第15話 名も無い国は歩き出す
――世界に闇が落ちてきた。
それは、伝承によれば、一つの国が精霊王の怒りによって滅ぼされた証だと記録されている。
各国は混乱したが、各神殿より『エディール国王が滅びた事』や『あらなる国王は既に精霊王様がお見つけになっておられる』と言う情報により、王族は少しだけ安堵の息を吐いた。
滅んだ国とは名を聞かずとも解っていたが、やはりエディール国王は滅んでしまった。
尚且つ、神官達からの情報により、元エディール国王は偽りの聖女を囲っていたことも通達が行き届き、最早エディール国王が今も存在していたとしても、そう長くは持たなかっただろう。
「愚かさで言えば……オルナド王国も……か」
その日、式典に参加していた若いオルナド王国の神官――レガリアは溜息を吐いた。
オルナド王国は精霊王よりも聖女を優先する国として有名だ。その事について、精霊王様は思う事があるのは間違いない。
そして、色々な面で腐敗しているオルナド王国を非難していらっしゃるのだと思うと、聡明なる精霊王様に隠し事など出来ないのではないのかと確信し、溜息が零れた。
――オルナド王国に精霊王の花嫁が生まれたのは、もう古文書にも載るほど昔の事だ。
その時のオルナド王国は、今のような法を重んじる国ではなく、農業を主とした国であったことが記載されている。だが、今はその事実を知るものは少ない。
国に精霊王の花嫁が生まれたことで、そして精霊王に嫁いだことで、自我を失ったかのように世界のトップであろうと暗躍した。
その結果――法の番人と呼ばれる程の大国にのし上がることが出来たが、それから一度もオルナド王国に精霊王の花嫁が生まれることは無かった。
100年に一度生まれると言われる――精霊王の花嫁。
しかし、オルナド王国にはその一回を除いて現れてはくれない。
過去の精霊王の花嫁と、当時のオルナド王国との間で何かあったのではないか? とさえ噂されているが、真実は闇に葬られている。
事実、オルナド王家に精霊王の花嫁が生まれた……その記述しか残っていないのだ。
「愚かさ……」
その一言がどうしても引っ掛かる。
調べるとしても、王国には手掛かりになるものは何もない。
ならば……精霊王の神殿ならばどうだろうか?
レガリアは精霊王の神殿内にある巨大な図書館を思い出し、オルナド王国の当時に迫ってみることにした。
・・・・・・・・・
その頃、やっとの思いでエディール国王に到着したパーシヴァル家は、国民も生活魔法が使えるようになっていることにホッと安堵の息を吐き、城へと向かった。
遅刻してしまった貴族たちが集まっている広場では、神官達が並んでおり、ある一定の人数が入ると出入り口の扉は閉ざされ、エディール国王が滅んだことを聞かされた。
ダリュアルは、それもそうだろうなと納得していた。
何せ、本来なら起こりうるはずのない闇が降ってきたのだから。
あんなことが出来るのは、この世界では精霊王しかいないだろう。
大方、エディール王家が精霊王様の怒りを買い、国として存在することを拒まれる事態に落ちたのだと思うと、少しだけ留飲が下がった。
一通りの説明を受け、次の王が決まるまでは姉であるラシュリアがこの国を任されたと聞かされた時は驚いたけれど、姉ならば素晴らしい国へと民を導いてくれるだろうと誇らしくなった。
ホッと力が抜けた状態のまま、説明が終わると家路へと向かう貴族達に続き歩いていると、高位神官がダリュアルの許へと歩み寄った。
「ラシュリア様のご家族の方々ですね? 少々お時間を宜しいでしょうか」
「はい」
姉が今後名も無き国を支える為に、何かしら自分たちに説明があるんだろうか?
