第12話 喰らえ、バーニングオークめっ!
《----グォォォーーーーンッ!》
真っ赤に熱く燃え上がる血が全身に巡っている、その上位種のオークは高らかに雄たけびをあげる。
雄たけびをあげると、その口からドロドロと溶岩のような血液が身体の外へと漏れ出して、全身を覆っていく。
あっという間に、溶岩の鎧を纏ったオークの出来上がりだ。
「うわっ、気色悪い」
本人にしたら、戦化粧のようなモノなのだろうけど、俺はその姿を見て素直にそう口にする。
「いや、だって口から出た溶岩を身に纏うとか、それって自分の血を全身に身に纏うとかと一緒だぞ?
----いや、口から出てるから、よだれ? やっぱり、よだれの方がマズいだろう。全身がよだれまみれとか、気持ち悪くて仕方がない」
《キッ、シャアアアア!》
俺の悪口に対して、オークが怒り眉になって、こちらに向かってくる。
別に悪口に腹を立てたんじゃない、そういうスキルなだけ。
----スキル、【挑発】。
対象1体に対して、スキルの効果により自分に攻撃を集中させるというスキルだ。
ユウキとチエに攻撃が行くと流石にまずかろうし、ここは俺が引き付けないと。
「(よし、上位種でも効いたな)」
この【挑発】スキルは、本来は【暗殺者】が覚えないスキルだ。
俺が使えるのは、使える人間に指導をして貰ったから。
スキルってのは、ほとんどはジョブが【
だが、別にスキルがなければ、出来ないってこともない。
現に、2人にはスキルとして発現する前に、【縦一文字斬り】と【横一文字斬り】の2つが出来るようになれたし。
【挑発】スキルを持った人に、どうすれば出来るのかを聞いた。
だから、出来る。
ただ、それだけにすぎない。
「まっ、劣化版でも、上手く行けたようだな」
《グバァァーオン!》
おっと、失礼。
そんな事はどうでも良いとばかりに、振り下ろしてきたデカい包丁を、俺はくるりと回転しながら避けて短刀で斬りかかった……って、熱っー!
「あぁ、もう! 熱すぎるぞ、ちくしょう!」
ポタポタっと、バーニングオークの身体から流れ落ちていく溶岩が落ちるたびに、彼の足元が赤い炎で燃え上がっていく。
さっきのバーニングオークを斬った時に使った短刀も、溶けている。
「まずいな……斬りかかれない」
短刀がダメとなると、次は----どうすれば良いだろう?
「(あぁ、こういう時、【魔法使い】のナロンのような魔法さえあれば済むのに!)」
後は、どうすれば良い?
アイツの溶岩が冷え切るのを待つ?
いや、あれが魔術の一種みたいモノなら、それを期待するのは薄いだろう。
それか、いっそ武器全てを失う覚悟で、特攻する?
バカみたいな発想だな、おい。
じゃあ、毒でも盛るか?
どうやって? そっちの方が難しいだろう。
「じゃあ、仕方ない。後は----」
"これ"と、俺は懐から青い球をバーニングオークめがけて、投げつける。
投げつけられた青い球はそのまま溶岩の鎧にぶつかって、強い冷気を発する。
《グォォォン!》
「相手を凍死させる際に使う球だ。ありがたくもらっておけ」
実際は、ギルドに新鮮な死体を求められた際に使う、凍結球だ。
魔物の中には、時間が経つと効能とかが薄れてしまう魔物も中にはいて、そういう時のために常にストックしている奴だ。
【千軍万馬】時代も、数回使っただけだが、まだ使えて助かったよ……。
「かのドラゴンですら、この凍結球を喰らえば半日は凍り付いてしまうという代物だ。そして、それだけの時間、凍っていれば色々とやりようが----」
《グッ、オオオオン!》
「----そう、やりようが……」
なんという事だ、あのオークは?!
あの凍結球を喰らって溶岩が凍り付いて動けないのに、それを口から出した溶岩で無理やり溶かして、動き出した、だと?!
「(ドラゴンですら、半日も凍らせるという触れ込みだろう!? まだ1時間も経ってないぞ、こらぁ!)」
まずい……凍結球も効かないとなると、本気で打つ手が……。
こりゃあ、一旦、ユウキとチエと一緒に撤退するべきだろうか?
撤退所を見誤って死ぬのもいる、死ぬくらいならば俺は潔く撤退を選ぶね!
カッコ悪いかもしれないけど、自分より強い奴に挑むだなんて無謀の方が、俺はカッコ悪いと思うね!
「ユウキ! チエ! ここは、一旦、帰って----!」
「とりゃああああ!」
帰ろうと、提案した俺に、ユウキが剣を振りかぶってくる。
必死な形相で、その眼にはしっかりと、戦う意思の炎が燃え上がっていた。
「(おいおい、おいっ! いきなりなんで、俺に剣を振りかぶってくる?! まさか、さっきの【挑発】の効果が、ユウキにもかかったのか?!)」
いやいや、【挑発】は、対象1体に対して発動するスキルだ。
バーニング-オークを既に対象としている以上、このスキルはユウキにはかからないはずなんだが?
「いっき、ますよぉぉぉぉ! 師匠ぉぉぉぉぉぉ!」
「----! そういう事ね!」
ユウキが大きく剣を振り下ろし、俺はそれに合わせるように剣を振り上げる。
----カンッ!
