第18話 ちっとも公平じゃない決闘にて

「(素晴らしい! 素晴らしいぞ、このスキルは!)」


 【剣の勇者】タツヤ・ドラゴニック・イチノセは、目の前の光景を見ながら、自身が手に入れた新たなスキル----【行動封じの鎖】というスキルの解説欄を開く。



===== ===== ===== =====

>【行動封じの鎖】

 対象の行動を封じる鎖を放つスキル。鎖1つにつき、対象の行動1つを鎖が巻き付いている間、封印することが出来る

 鎖の長さは一定で、使える鎖の数はスキル使用者のレベル×10

===== ===== ===== =====



「(私のレベルは、8。たった、8くらいしかない。

 あのレッドドラゴンを倒した際に結構上げたはずなのだが、かなり下がってしまっている)」


 タツヤのレベルが下がっているのは、聖剣ドラディアブレードを使えなくなってしまったため……つまりは、あのブラドのせいである。

 タツヤはそう確信し、自分が今使える80本を、どう使えばあの【暗殺者】をみじめに殺せるかを計画を立てた。


 魔物達の"思考"を封印させて、従順なる配下として。

 アイツとの決闘の邪魔になる【剣士の頂】の連中は、オーガ達の体内に潜ませた鎖で、"剣術"を使えなくしておいた。


「(あとは、なにもせず、ただ座してブラドを待つだけ)」


 ----しかし、それでは面白くない。

 ----聖剣を使えなくなってしまった、憂さ晴らしにもならない。


「せめて、お前らの身体に消えない傷を残すくらいはしても構わないだろうなぁ」


 ニタニタと笑いながら、タツヤは懐から仕込み刀を取り出す。

 そして、そのまま動けない【剣士】達の身体に刀を入れようとして----


「----貰った!」

「----そう来ると思ってたぜぇ!」


 その隙を狙って攻撃しようとしてきたブラドの身体に、【行動封じの鎖】を叩きこんでやった。



☆ ☆ ☆


「ウグワーッ!」


 タツヤに反撃カウンターとして鎖を叩きこまれ、俺----ブラド・ナルは、無様に転がって吹っ飛ばされる。


「「師匠っ……!?」」

「あぁ、問題ない。問題ない。だからお前らは、オークを倒して、倒れてる奴らをなんとかしとけ」

「「はいっ……!」」


 吹っ飛ばされた俺を助けに来た、ユウキとチエの2人に指示を出す。

 指示を出された2人はオークを淡々と倒して行き、【剣士の頂】の連中を助けていく。


「(まぁ、チエもオーク程度ならば、易々と倒して行くな)」


 チエの悩みは、自分がこれから兄であるユウキに置いて行かれるんじゃないかという、そういう類の悩みである。

 普通のオークぐらいならば、普通に倒すくらいの力はある。

 自分が勝てないオークには挑まないだろうし……任せて大丈夫だろう。

 