そんな事を思いながら城の中を歩いていくと、あからさまに王族が入る階段へ案内された。
エディール王族の趣味の悪い像が立ち並ぶ階段……その上は王族の居住区だったはずだ。
「あの……これから先は我々には」
「ご安心ください。ラシュリア様がお待ちです」
「姉上が……」
その一言でダリュアルは階段を迷いなく踏んだ。
牢屋で別れてから会う事すら出来なかった大事なたった一人の姉。
神官達に着いていきながら辿りついた大きな扉へ入ると、そこには確かに……以前より短くなった髪、だがそれ以上に美しくなった姉、ラシュリアが立っていた。
「お父様! お母様! ダリュアル!!」
駆け寄ってきた姉は両親に抱きしめられ、ダリュアルも耐えられず自分と同じくらいの背丈の姉に抱き着いた。
ダリュアルの傍を離れないダリュートとアリュートは、姉に対し優雅に礼を取っている。
「あぁ……またこうしてお前に会える日が来るなて……」
「精霊王様に大事にされているのね!」
「ええ、とてもとても大事にされていますわ。あの時、あの行動が最善だったのです……お父様たちには耐えられない程の心労を与えてしまったこと、深く謝罪致します」
あの時、あのクソ王子から奴隷印を押された姉を見た時、この世の終わりだと思った。
でも、それが最善の行動であったのだという姉の瞳に偽りはなく、姉が決めた最善の一手なのだと理解すると、自分の中でせめぎ合う何かを押し殺し、強く頷いた。
「暫くの間、この名も無き国を任されました。生活の中心は神殿ですけれど、執務はこの城で行う予定です。なので、王族の生活圏に精霊王の神殿に繋がる扉を用意させて頂きましたわ。そこは精霊王様が許可した者しか入る事のできない扉ですから、防犯面は安心してくださいませ」
「そうなのだね」
「至れり尽くせりのようだわ」
「それから――ダリュアル」
急に名を呼ばれ顔を上げると、凛とした姉は背筋を伸ばし、机に向かうと、一つの書状を手に戻ってくるや否や、その書状を読み上げられ驚愕した。
――ダリュアル・パーシヴァルは、これより精霊王の花嫁の補佐として、そして、次代の国王としてこの国の政治に関わり、ある程度国が落ち着くまでは城で生活する事。
また、帝王学などの国を動かすために必要な勉強に関しては、精霊王、もしくは、精霊王が派遣した者から教えを乞う事。
「次代の国王として期待している……とのことよ」
「――……謹んで……お受けいたします」
本当に思いもよらない言葉であったが、ダリュートとアリュートが『やっぱりね♪』『そうなるよね♪』と嬉しそうに歌っていたので、何とも不思議な感覚のまま現実を受け入れることになりそうだ。
「貴族たちに対しては、表向き『国王候補』と言う事にしているのだけれど、暫くの間の目くらましみたいなものね。聡い貴族は貴方が城でわたくしの手伝いをしていれば気が付くでしょうが、絶対に隙を見せないで頂戴。とって食われるわよ? それと、精霊王様はダリュアル、貴方こそが次代の国王だと疑っていないわ。また、貴方がわたくしの手伝いをすることについては反対が上がっても精霊王の花嫁の特権を使ってでも許可を貴族達から奪いといる予定だから気にしないで頂戴」
「姉上が前にもましてアグレッシブですね……」
「これ位の強さが無いと……他国の神官達と渡り歩けないのよ……」
姉のどこか遠い目をして溜息を吐く姿に、苦労を感じ取ることが出来た。
「貴方には国王とはどんなものなのか、本当に色々な事を実際に行いながら、そして勉強しながら暫く国を動かしていきましょう。精霊王様もその為に神殿からこちらにいらしてくださるらしいから。一応、周りの目も考えて朝の間だけ貴方は一般的に通る神殿への入り口から神殿に通い、昼前には城に戻ってきて執務をこなしましょう。わたくし一人でアレコレするのも問題があるから、精霊王様に色々と助けてもらう予定よ」
「わかりました。この世界の守護者である精霊王様から教えを乞う事なんて、本来ならありえない話ですから、まだ感情がついてきていませんが……」
「執務の時とオフの時の差が結構あの人激しいの。でも気さくな御方だから気を楽にしてね」
クスクスッと笑う姉の笑顔に、どうやら精霊王様というのはとても気さくな人なのだというのが伝わってくる。それに、オンオフがハッキリしていると言う事は、それだけ仕事が出来る大人だと言う事なのだろう。
なにより、姉がこんなにも幸せそうなのだ。
精霊王様が悪い方とは全く思えない、寧ろ全てにおいて恩人だ。
「それでは、ダリュアル様は今後、この城で生活をして頂くことに致しますので、お部屋を整え次第ご案内致します」
「宜しくお願いします」
「お父様とお母様は一旦領地に戻ってくださる? 許可を貰っているのはダリュアルだけなの」
「ああ、構わないよ」
「ダリュアル、ラシュリアの言う事と、精霊王様の言う事をよく聞いてね」
「はい」
――こうして、ダリュアルはその日から城での生活に突入した。
諸々生活面を整える為に三日は掛かるそうだが、それまでの間に纏めるべき書類をラシュリアと共にまとめる作業を先に行う事にもなったし、二人の精霊、ダリュートとアリュートもまた、そんな二人を応援すべく奮闘するのであった。
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更新が飛び飛びで申し訳ありません。
子供が熱出したりと色々ありました(;´Д`)
次回から色々また動き始めます。
新たなキャラも登場予定なので、そちらも是非お楽しみに!
弟くんにも今後頑張って頂きましょう!
毎日更新が、やはり色々と難しい時期になってまいりました。
子供の体調不良もあるので、
取り合えず一週間に一度は必ず更新するようには心がけますね。
応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
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