金属同士がぶつかり合う音が聞こえると共に、剣の間に黒い雲が生まれる。
「いくっす! 【落雷斬】!」
俺の剣を基点として、ユウキのスキルである【落雷斬】が発動する。
スキルの発動によって生まれた黒雲は、バーニングオークの頭上へと行くと、落雷というプレゼントを与えた。
《プギィィィィ!》
「効いてる! 効いてるみたいっすよ、師匠!」
「あぁ、そのようだ」
俺は指示していないのに、ユウキは率先して攻撃をしてきた。
俺の剣を使って、雷を落とすという【落雷斬】というスキルによって。
「(【落雷斬】が出す雷は、振り下ろした勢いによって威力が左右されるスキルみたいだからな)」
地面に振り下ろすよりも、俺の剣に当てる方が効率的だもんな。
地面に下ろすより、剣同士を当てる方が発動回数も多くなりそうだし。
まぁ、いきなり斬りかかられてびっくりしたし、そういうのは事前に教えて欲しかったけど。
けれども……いやぁ、自分から率先して強敵に立ち向かうだなんて、成長したなぁ。我が弟子は。
「なるほど、これが師としての喜びって奴か」
「行くっすよ、師匠! 覚悟は良いっすか!」
そう言いながら、ユウキは振りかぶり、
「あい、よっ!」
俺もまた、彼に合わせるように、剣を構える。
今から始まるのは、俺ことブラド・ナルと、ユウキ・ソルナの剣と剣のぶつかり合い。
ユウキの剣に合わせ、俺はそれに合わせて剣をぶつける。
俺も、ユウキも、もう既に上位種のオークの方は見ずに、だけれどもオークを倒すために剣を振るう。
「おい、ユウキ! ちょっとペースを上げるぞ!」
「了解っすよ!」
2人で剣をぶつけ合うスピードが上がれば上がるほど、バーニングオークを襲う雷雲が増え、それに伴って雷の数も同様に増えまくっていた。
もう既に、20発以上は当てているだろうが、まだバーニングオークは倒せてない。
「(けれども、時間の問題だ)」
そうして、さらに数十発後、つまりは俺達の剣のぶつかり合いがさらに数十を数えた後。
バーニングオークは倒れ----ユウキを真っ白な光が覆っていた。
「(まぁ、
===== ===== ===== =====
〇ユウキ・ソルナ レベルアップ 剣士Lv.1/20→2/20
>経験値が一定に達成しました
>体力に、上昇補正がかかります
>攻撃力に、大幅に上昇補正をかけます
>防御力に、大幅に上昇補正をかけます
>敏捷に、上昇補正をかけます
>スキル【静止の呼吸】を
>スキル【落雷斬・群れ雲】を取得します
>スキル【大切断】を取得します
===== ===== ===== =====
「やったっす! 【
ユウキは笑って、それぞれのスキルを確認していく。
===== ===== ===== =====
>【静止の呼吸】
呼吸のリズムを変え、一撃必殺の状態を作り出す呼吸法。このスキルを自動にしておくことで、敵を見つけた時に自動的にスキルを発動して、攻撃力などを上昇させます
>【落雷斬・群れ雲】
スキル【落雷斬】の派生スキルの一種。予め剣をぶつけて衝撃を刀身に溜めておく事で、雷雲を瞬時に複数、相手の頭上に出現させることが出来ます。最大5個まで
>【大切断】
勢いよく、相手に剣を振り下ろすスキル。スキルを発動することで、対象に大ダメージの縦一文字斬りを叩きこめます
===== ===== ===== =====
「おぉ~! すっげぇ、っす!」
「確かに、凄いな」
ステータスを見せてもらいながら、俺も頷く。
これでユウキは、5個の雷雲を戦闘開始直後に放てることができるようになり、剣を振り下ろすのだって今まで以上の威力の技を出せるようになった。
なにより、今までは意識してやっていた呼吸を、自動でやってくれるようになったことで、そこに使っていた頭脳を他に回せる。
着実な、レベルアップ。
そうして、ユウキ・ソルナは冒険者としての道を確かに歩み出した。
俺が剣を合わせていたけれども、あのバーニングオークを倒したのは、ほとんど彼の【落雷斬】のスキルのおかげだ。
彼のスキルがなければ、俺達は撤退するという選択肢しかなかったし、誰かがもっとひどい目に合っていたことだろう。
「(ただ、問題があるとすれば----)」
「はい。これで、すよね?」
すーっと、いつの間にか現れたチエが、俺の目の前に1本のキノコを差し出していた。
「うわっ! びっくりさせるなよ! でもまぁ、それであってるな」
採取用のギルド特製瓶の中で、淡く発光するマジックマッシュルームを見て、俺は頷く。
オークの群れ、それに上位種のオークという邪魔者もあったが、本来の目的はこのマジックマッシュルームの採取だ。
俺とユウキが戦闘している中、彼女はしっかり目的のモノを見つけ出して、採取出来たようだ。
「しっかし、綺麗に採取したな。傷一つない。これは、報酬の増額も期待出来るかも」
「うん……これしか、出来なかったから」
小さく、そう告げるチエ。
チエもまた、目的を果たした立派な冒険者だ。
クエストの達成というのも、冒険者にとっては重要なことだ。
だけども、多分----彼女の心中は。
双子の兄に。
同じジョブの兄に。
同じように訓練して強くなったはずの兄に。
自分が傷一つ付けられなかったオークを倒してしまった事態を見て、思う事は1つだけ。
「ねぇ、師匠……」
淡く光る瓶を持ちながら、彼女は俯きがちに尋ねる。
そう、多くの冒険者が至る、病。
「私……冒険者、向いてないのかな?」
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【Tips】
オークの上位種の1つ。一部のオークの心臓代わりの魔石が、火属性の魔力を過剰に吸い取ることにより、血を溶岩のように出来るようになったモノ
非常に好戦的で、自分の体内にある溶岩の血を纏わせることにより、相手の近接攻撃のほとんどを防ぐことが可能となった
戦う場合は、スキルや魔法などによって遠くから戦うのが望ましい
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