 吹っ飛ばされた俺はそのまま、何事もなかったかのように立ち上がる。

 ひょいっ、と何事もなかったように起き上がって、左腕をぐーるぐる、と。


「(うん、右腕が動かないな)」


 ----血液走査スキャンブラド

 血をぶん回したり、武器にしたりと、色々と操る《操作》と違って、これは体調管理を目的とする《走査》。

 二日酔いになっていないかとかを見極めるくらいしか、最近は使ってなかったんだけれども、【行動封じの鎖】などと封印系スキルっぽく言っていたので、使ってみた。


 結果、俺の右腕が使えなくなってしまっている。


「(聖剣はあのオークの腕の中だから、聖剣とは違うスキルか)」


 タツヤの横で、ボロボロになった聖剣を握りしめているオークを見て。

 これは、聖剣ドラディアブレード由来のスキルではない。


 この鎖のスキルは、タツヤが聖剣とは無縁の所で手に入れたスキルなのだろう。

 どのような手段で手に入れたのかは分からんが、なんと厄介なスキルを手に入れたのだか……。


 さっき当たった鎖が、右腕に絡みつき、スキルとして俺の右腕の使用を封印している。

 逆に言えば、それ以上はなにもしていない。

 あくまでも、右腕が使えなくなっているだけだね。


「----まっ、ハンデと考えれば、そこまでではないな」


 動けなくなった右腕を諦めて、俺は左腕で長剣を握りしめる。

 長剣をタツヤに向かって突き付けるように向けると、奴は「あぁ、良いだろう」と余裕の表情を見せた。


 俺なんかの長剣なんて、まるで危険にも思ってないみたいだ。


「そうだ、そうだっ! 一撃で、お前の四肢をすべて封印して動かなくすることも出来たんだ。

 お前との再戦のために、封印するのを腕1本だけにしておいたことを、ブラド、お前は感謝して、涙流すところだろ?」

「あぁ、そうだな。ありがたいよ、本当に」


 今のコイツのスキルならば、俺の右腕だけではなく、両腕を使えなくしたり、もっと言えば呼吸すら出来ないようにする事だって出来ただろう。

 けれども、奴の無意味な誇りプライドが、俺との再戦を望んだのか。


「まだ、聖剣は使えないのか?」

「うっせぇ! 私のような選ばれた者を、あんな小手先の手品で使えなくなった聖剣とお前が悪いんだ!」


 コンッと、隣のオークに持たされている聖剣を小突くタツヤ。


「……って、今はそんな事はどうでも良い! 再戦だ、選ばれた俺が吸血鬼なんかに負けるはずがねぇ!」

「それで俺を呼びよせるために、あんなにたくさんのオークを連れてやって来たと?」


 【剣士の頂】が数匹倒してくれたみたいだが、それでもまだまだいるオークの群れ。

 あのオーク全てが俺との戦いのために必要、だと?


「なんだ? 今度は鎖だけではなく、オークの群れもか?」


 自分のスキルだけではなく、今度は魔物まで引き連れてと?

 本当に、ただの決闘ならば、オーク数十匹なんて連れてくるなよな、まったく。

 

「いいや、違う。このオーク達はただの味方。と言うよりも、障害物だ。

 私とブラド、お前との戦いを邪魔する全てから決闘を阻む者達だ」

「なんだ、それは? 決闘を邪魔されないように、立って邪魔するとか?」


 ただオークを立たせるだけで、決闘の邪魔になれるとでも?

 オークなら、うちのユウキとチエの2人でも倒せるぞ?


「いーや、ただコイツらの役割は立って邪魔するんじゃない。

 ----"決闘のための、リング作り"だ」


 パチンっ、とタツヤが指を鳴らすと、他のオーク達の口が大きく開き、中から大量の鎖が向かってくる。

 10や20では済まないほどの、数多くの鎖が、俺とタツヤの2人を囲む。


「「師匠っ!」」

「大丈夫だ、安心してろ」


 ユウキとチエの2人の顔が、鎖によって見えなくなっていく。

 鎖によって、2人の顔も見えず、そして声をも聞こえなくなったため、俺の目はタツヤの方を向く。


 

「そうだっ! それでいいっ!

 お前は他に何も考えず、私と戦い! そして、死ねっ!」


 地面を、天井を、そして壁を。

 何十本にも及ぶ数多くの鎖で形作られていく、それは----


「----決闘場リングか」

「その通りだ。【行動封じの鎖】によって作られた、"脱出行動"を封じる決闘場だ」


 逃がさないために、作り出したリングか。


「安心しろ、ブラド。私は勇者だ、これは公平なる決闘の再戦だ。

 これは脱出を防ぐための、決闘をきちんと行うためのモノ。この鎖が襲ってきたりはしないからな」

「それは、実にありがたい話だ」


 まぁ、そもそも右腕を鎖で封印している時点で、公平という話云々はどこへやら、なのだが。


「お前はここで死ぬ、私の手によって倒されて殺される。それが運命だ」

「どうかな? 右腕1本くらいで、負ける気はしないんだが?」


 腕が1本使えないなどというこれくらいのピンチなんて、冒険者時代に幾度も経験してきた。

 そんな俺だから言える、これくらいで負けるなんてあり得ない。


「ははっ! 今の私が、反則級チートスキルの【行動封じの鎖】を手に入れた勇者の私が、腕が1本しかない吸血鬼に負ける訳がないだろう!」


 腕1本封じただけで、勝利を確信ねぇ……。


「ハハッ、ハハハハハハッ!」

「なっ! 何を笑っている、吸血鬼!」


 なにを笑ってる、って?

