第23話 イカレたメンバーを紹介するぜ!


「----と言う訳で、世界を担う【剣の勇者】タツヤ・ドラゴニック・イチノセは、1年間の冒険者資格停止とするっ!

 ----ってな感じでどうかしら? 2人とも?」


 目の前で、ギルドマスターの席に悠然と座る彼女----Sランクパーティー【千軍万馬】の元メンバー、【魔法使い】のナロンは茶目っ気交じりで、そう尋ねた。


「いっ、良いんじゃないですかねぇ……」

「ただのギルド受付嬢的にも異論なく……」


 一方で、彼女の前に座る俺達は、ビクビクと震えていた。

 あっ、俺達ってのは、俺と、いつも話している受付嬢さんのことね。


 いやぁ、最初は空いていたギルドマスターに、顔見知りがなったってことで、すっごく安心してたんだけど----


「----そこ、姿勢を崩さない」

「「はっ、はいっ!!」」


 なんで、俺達……ギルドマスターの部屋で、正座させられてるの?

 この部屋、前のギルドマスターがただただ金に物を言わせて、見栄え重視で揃えてるから、絨毯とかすっげぇ毛とか立っていて、正座してると痛いんだけど。


「はぁー……"良い"とか、"異論ない"とか、そういう問題じゃないでしょ。これ」


 眉の間に、長年の癖でこびりついてしまっているしわを手で解しつつ、ナロンは頭を抱えていた。

 彼女の手にある資料には、今回の事の顛末----タツヤがやらかした事などが、それこそ事細やかに書かれている。


「こんなの、勇者以前の問題よ。魔物を引き連れて、街を襲うだなんて、勇者としてあり得ないわ。

 確かに国王と同じくらいの特権はあっても、同じ、ではないわ。あくまでも同じくらい、こんなことを庇えるだけの特権はないわ。むしろ王でも死罪級よ、これは」

「で、ですよねぇ~。まったく、ギルドマスターは、物事が良く分かってらっしゃる~」


 明らかにおべっかを使った受付嬢に、ギロッとした目つきで、ナロンが睨みつける。


「えぇ、そうね。あのタツヤをぎゃふんっと言わせるため、ギルドマスターになって良かったわ」


 そう、なんとこの【魔法使い】様、タツヤにぎゃふんっと言わせるためだけに、ギルドマスターになったのである。

 冒険者資格停止の宣言を受けたあの時、なにも言わずに消えたのは、そのための教育を受けるためだという。

 ほんと、行動力の塊……いや、この短い期間にギルドマスターになるほどの試験をゼロから突破したと考えると、なんて言うか執念めいたモノを感じるわ。


「まぁ、こんなに短い期間にタツヤが没落するんだったら、あんたと同じく、この辺境の地----【デビュルント】に留まっておけば良かったわ」

「俺としては……嬉しいんですけどねぇ。勝手知ったる、信頼できる仲間が、ギルドマスターになってくれたら」

「おべっかを使っても、意味はないわよ。【魔法使い】である私は、そんな事で融通したりしないかしら」


 「でも、褒められて嬉しくない訳ではないから」と、ナロンは甘いお菓子を戸棚から出してくれた。


「(相変わらず、面倒な性格をしているなぁ)」


 パーティーメンバーを組んでいた時から、彼女は言葉こそぶっきらぼうではあったけれども、その分、誰よりも優しかった。

 メンバー全体の状態を常に確認しつつ、その場に一番あった魔法を自分で判断して放てるのは、ナロンの魅力であって、長所である。


 全ての魔法を使う事が出来る【魔法使い】系統の上級職【賢者】は、根気よく探せば彼女以外にも見つかるだろう。

 しかし、何も言わずとも、こちらが使って欲しい魔法を、思う前から発動するなんて芸当は、学んで出来ることではない。


 彼女が【魔法使い】としていたからこそ、【千軍万馬】はSランクパーティーでいられたのだ。

 もし別の者を雇っていた場合、既に解散していたのかもしれないから。


「(そんな彼女だから、ギルドマスターになってくれて嬉しいんだ。彼女がマスターなら、このギルドはもっと発展し、もっと有能な人材が入ってくることだろう)」


 そして、俺も、もっと楽に稼げるだろうさ。


「まぁ、それよりも驚いたのは、あなたが懇意にしていた受付嬢のことよ」

 


