第24話 絶対おかしいだろう、これはよぉ。


 ----絶対おかしいだろう、これはよぉ。


「はぁー……」


 俺はギルドに併設された酒場で、酒を飲んでいた。


 そう、ヤケ酒である。

 もうやってられないから、飲まないとやっていけないのだよ。


「どうしたんですか? いきなり溜め息なんかして」

「そういうあなたは、嬉しそうですねぇ。受付嬢さん」


 めちゃくちゃ凹んでいる俺とは対照的に、いつもの受付嬢----俺の神様は、すっげぇ嬉しそうだった。

 まぁ、そうだよね……この人は、ギルドマスターから臨時のお小遣いをもらったんだもんね。

 ジョブをバカにされた(?)ことに対する慰謝料というか、ナロンというギルドマスターの善意のお小遣いというか。


 この神様、【トリックスター】のジョブからも分かるように、とにかく派手好きな彼女は、けっこうこの下界に馴染みまくってるんだよなぁ。

 お酒を買ったりだとか、服を爆買いしたりだとか。


「その臨時収入で、お酒でも買うんですか? お酒だったら、神の世界にすっげー美味しいお酒があるって、地上には伝わってますよ」

「あぁ……神のお酒、いわゆるソーマのことだね。あのお酒は確かに極上で、地上に並ぶ物がないってくらいにバカみたいに美味しいんだけど、美味しすぎて、飲んだらすぐに極楽な気持ちになっちゃってさぁ~」

