第16話 財政難と火の車①
元エディール国王の財政は、まさに火の車だった。
徹底的に無駄を省くべく、人事異動や人事解雇も徹底されることになったが、貴族達からの不平不満は爆発寸前……と言わんばかりだった。
そもそも、貴族たちの横領だけに留まらず、貴族が、王族が金を使いすぎているのだ。
その金は一部の富裕層にしか回っておらず、国全体にお金が回るという事は、現段階では到底難しい話であった。
「よくもまぁ……これだけ無駄な出費をしてくれたものね」
「ええ、こんなお粗末な国策では、何時国が傾いても可笑しくはありませんでしたね」
出るわ出るわ、浪費の痕跡。
請求書に関しては踏み倒したものも多くあるようで、それが原因でつぶれた商家もあるのだから目も当てられない。
しかも、つぶれた商家に関しては、家のお取り潰しと同時に財産の没収。
それを元国王夫妻たちが湯水のように贅沢品に使っていたのだから目も当てられない。
「国のトップや貴族とは、何故ここまで贅沢をしたがるのでしょうね」
「財力があると言う事が一種のステータスなのよ。お金があれば自分たちは他の貴族から下に見られることはない。ある種の保険ね。貴族に限らず、人と言うのは自分より下の人間に対してとても厳しいもの」
それは、精霊王の花嫁であった自分ですらそうであった。
家は男爵家、貴族としても、とてもお金を持っているとも言えず、例え精霊王の花嫁であっても、ニコラスの所為もあり自分とは何時も下に見られていた。
他国からの精霊王の花嫁としてのお金は届いていたけれど、それらは精霊王に嫁ぐための資金として貯めていたのだが、それらはアーチェリン達によってすべて使われた後だった。
無論、憤怒した他国の王たちは、ニコラス達に対して死刑以外の要望は今のところ出ておらず、出来れば一撃で終わるような死刑はしないで欲しいという話は届いている。
「何にしても、財政を立て直すことが先決ね……。城にある不要で悪趣味なものは全て売りはらってしまいましょう。宝石やドレスだってあんなに必要ないわ」
「確かに、目録を見ると馬鹿げた金額のドレスや宝石類を買い集めていますね。これらを売りに出せばそれなりにお金は戻りますが……」
「それでも全く足りないわ……ここまで財政難なのを放っておいた元エディール王家は本当に何をやっていたのかしら。必要な事業すら殆ど滞っていたし……。嘆いても仕方ないわね、兎に角城にあるお金になるようなものや、宝物庫にあるものを売って何とかしましょう」
それでも、ラシュリアとダリュアルだけでは、とてもじゃないが手が回らない。
汚職に手を染めていた貴族達を切ったこともあり、城で働く者たちは半分以下になっているのだ。
これでは自分たちの身体が壊れるのが先かもしれない。
重い溜息を吐いたその時だった。
執務室にある神殿と続く扉が開き、精霊王であるラズが何人かのラズと同じくらいの年齢の精霊族を連れてきたのだ。
「これは精霊王様!」
「いや、もうなんか見るに堪えない程、酷そうだったからこっちでも色々手を回させてもらった。少なからず人員が足りないっていう当面の悩みは消えるようにくらいだが」
「いえ、それこそ本当に助かる事です。本当にどんなお知恵でもいいので貸して頂きたいですね……」
私とダリュアルの言葉にラズは苦笑いをし、連れてきた4人の精霊族を紹介してくれた。
「精霊界から俺の友人たちに声をかけて来て貰えた。罪人担当のカリュ。財務担当のイシュリア。二人のサポート用のリュア。その他雑多な事に関してはスシャーナが担当してくれるようだ。ついでに俺もサポートに入るから安心してくれ」
いい笑顔で言ってのけたラズに、私とダリュアルはポカーンした顔を浮かべた。
すると、ラズは何かの魔法を唱えると、髪の色はこの世界ではありきたりな焦げ茶色、瞳の色は緑の一般的な青年に姿を変えた。
「目立つ精霊王としての姿は隠して、こっそり手助けするから安心してくれ。俺の目利きも宝石やら売る時に役立つだろうしな」
いい笑顔で言ってのけたラズに私は頭を抱え、ダリュアルは固まって動かない。
しかし――。
「下手に値切られてお金が手に入らないのは困りますからね。精霊王様よろしくお願いします」
「任せてくれ。俺の事は精霊王とバレない様にラビとでも呼んでくれ」
「解りましたラビ」
「取り合ず夜も更けた。他の奴らの紹介は明日また一緒にやろう。まずは顔合わせだったからな」
その一言にラズの後ろに立っていた4人は笑顔で私とダリュアルを見つめた。
精霊界の友人……初めて聞いたわ。
カリュ様は可愛らしい女の子なのに罪人担当って……。大丈夫なのかしら?