 ----まさか、神様だったなんてね。



「思いもしなかったわよ。"怪盗トリックスター神のカミヨ"さん?」


 ナロンがそう追及すると、俺の隣にいた受付嬢----いや、俺に【トリックスター】のジョブを授けた神のカミヨ様は、


「あらあら、バレちゃった☆」


 あっさりと、自分が神であることをばらした。


「……あちゃあ~」


 うん、想定通り。

 神だとバレたのに、カミヨ様は「いやぁ、【暗殺者】系統以外の人にバレたのは初めてだね♪」と、逆に嬉しそうである。


 カミヨ様らしい、いや、想定通りであるからこそ、俺はガックリと、頭を悩ませていた。

 俺以上に困惑していたのは、あっさりと神であることを認められて、呆気に取られているナロンの方だろう。


「色々と、10個くらいは認められなかった場合の策を考えていたから、逆に呆気なさ過ぎて驚いたわよ。

 神様にしては、ちょっと馴れ馴れしすぎない? あんたブラドの所の神様?」

「えぇ~☆ 神様って、案外こんなものよ♪ ジョブを授けるのだって、人間の事が大好き----それだけなんだからね☆」

「……ほかの神様がどんなのかは知らないが、うちん所の神様はこんなんなんだ」


 なにせ、上級職【トリックスター】を得るための条件に、"地上に降りている神様本体を見つけ出せ"だもんなぁ~。

 当てもなく探すとか、そういうめちゃくちゃ厳しい感じになるかもと身構えていたら----あっさりと、ギルドのメンバーで調べたら、見つかったんだよなぁ。


 ……っていうか、隠す感じじゃなかったんだよなぁ。


「----未だに思いますよ、なんで受付嬢の名前を、"カミヨ・トリックスターノ"なんて名前にしてんだって」

「え~、こう言うのは分かりやすさ重視ですよね☆ それに、憧れてたんですよねぇ~♪

 "ギルドで働くただの受付嬢! しかしながらその正体は【暗殺者】の上級職を授ける神様だったぁ!"っていうのは、すっごく良いと思いません?」


 キラッと、なんかカッコつけた顔を披露するカミヨ様。


「……分からないわ、あんたの所の神様の考え方は」

「……大丈夫だ、俺も良く分かってないから」


 俺がこの辺境の街デビュルントを離れなかったのも、タツヤにバカにされたままなのが悔しかったよりも、この神様を辺境の街に残していくのが怖かった、ってのもあるかも。

 なにせ、この人の方針は、中級職のジョブレベルがちゃんと足りているのならば、【暗殺者】じゃなくても与えるつもりだからな。

 "自分が神だって見破るだなんて、あなたは凄いですね"的な感じで。


「上級職だけあって、【トリックスター】のスキルの恐ろしさは、俺が一番知ってますからね。

 下手に自分と同じ、ジョブの持ち主が増えるのは、出来る限り阻止しておかないと」

「あぁ……確か、あのタツヤも言ってたわね。【トリックスター】の持つチートスキル、【絶命剣】にやられたって。

 確か、"触れずとも相手の最大体力を削るチートすぎるスキル"って」


 まぁ、そういう説明をしたなぁ。


「本当に、そんな便利すぎるスキル、あるの?」


 彼女が疑惑の目を向けている。

 まぁ、そんなスキルがあるのならば、俺達と一緒に冒険なんてする必要ないからなぁ。


「----ねぇよ、んな便利すぎるスキル」


 だから、きっぱりと否定しておいた。


 あの【絶命剣】のスキル----簡単に言えば、あれは派手すぎる血抜きだ。


 剣を振ると同時に、剣の中の血が相手の中の血と一緒にどばぁーって、出るだけ。

 量としても、大した量じゃなくて、せいぜい1回振る毎に、相手の身体から血をほんのちょっぴりいただくだけ。

 けれども、血ってのはやっぱり重要なもんで、実際はそんなに失ってなかったとしても、自分の身体から血が大量に飛び出したら、危険を疑うだろう?