 そんなの、決まってるじゃないか。


 ----ワクワクしてる。


 そう、ワクワクが止まらないんだ。


「仮にも冒険者に登録していたのなら、"絶対"という言葉よりも、"冒険"を愛せよ。タツヤ。

 この状況から、この圧倒的に不利な状況からの勝ちって、それはワックワクの冒険じゃないか?」


 満面の笑みを浮かべ、今から始まる決闘とやらに想いを馳せる。


「聖剣を失くしたと聞いたが、なにやら面白そうなスキルを手に入れたみたいじゃないか。

 そのスキルで、どれだけ戦えるか、楽しみで仕方がないぞ?」

「良いじゃねぇか、もう1本くらい----足を封じておいた方が良かったかもなぁ。

 お前はこれからの決闘、何ら支障がないみたいだなぁ」


 ----だが、お前の弟子達は?


 タツヤは手にしている仕込み刀を、リングに捨てる。

 そして、リングの床として使われている鎖がパッカリと開き、その中から骨で出来た長刀が現れる。


 魔物ではなく、人間の骨を使った悪趣味な剣。


「私にこのスキルをくれた親切な女が、私のために作ってくれた剣。私がかの女から貰ったのは、スキルと剣だけじゃない。

 かの女は、私に1匹、特殊なオークをくれた。そう、聖剣を持たせていたあのオークだ」


 タツヤの言葉に、俺の頭の中で、聖剣を持って隣に控えていたオークの存在が思い浮かぶ。

 確か、聖剣持ちのオーク以外はリング作りのために、鎖を出していたが----


「(そう言えば、聖剣持ちのは鎖を出していなかったような?)」


 あのオーク、ただ聖剣を持たせていただけの、ただの荷物持ちじゃなかったのか?

 てっきり、そのためだけに置いているとばかりに思っていたのだが……。



「あのオークこそ、Aランク相当の上級オーク……その名も、英雄オークヘルトオーク

 卑しく女を漁る種族的な本質をも捻じ伏せ、ただ闘争にのみに身を任せる、オークの中の英雄」


 Aランク相当----つまりは、オークの中でも、かなりの上位種という事か。


「そんなあのオークに、【複写コピー】スキルは使えないが、それ以外は最高級の聖剣ドラディアブレードを渡してある。

 お前との戦いも楽しみだが、果たしてお前の弟子とやらは----あのオークの英雄をぶち倒せるタマか?」


 確かにそれが本当ならば、たかがFランクの冒険者のユウキとチエの2人に、万に一つも勝ち目はないだろう。



「----確かに、気になるところだな」

「ハハッ! それを見る事は、もうねぇだろうがなぁ~?」


 こんな試合なんかよりも、そっちの方が気になるなぁ。


 未来の英雄ユウキとチエが、オークの英雄ヘルトオークに戦いを挑む。

 とっても気になる、戦いではないかね?


「----まぁ、確かにうちの方の英雄には、勝ち目はないと思うぜ?

 もし勝ち目があるとするならば、チエの方かな?」


 そう、チエが本気ならば----英雄オークだろうと勝ち目はある。



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【Tips】行動封じの鎖オルトスチェイン

 この世でたった1つしかないユニークスキルの1つ。"この世"と"あの世"を繋ぐ、たった一つの門を封じている鎖をこの世へと呼び出して使うスキル。ただ本物を呼び出すことは出来ないため、あくまでもそれの模倣品である

 その鉄の鎖によってがんじ絡めにされた者は、その行動を封じられてしまう。行動1つを封じるので、それ以外は普通に使えるが、封印されてしまった行動はどんな手段だろうと解き放つことは出来ない

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