財務担当のイシュリア様は凄く頭が良さそうだし、うまくやっていければいいんだけれど。
私達担当のリュア様は優しそうな男性で、その彼と似たように優しそうな雰囲気のスシャーナ様は笑顔で立っている。
「明日、改めてご挨拶できることを楽しみにしていますわ」
「罪人担当は喜んで受けたわ! 安心してね!」
「俺はあまり自身はないけど、出来るだけ頑張るから頼ってくれると嬉しいな」
「その他雑多な事はお任せください。夫のリュアと共にお手伝い致しますわ」
まさかの、リュアさんとスシャーナさんはご夫婦だった。
兎に角、ちゃんとした挨拶は明日の朝一番に精霊王の神殿にて……と言うことになり、彼らは早々に帰っていったが、髪の色と目の色を変えたラズ……いや、ラビは嬉しそうな笑顔で「役に立てそうか?」と問いかけてきた。
「あの四人は小さい頃からの友人でな。仕事の速さや的確さは俺が保証する」
「何から何までありがとうございます」
「このマイナス降り切って地面スレスレ状態からのスタートだからな。これ位の応援は必要だろうと判断したまでだ。大事な義弟の国が最初からクライマックスだからな」
「ええ……本当に……頭と胃が痛いです」
「僕も頭と胃が痛いです……よく今まで国として成り立っていたなと思います」
ここ数日、渡される書類を見るたびに胃液が上がってくるほどの辛さだった。
それが少しでも緩和するのなら本当に有難い事だ。
兎に角、明日の朝から四人……と精霊王であることを隠したラビが手伝ってくれることになり、ホッと安堵の息を吐くことが出来たのは間違いのない事実で。
動こうにも先立つものがないこの国の為にも、まずは信頼できる貴金属買い取りや宝石買い取りの承認を呼ばねばならなかったが、その辺りはイシュリア様と一緒にした方が良いだろうと判断に至った。
財務担当ならば、きっといいお知恵を持っているのかも知れないし。
そんな事を考えながらも、ラズを含めた精霊たちが神殿へと帰るのを見送った二人だったが――。
「しかし姉上凄いですね……」
「あら、何がかしら?」
「いえ、奴隷堕ちした時は心臓止まりそうでしたけれど、今も奴隷印は消えていないのでしょう?」
「ええ、それが?」
「何というか……物語っぽいなと思っただけです。現実逃避です」
「どういう事?」
「……奴隷堕ちからの国の復興者って、なんか夢があると言うかなんというか」
「馬鹿ね、私は今も精霊王様の花嫁であり、奴隷なのよ」
ラシュリアはクスクスと笑いながら書類を纏めると、一息ついて弟のダリュアルと向き合った。
「奴隷印を消さないのがその証拠。精霊王様は仰っていたわ、奴隷印を精霊の力で消すことは出来る。けれど、今はその時ではないって」
「時ではない……とは、どういう事でしょうか?」
「何かしらお考えがあるのよ。だからわたくしはまだ奴隷の身分も持って、精霊王様に従事しているの。その一つがこの名も無い国を倒れないように支える事……。けれど、わたくしの力をもってしても、貴方の力を以てしても、この国にある膨大な問題は解決が難しい。そうご判断された精霊王様が手助けにご友人に頭を下げた……。これは、わたくし達人間の不手際が招いた事で、とても恥ずかしい事だわ」
「……そうですね」
「だからこそ、貴方がこの国の王として立派に導くためにも、わたくしは努力を惜しまないわ」
「僕も努力を怠りません。けれど、たまには弱音を吐かせてください」
「ええ、わたくしの弱音も吐き出させて頂戴ね?」
最期は二人して苦笑いをし、大きく息を吐くと既に真っ暗になった空を見上げた。
朝は聖女としての仕事もあり、精霊王の神殿にて聖女としての仕事を行う。
といっても、他の国の神官達と会話をすることが稀にあるというくらいだが、朝シッカリと体をほぐしてから国に向き合い夜中まで仕事をするという日々が続いている。
それはダリュアルも同じで、互いに目の下にあるクマを見て再度苦笑いを浮かべた。
ダリュアルもまた、午前中は精霊王であるラズから帝王学や国の経営のやり方、法律などをミッチリ時間一杯に叩き込まれている最中で、脳をフル回転させているのだ。
姉弟揃って、多忙なのである。
「この多忙さを少しでも他の貴族が理解してくれたり、城で働く方々に解っていらえたら助かるわね」
「そうですね。頑張りましょう」
――明日からは力強い助っ人も来る。
二人はようやく体の力を抜く息を吐き、互いに戻るべき部屋へと戻っていったその翌日。
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久しぶりの更新となります。
どの家でもどの国でも、お金ってのは大事だなぁと言う事で。
色々メスを入れこんでいきますよ~!
無駄は駆逐されるべし!
子供が突発性発疹になったりして二週間ほど保育園を休んだり病院行ったりで
暫く執筆出来ませんでした。
(けど、年末年始の保育園休みがあるのでその時もまた……)
ボチボチ更新していくので、応援して頂けると幸いです。
精霊王の花嫁~奴隷堕ちからの再スタート~ udonlevel2 @taninakamituki
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