 

「【絶命剣】は、血を大量に失ってると勘違いした相手を気絶させる、血抜きのスキルだよ」


 だから、本来ならば人間とか相手には効果ないんだよなぁ。

 俺が言っていることが嘘だって事は、ステータス画面を見れば一発で分かるわけだし。

 まぁ、タツヤにそんな事を考えさせる前に、勢いでねじ込んだ訳なのだが。


「なるほど、ね。あんたの【トリックスター】というジョブは、【暗殺者】という道を辿りながら、その本質はまるで逆ね。ただ派手で、人目を惹く代わりに効果はそれほどではない、ね。

 ジョブを選ぶのは自由だけど、なんとも変なのを選んだわね」


 ----まぁ、確かにそう言われてもおかしくないくらいに、このジョブは変だけどね。

 【暗殺者】系統のジョブの上級職なのに、手に入るスキルは【絶命剣】を始めとして、派手に人目を惹く割には、それほど意味があるとは思えない。


 人目を忍んで殺すなんてのは、上級職までくる奴らにはもう朝飯前だ。

 だからこそ、今度は人目を惹きつけて殺す、などという、別のアプローチを試す。

 それが、この【トリックスター】というジョブの本質だ。


 そんな変なジョブだが……使って見ると、案外悪くないのだ。

 派手な分、本当に見られたくないモノを隠すのも簡単になったし。


「だから……このジョブ、俺はけっこう気に入ってるんだ。

 あんまり、バカにしないでくれる? うちの神様がくれたジョブ」

「ぶっ、ブラちゃん……そんな嬉しいことを言ってくれるなんて……カミヨ、感激ぃ!」

「バカにはしてないわよ、早とちりしないでよね」


 と、その口ではナロンはそう言っているけれども、彼女は机の中から金貨が入っているだろう小さな袋をカミヨ様に渡していた。


「----でもまぁ、神様のジョブをバカにしたことに関しては、ちゃんと謝らないとね。本当に悪か----」

「うわぁ~い! 臨時収入だぁ~! 嬉しいなぁ♪」


 ひょいっと、カミヨ様は金貨の袋を奪い取ると、そのまま袋に頬擦りしながら、部屋を出て行ってしまった。


「……あの人、本当に神様ですか? 詐欺師か何かなんじゃ?」

「いや、本当に神様なんだよ」


 すっごい矛盾して思えるけれども----それがうちの神様、だからね。




「さて、次はあんたのことについて説明するわね」


 と、ナロンはさっきと同じく神妙そうな面持ちで、新しいギルドマスターは言い放っていた。



「ギルドマスターとして、初めての宣言をさせていただくわね。

 ----冒険者ブラド・ナルさん、あなたの冒険者資格を永久に停止させていただくわ」



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【Tips】練度変更ジョブチェンジ

 その者が持つジョブを、新しい別のジョブに変えること。様々な条件をクリアすることで、さらに上位のジョブを使える事が出来るようになる。また、特殊な条件によって【練度変更】されることもある

 【練度変更】には大きく分けて2種類あり、"下級職のレベルをMAXまで上げて、特殊な条件で上級職に変える"という一般的な方向。これは下級職のジョブの神様の加護の上に、上級職のジョブの加護を加えるという方向で、加護を与えて貰っている神様の数が増えている

 もう1つは、"神様が本当に与えたかった加護を授ける"という特殊な方向。この場合は、新しく使える力が増えてるだけで、神様の数は同じである

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