅させられるという。もしもこれを読んでいる読者が魔法使いを目指すのであれば、精霊への接し方には十分な配慮を要するというアドバイスをしておこう。彼らの機嫌を損ねたり嫌われれば、魔法使いとして決して大成する事は叶わないのであるからだ。

               エルベン・マグリル著「初等魔法理論学」より】


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