「はぁ……つまり?」

「つまりは、飲んでも酔って楽しめないってこと! 酒は酔って、楽しまないと!」


 どうやらうちの神様は、完璧なるソーマっていう極上のお酒よりも、地上の、神様の世界に比べたらお粗末なお酒の方が良いみたいである。

 カミヨ様の"酔うのが楽しい"だなんて、俺には分からん。

 俺だったら、そのソーマって酒を飲んで、今の嫌な気分をすぐさま忘れたいって思うから。


「----んで? どーして、ブラちゃんはそんなに落ち込んでるのかな?」

「あぁ、ナロンに言われてなぁ……」


 と、俺はナロンから貰った金貨袋を取り出す。

 カミヨ様が受付嬢として仕事して、依頼した《暴れるタツヤ退治》の報酬である。


「あぁ、それってあの時の報酬? もしかして、私がブラちゃんの加護を与えた神様だから、疑われてるとか?」

「カミヨ様は、疑われないように受付嬢としての仕事もきちんとしてるでしょ? ナロンは、そういうのでは差別しない冒険者だ」


 そういう丁寧な性格の冒険者だからこそ、こんな短期間でギルドマスターにまで成れたというべきかもしれないけど。


「そう、ナロンは【魔法使い】として、ちゃんとしているタイプの【魔法使い】だ」


 そう、"自分は魔法を使えるエリートなんだぞ!"とか、そういうエリート意識はなく、ただ純粋にルールに乗っ取って生きている女だ。

 賄賂だとか裏工作だとかは一切通じず、その代わりにちゃんと正当な評価はする。


 それが、この街の新しいギルドマスターのナロンと言う女である。


「----で、そういう女なので、俺は冒険者資格を永久停止された訳だ」

「ごめん、全然意味が分かんないんだけど……なんで、それで冒険者資格が永遠停止されちゃうわけ?」


 訳が分からないとカミヨ様は言うけれど、そんなルール大好き少女だから、俺の冒険者資格が永遠に停止になる訳なんだよ。


「ユウキとチエの2人なんだけどな……あの2人、【剣の勇者】になったんだ」

「え? なにそのスピード出世?」


 俺がタツヤと戦っている時、ユウキとチエの2人は、聖剣ドラディアブレードを持つオークと戦っていたらしい。

 で、聖剣回収の際に、聖剣が新たな持ち主にチエを選んで----


「拒否して、2人で聖剣をぶっ壊したらしい」


 その時、ユウキとチエの2人に、聖剣すら壊せるっていうスキルを与えられたから、神様達の間でも、色々と問題になっていたみたいだな。

 まぁ、あんなタツヤを勇者にするだなんて、絶対、ろくな神様じゃないもんなぁ。


「ほうほう、それでなんで2人が【勇者】になるの?」

「聖剣ドラディアブレードは破壊されました。だが、聖剣ってのは俺の理解の外の理屈で動いているらしい」


 2人は聖剣を破壊し、破壊された聖剣の一部は2人の剣に吸収された。

 2人の剣は聖剣の一部を吸収して、疑似的な聖剣になった。


 その名も、疑似聖剣ソルナブレード。



===== ===== ===== =====

>【疑似聖剣ソルナブレード】

 勇者の聖剣である聖剣ドラディアブレードの破片を吸収することによって生み出された、疑似的な聖剣。聖剣ドラディアブレードと同列の剣

 特殊スキルとして、【成長グロウアップ】のスキルを持ち、持ち主の成長に合わせる形で、剣としての力も成長していく、生きる剣である

===== ===== ===== =====



「で、疑似が付くとは言え、聖なる武器を持った2人を、ギルドマスターとしては【剣の勇者】として扱う事となった」

「オーケー、ここまでは分かったよ」


 「そっかぁー、あの2人が【勇者】ねぇ~」と、感慨深い表情を見せるカミヨ様。

 まぁ、俺だって2人がそこまで成長してくれただなんて、師匠としては嬉しい限りなんだけどね。


「----でも、聖剣ドラディアブレードは壊された訳じゃない」


 そう、疑似聖剣ソルナブレードは生まれ、代わりに聖剣ドラディアブレードは壊された。

 聖剣ドラディアブレードは【勇者】である証であると同時に、この国の宝だ。

 タツヤが持ち歩けてたのだって、【勇者】として選ばれたのもあるけど、国がちゃんと許可を出したってのもあるから。


 そんな、大切な聖武器が壊されたんだ。


 誰かが、その壊した責任を取らなくちゃいけない。


「本来なら、壊した2人が責任を取るんだけど……ほら、2人とも【勇者】になったじゃない」


 あの極悪卑劣なタツヤですら、捕まえなかった国が、2人を裁く訳ないじゃない。


「----で、直接の責任者として、俺が責任を取らされました」

「うわぁ~、大変だねぇ、ブラちゃん」

「そうですよ、はいっ! 以上っ! ちくしょぉ、やってられるかっ!」


 ちくしょぉぉぉぉ、なんであんなに頑張ったのによぉぉぉぉ!

 冒険者資格がないと、依頼とか受けられないし、今とほとんど状況が変わってねぇじゃねぇか!


 しかも、冒険者資格の永久停止だ。


 剥奪だったら、再発行して、また最低ランクのGランクから、またコツコツと頑張れば良い。

 けれども、ただ停止しているだけだから、冒険者資格としては残っている訳で、どうやら再発行には応じてもらえないらしいんだ。


 最悪だ、ナロンも元パーティーメンバーになんつー処遇を考えやがる。

 ルールを守っての事らしいが、それでも酷すぎる。


「あー、もうやってられないから、別の街に行こうかな」


 【千軍万馬】のリーダー、【剣士】のイキレウスさんは、ここから山を3つほど越えたところにある隣の国で副リーダーと一緒に再出発を始めたらしい。

 今からでも遅くないから、2人に合流して----


「……って言いつつ、しないんでしょ? この街から出るって事」


 と、これからの将来について真剣に考えていたら、カミヨ様に言われてしまう。



「ブラちゃんがどういう吸血鬼だとかは、ちゃーんと分かってんだからね。

 カミヨ、これでもブラちゃんに加護を与えている神様なんだからね♪」


 ----だから、ブラちゃんが、嘘を吐いても分かっちゃうんだから。


「ブラちゃんは、私と一緒で、この街の雰囲気が大好きで、そのまま居ついちゃったんだよね?

 もう第二の故郷レベルになっちゃってるから、この街から出づらくなってるんだよね?

 ----第一の故郷が、"あんな風になってるから"」


 "どう合ってる?"とばかりに、カミヨ様は俺に視線を合わせてくる。


「(間違っているかを聞いているとかではないでしょ、その顔は……)」


 どちらかと言うと、合っている事の再確認という感じで。

 自分が間違っているとか、そういうことを全く思っていない顔である。


「……ったく。他者の考えを完璧に読み取るって、普通の人間にも、同じ吸血鬼だったとしても出来ませんよ」

「当然っ! なんせ、こちらは神様、ですんでっ!」


 なんて言うか……カミヨ様と話していると、自分が悩んでいたのがバカバカしくなるよなぁ。

 神様全体がこうなのか、このカミヨ様だけが特別なのかは分かんないけど。


「それにっ! お金を稼ぐ方法だったら、その【勇者】となった2人に頑張って貰えば良いじゃないですか!

 と言う訳で、ほらっ! これっ!」


 どーんっ、と、カミヨ様は銅貨や銀貨が詰まった袋を、俺の前に置く。

 

「なに、これ?」

「その2人が、ギルドに預けた報酬ですよ。師匠であるブラちゃんに対する指導料の」

「ほぉ~、これが」


 俺は感心しながら、袋の中を確認していく。

 金貨こそないが、銀貨は彼らのランクから考えるとけっこう多くて、これだけ集めるのは苦労したんじゃないかって思えてくる。

 それこそ、報酬のほとんどを、こちらに回したんじゃないかってくらいに。


「(なんだよ、2人して)」

「おやおやぁ~? なーんか嬉しそうな顔してない、ブラちゃん? 主に、最初の月収のほとんどを親への仕送りに当てる、親孝行への息子達への感謝を感慨深く味わう親目線的な?」

「どういう目線だよ」


 でもまぁ、2人がここまでやってくれるのならば----


「師匠としては、もうちょっと頑張ってあげようかな」



 そうだなぁ、次はなにを教えようか。


 とりあえずユウキはパーティーメンバーを率いる立場にあって、その分、チエは今、ソロ冒険者って事になってる。

 1人で冒険するソロ冒険者が悪いって訳ではないが、初めのうちは、何人かのパーティーを組んで、冒険した方が良いだろう。


 ----決めた、まずはそこから教えてあげよう。


「おっ? なになに? なーんか、面白そうなことを考えちゃったの?」

「うるさいですよ、流石に教えませんって」

「え~! つまんない! つまんないから、教えてって!」


 その後も、うざ絡みを続けるカミヨ様とのお話に笑いつつ、俺は注がれてある酒を口にする。


 さっきまでよりも、断然、お酒は美味しく感じた。

 それはやっぱり、2人の成長が嬉しかった、というのがあったんだろうけどね。



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【Tips】師匠

 未熟な弟子を導く者

 弟子の成長は喜ばしく、そういった時に呑む酒はまた格別である

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